2015年

10月

27日

特集:インドびっくり経済 世界を席巻するインド人経営者 

マイクロソフト サトヤ・ナデラCEO

◇競争勝ち抜いたエリートが活躍


 サンジーヴ・スィンハ

(PwCジャパンディレクター)


 グローバル企業の経営幹部にインド出身者が就任することはもはや珍しいことではなくなった。米マイクロソフトのサトヤ・ナデラCEO、米グーグルのスンダー・ピチャイCEO、日本ではソフトバンクのニケシュ・アローラ副社長などIT企業での活躍が顕著だ。またドイツ銀行のアンシュ・ジャイン前共同CEO、米マスターカードのアジェイ・バンガCEO、そして米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のデブン・シャーマ元社長など金融機関にもインド出身の経営者が多い。学問の世界でも活躍している。インド準備銀行(中央銀行)のラグラム・ラジャン総裁はIMFのチーフエコノミスト、シカゴ大学教授を歴任した世界的に著名な経済学者だ。


 なぜインド出身者が世界の企業で活躍をしているのか。英語力をその理由とする人が多いが、実は英語を話すことができるインド人は1割程度と言われている。むしろ、多様性への柔軟な対応力と、厳しい競争を勝ち抜いた優秀な人材が海外に活躍の場を求めているということの方が重要だろう。

 

◇合格率50倍の名門校


 現在、インド国外に居住する世界の在外インド人は2500万人を超えると言われている。特に企業活動での活躍が突出しているのが、在米のインド人だ。20世紀半ば以降、米国の積極的な移民政策を受けて、多くのインド人が米国へと渡った。インド国内で理系の有名大学を卒業した人が米国へ留学し、卒業後はITエンジニアとして米国企業に就職する流れが1980年代以降に定着した。マイクロソフトのナデラCEOはその典型だ。南部ハイデラバード出身のナデラ氏は、インド国内の大学を卒業後、米ウィスコンシン大学とシカゴ大学で修士号を取得し、92年からマイクロソフトに勤務している。

米国企業にITエンジニアとしてインド出身者が就職する動きは、特に2000年問題において多くのITエンジニアが必要とされたことで加速した。多くのインド人企業家が成功していることで知られる米国シリコンバレーでは、企業のCEOの3割がインド系との統計もある。

 インドが理系人材を多く輩出する理由を語る上で欠かせないのが、インド工科大学(IIT)の存在だ。IITは理系最高峰の大学で、現在、インド国内19カ所にキャンパスがあり毎年約1万人が入学する。IIT出身者には世界的な研究者や企業家、官僚などが多い。グーグルのピチャイCEO、ソフトバンクのアローラ副社長もIIT出身だ。近年は、急速に経済成長を遂げるインドに帰国して、インド国内で起業するIIT卒業生も増えている。Eコマース大手のスナップディールやフリップカート、モバイル広告のInMobi(インモビ)はIIT卒業生が起こした企業だ。

 IITには世界で活躍するインド人の強さの秘密が凝縮されていると言えるだろう。

 一つは、競争力の厳しさだ。就業環境が厳しいインドでコネのない貧しい家庭の出身者が経済的に成功する近道は、名門大学に入学して専門知識を身に着けて自分の「ブランド」を磨くこと。そして有名大学卒のエリート層に加わることだ。そのため、IITの入学試験の競争率は非常に高い。合格者は「50人に1人」と言われている。ちなみに筆者が受験した90年当時は、「100人に1人」と言われていた。卒業までの道のりも険しい。試験はすべて相対評価で、成績が悪いものは単位を取得できず、退学を余儀なくされる。ふるいにかけられた一部の人間がIITの卒業生として社会に出ることができる。

 もう1点は、言語や宗教の多様性だ。IITでの授業は英語で行われる。インドは地域ごとに多様な言語が使われているためだ。西部ラジャスタン州で育ち、英語で教育を受けたことがなかった筆者は、入学当初、英語が十分にできず苦労した。多様な言語や宗教、価値観の人々と日常的に接するインドで育ったインド人のエリート層は、多様な人種が入り交じる欧米の企業においても、違和感なく人と接し、交渉する能力を持っている。


 ◇卒業生がネットワーク化


 インドの名門大学の卒業生はネットワークを形成し、互いに協力し合う関係にある。その動きは特にインド国内において顕著だ。名門大学卒業生のネットワークを利用して成功企業に次々と投資するベンチャーキャピタル、IvyCapなども出てきている。