2015年

11月

03日

エコノミスト・リポート:韓国「マイナンバー」の経験と教訓 2015年11月3日特大号

 ◇「住民登録番号」で電子政府化

 ◇韓国が悩む情報流出、成りすまし


趙章恩

(ジャーナリスト)


 日本で10月、12ケタの「マイナンバー」の記された通知カードの配布が始まり、来年1月からいよいよ利用が始まる。実際の利用開始を前にさまざまな期待や不安が渦巻いているが、早くから13ケタの「住民登録番号」と呼ぶ個人番号制度を導入している韓国では、番号は日常生活の至るところで利用する当たり前の存在だ。電子政府化もいち早く進めて国民の利便性も向上しているが、その一方で情報流出や成りすまし犯罪も後を絶たない。日本のマイナンバー制度が、韓国の番号制度から得る教訓も少なくないはずだ。

 韓国人が日本で暮らすようになると、例えば病院の窓口での手続きの煩雑さに驚く。健康保険証に診察券、薬局ではお薬手帳まで提示を求められ、保険証を忘れれば高い診察料を取られてしまう。しかし、韓国では「住民登録証」が1枚あれば、保険証や診察券、お薬手帳も必要ない。

13ケタの住民登録番号によって、健康保険の加入状況や診察履歴などのデータが管理されているからだ。日本の病院でもそうしたデータを管理しているはずなのに、わざわざ毎回、保険証などを提示しなければいけない理由が分からず、戸惑ってしまうのだ。

 韓国ではまた、日常の少額の買い物でもクレジットカード利用が一般的だが、このクレジットカードにも住民登録番号がひも付いている。年間のクレジットカードの利用金額が年間給与所得の25%を超える場合、300万ウォン(約32万円)を上限に超過額の15%が所得控除され、年末調整で税金が還付される仕組みだ。一方、クレジットカードによる取引内容は国税当局に送られ、小売店の売り上げの捕捉に用いられる。このほか、銀行で口座を作るにも、携帯電話に加入するにも、自宅で使うインターネットに加入する時も、住民登録番号は必要だ。


 ◇「スパイ対策」が発端


 日本のマイナンバー制度では、12ケタのマイナンバーはコンピューターで無作為に発生させた番号で、家族でも連番になったりはしない。一方、韓国の13ケタの住民登録番号は、上6ケタが生年月日(西暦の下2ケタと月、日の2ケタ表記)、1ケタの性別を示す番号、下6ケタが出生届を出した自治体の番号や出生届の順番などから成り立っている。つまり、いつどこで生まれたどんな性別の人なのかが、番号を見れば分かる仕組みになっている。筆者の場合、家族の住民登録番号の下6ケタは全員、似たような番号になっている。

 カードの券面や所持についても違いがある。日本では、マイナンバーや顔写真の記載されたプラスチック製の個人番号カードも発行するが、その申請はあくまで任意だ。韓国では、17歳になると誕生日から12カ月以内に市町村の役所へ行って指紋を登録。プラスチック製の「住民登録証」には氏名(ハングルと漢字)、住民登録番号、住所、発行した市町村名、発行日に加え、裏面には指紋も記載される。この住民登録証が韓国では公的な身分証となり、17歳になっても取得しなければ過怠料を徴収される。

 韓国で住民登録番号制度が始まったのは1968年と、すでに50年近くの歴史がある。導入のきっかけは同年、当時の朴正煕(パクチョンヒ)大統領が青瓦台(大統領府)で朝鮮人民軍のゲリラ部隊に襲撃される暗殺未遂事件が発生したことだった。北朝鮮のスパイを選び出す目的で住民登録を実施し、個人に番号を付ける制度がスタート。また、この時から出生の届け出と同時に住民登録番号を付けることにもなった。当時はIT化も進んでいない時代。住民登録番号を生年月日などと関連させたのは、個人情報をあえて露出させることでスパイではないことを証明する必要があったからだろう。

 住民登録番号はその後、さまざまな分野へ活用の範囲が広がっていき、現在では税や年金、医療、選挙、兵役、教育などで利用されている。日本のマイナンバー制度では税、社会保障、災害対策の3分野でのみ利用が始まり、警察の捜査では使えないが、韓国では令状があれば捜査でも使うことが可能だ。また、行政ばかりでなく、民間でも会員登録の際の本人確認の番号などとして幅広く使われ、国民の生活にすっかり浸透している。つまり、韓国人にとって住民登録番号は、生まれた時から存在する「当たり前」の番号であり、日本のように番号制度がなかった国に来て初めて、その違いに気付くことになる。………

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