2015年

11月

03日

特集:乱高下でも勝つ株・投信・為替 2015年11月3日特大号

 ◇世界経済と市場を揺るがす米国、中国、独・欧州リスク


白川浩道

(クレディ・スイス証券チーフエコノミスト)


 世界経済は2010年以降、米国の積極的な金融緩和と中国の経済成長を2大けん引役に、3%台前半の成長を続けてきた。世界景気の持続的な回復への期待と低金利の継続はリスク資産への資金流入をもたらし、株や不動産価格を押し上げてきた。

 しかし、市場を取り巻く環境は変わりつつある。この先、リスクイベントが目白押しだからだ。予想以上に大幅な米国の利上げ、中国における債務危機の発生、ギリシャ危機の再燃といったリスクに翻弄(ほんろう)され、市場が再び荒波にもまれる可能性が高まっている。


 ◇リスク① 大幅な米国の利上げ


 一つ目のリスクは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げである。市場の基本的な想定は、「仮に年内に利上げを開始できたにせよ、来年後半にかけての累積利上げ幅は0・5~0・75%の小幅なものにとどまる」というものだ。金融市場には「FRBの金利政策運営は市場に親和的なものになるはずだ」という強いコンセンサスがある。

 こうした見方を後押ししているのは、①商品相場の低迷で輸入物価が下落傾向、賃金伸び率は低水準であり、インフレ率が加速する可能性は低い、②中国景気が鈍化するなか、FRBは他の新興国経済に不調が目立つようになっているという事実を無視できまい、という理解である。

 FRBがこれらの動向を注視しているのは事実だ。例えば、9月17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文には、「最近の世界経済・金融市場の動きが米国の景気と物価に悪影響を及ぼす」という趣旨の文言が付け加えられた。また、フィッシャー副議長は「FRBは金利政策の決定に当たって世界経済へのインパクトに配慮する」旨を指摘している。

 しかし、実際にはFRBは、市場が思うほど配慮を見せない可能性がある。FRBが12月に利上げを開始したうえで、16年中に累積で1・0%を上回る利上げの断行を示唆することもありうる。米国経済に再び何らかのバブルが発生するリスクがあるからだ。超低金利政策の長期化が経済に好ましくない不均衡(バブル)を発生させるかもしれないという警戒感はあろう。

 米国でバブル発生の兆候はあるのだろうか。まず注目すべきは住宅市場である。米国の中古住宅価格は、11年前半を底に上昇に転じ、12年以降の累積上昇率は全米平均で3割弱に達した。特に西部での上昇率が激しく、累積上昇幅は50~60%。価格水準も、全米平均でサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)バブル期のピーク(07年央)を超えた。

 08年にかけては、住宅を担保にしたホーム・エクイティ・ローンが隆盛をきわめたが、最近は自動車ローンが年率9~10%程度で増加している。消費者向け信用(融資・保証など)市場もバブル的な色彩を強めつつある。

 今のところ、FRBは資産・信用バブルを警戒する姿勢を明示的には示していない。しかし、「完全失業率の5%近傍への低下が将来のインフレリスクを高めている」と主張することで、連続的な利上げを示唆することは可能だろう。その結果、長期金利が上昇し、株価とともに不動産価格が下落したり、消費者ローンの需要が弱くなれば、それは歓迎すべきものになる。FRBが「そろそろバブルの芽を摘んでおこう」という発想を持つ可能性は十分にある。金融市場が予想外にタカ派的なFRBの政策姿勢に驚くリスクはあるのだ。


 ◇リスク② 中国の債務危機発生


 次に、中国経済である。経済成長率とインフレ率の低下傾向が強まるなか、企業と地方政府の債務危機的な状況が発生するリスクを警戒する必要がある。

 一般に、中国の金融システムは欧米と違って自由化・民営化されていないため、危機への耐久力が高いとされている。実際、大手銀行の多くはいまだに政府系であり、預金取り付け発生のリスクは無視できるほど小さいと考えられている。

 しかし、バブルの発生が企業の過剰債務を経由して、銀行の不良債権拡大→金融危機発生→貸し渋りの深刻化→デフレ状態への突入という流れをもたらすというのが、これまでの欧米諸国の経験である。中国経済は例外であると言い切れず、市場が不安定化するイベントが発生するリスクもある。

 ここで、国際通貨基金(IMF)が過去1年に公表した複数のリポートから、いくつかの数値を紹介したい。

 まず、中国の国内信用残高のGDP比は13年末で200%強であるが、うち150%程度が企業部門向けである。IMFの分析によれば、1人当たりGDPの水準と国内企業向け信用残高GDP比は正相関の関係(1人当たりGDPが増加すると、金融システムが発達し企業信用市場が拡大する)にある。中国は南アフリカ、ベトナム、タイなどと並び、要注意国(妥当と考えられる水準以上の企業向け信用残高が存在)の一つである。

 さらに、企業負債のうち3割程度を建設・不動産業界向けが占め、同業界のレバレッジ比率(総債務・株式資本比率)は200%超に達し、全産業平均の125%を大きく上回る。IMFの分析によれば、建設・不動産業界の企業利益が20%減少した場合、企業部門全体の負債の約4分の1が破綻債権となる可能性もあるとされる。

 また、中国の地方政府の債務問題も懸念すべき状況に入りつつあるようだ。地方政府債務残高(保証を含む)の対GDP比は約20%と高くはないが、①民間資金を取り込んだ高レバレッジ型の地方政府プロジェクト(LGFP)向けの債務が約50%を占める、②16年には地方政府借り入れ(保証を除く)の約3割が返済期限を迎える、③返済額の地方政府税収比率は60~70%に達する見込みである、④海南省など一部の省や、爆発事故が起きた天津市など一部の直轄市では、LGFP向けの負債残高が地方税収の5~10倍に達している──などの問題があるとされる。

 LGFPの採算が悪化すれば、一部の大手銀行の不良債権が大きく増加するリスクがある。ちなみに、IMFはLGFP向け融資の35%が不良債権化した場合、大手銀行の一部は総貸し出しに対する不良債権比率が足元の2~3%から20%超に急上昇すると試算している。


 ◇リスク③ ギリシャ危機の再燃


 また、中国経済が動揺した場合、それが欧州に飛び火するリスクがある。最大のポイントは、中国経済の悪化が欧州の屋台骨であるドイツ経済の減速をもたらした場合、ギリシャ向け支援が停滞するかもしれないということだ。

 中国の新車販売台数は14年に2350万台程度であったが、今年は前年比で減少する見込み。債務危機的な状況に陥れば、自動車販売がさらに下振れる可能性もある。

 懸念されるのは、その影響がドイツ経済に最も大きく出る可能性があることである。中国の新車販売に占めるドイツ車のシェアは20%程度と、日本車を上回り海外勢のトップだ。ドイツの輸出全体に占める中国向けの比率は7%程度と、見た目はさほど大きくないが、ドイツ経済は輸出依存度と製造業依存度が高いという構造的な特徴がある。ドイツの輸出GDP比は45~46%にも達し、日本の3倍である。また、世界銀行の統計によれば、ドイツは国内付加価値生産における製造業依存度が22~23%である。日本の19%程度、米国の11%程度と比べて高い。

 さらに、足元ではドイツの自動車メーカーの排気ガス規制に関する不正問題が発生している。制裁金やリコール(無料の回収・修理)費用の先行きは不透明であるが、中国需要の大幅な減退リスクという逆風があるなか、ドイツ経済が余分な重荷を背負い込んだことに疑いの余地はないだろう。

 この夏、ギリシャは混乱の末、経済構造改革の断行を前提に欧州安定メカニズム(ESM)から向こう3年で860億ユーロの救済融資を得られることになった。8月20日に第1弾として、130億ユーロの融資が行われている。しかし、ドイツ経済が揺らいだ場合、今後のギリシャ向け融資が滞るリスクがある。ドイツ議会が自国経済の安定を最優先に、ESMによるギリシャ向け融資の安易な実行に否定的な姿勢を取る可能性があるからだ。

 ドイツのESMへの出資比率は27%で加盟国中最大(第2位のフランスは20%)であるため、ドイツの発言力は大きい。中国での債務危機発生がギリシャ危機の再燃につながるというリスクシナリオについても、警戒しておく必要がある。

 ◇リスク① 大幅な米国の利上げ


 一つ目のリスクは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げである。市場の基本的な想定は、「仮に年内に利上げを開始できたにせよ、来年後半にかけての累積利上げ幅は0・5~0・75%の小幅なものにとどまる」というものだ。金融市場には「FRBの金利政策運営は市場に親和的なものになるはずだ」という強いコンセンサスがある。

 こうした見方を後押ししているのは、①商品相場の低迷で輸入物価が下落傾向、賃金伸び率は低水準であり、インフレ率が加速する可能性は低い、②中国景気が鈍化するなか、FRBは他の新興国経済に不調が目立つようになっているという事実を無視できまい、という理解である。

 FRBがこれらの動向を注視しているのは事実だ。例えば、9月17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文には、「最近の世界経済・金融市場の動きが米国の景気と物価に悪影響を及ぼす」という趣旨の文言が付け加えられた。また、フィッシャー副議長は「FRBは金利政策の決定に当たって世界経済へのインパクトに配慮する」旨を指摘している。

 しかし、実際にはFRBは、市場が思うほど配慮を見せない可能性がある。FRBが12月に利上げを開始したうえで、16年中に累積で1・0%を上回る利上げの断行を示唆することもありうる。米国経済に再び何らかのバブルが発生するリスクがあるからだ。超低金利政策の長期化が経済に好ましくない不均衡(バブル)を発生させるかもしれないという警戒感はあろう。

 米国でバブル発生の兆候はあるのだろうか。まず注目すべきは住宅市場である。米国の中古住宅価格は、11年前半を底に上昇に転じ、12年以降の累積上昇率は全米平均で3割弱に達した。特に西部での上昇率が激しく、累積上昇幅は50~60%。価格水準も、全米平均でサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)バブル期のピーク(07年央)を超えた。

 08年にかけては、住宅を担保にしたホーム・エクイティ・ローンが隆盛をきわめたが、最近は自動車ローンが年率9~10%程度で増加している。消費者向け信用(融資・保証など)市場もバブル的な色彩を強めつつある。

 今のところ、FRBは資産・信用バブルを警戒する姿勢を明示的には示していない。しかし、「完全失業率の5%近傍への低下が将来のインフレリスクを高めている」と主張することで、連続的な利上げを示唆することは可能だろう。その結果、長期金利が上昇し、株価とともに不動産価格が下落したり、消費者ローンの需要が弱くなれば、それは歓迎すべきものになる。FRBが「そろそろバブルの芽を摘んでおこう」という発想を持つ可能性は十分にある。金融市場が予想外にタカ派的なFRBの政策姿勢に驚くリスクはあるのだ。


 ◇リスク② 中国の債務危機発生


 次に、中国経済である。経済成長率とインフレ率の低下傾向が強まるなか、企業と地方政府の債務危機的な状況が発生するリスクを警戒する必要がある。

 一般に、中国の金融システムは欧米と違って自由化・民営化されていないため、危機への耐久力が高いとされている。実際、大手銀行の多くはいまだに政府系であり、預金取り付け発生のリスクは無視できるほど小さいと考えられている。

 しかし、バブルの発生が企業の過剰債務を経由して、銀行の不良債権拡大→金融危機発生→貸し渋りの深刻化→デフレ状態への突入という流れをもたらすというのが、これまでの欧米諸国の経験である。中国経済は例外であると言い切れず、市場が不安定化するイベントが発生するリスクもある。

 ここで、国際通貨基金(IMF)が過去1年に公表した複数のリポートから、いくつかの数値を紹介したい。

 まず、中国の国内信用残高のGDP比は13年末で200%強であるが、うち150%程度が企業部門向けである。IMFの分析によれば、1人当たりGDPの水準と国内企業向け信用残高GDP比は正相関の関係(1人当たりGDPが増加すると、金融システムが発達し企業信用市場が拡大する)にある。中国は南アフリカ、ベトナム、タイなどと並び、要注意国(妥当と考えられる水準以上の企業向け信用残高が存在)の一つである。

 さらに、企業負債のうち3割程度を建設・不動産業界向けが占め、同業界のレバレッジ比率(総債務・株式資本比率)は200%超に達し、全産業平均の125%を大きく上回る。IMFの分析によれば、建設・不動産業界の企業利益が20%減少した場合、企業部門全体の負債の約4分の1が破綻債権となる可能性もあるとされる。

 また、中国の地方政府の債務問題も懸念すべき状況に入りつつあるようだ。地方政府債務残高(保証を含む)の対GDP比は約20%と高くはないが、①民間資金を取り込んだ高レバレッジ型の地方政府プロジェクト(LGFP)向けの債務が約50%を占める、②16年には地方政府借り入れ(保証を除く)の約3割が返済期限を迎える、③返済額の地方政府税収比率は60~70%に達する見込みである、④海南省など一部の省や、爆発事故が起きた天津市など一部の直轄市では、LGFP向けの負債残高が地方税収の5~10倍に達している──などの問題があるとされる。

 LGFPの採算が悪化すれば、一部の大手銀行の不良債権が大きく増加するリスクがある。ちなみに、IMFはLGFP向け融資の35%が不良債権化した場合、大手銀行の一部は総貸し出しに対する不良債権比率が足元の2~3%から20%超に急上昇すると試算している。


 ◇リスク③ ギリシャ危機の再燃


 また、中国経済が動揺した場合、それが欧州に飛び火するリスクがある。最大のポイントは、中国経済の悪化が欧州の屋台骨であるドイツ経済の減速をもたらした場合、ギリシャ向け支援が停滞するかもしれないということだ。

 中国の新車販売台数は14年に2350万台程度であったが、今年は前年比で減少する見込み。債務危機的な状況に陥れば、自動車販売がさらに下振れる可能性もある。

 懸念されるのは、その影響がドイツ経済に最も大きく出る可能性があることである。中国の新車販売に占めるドイツ車のシェアは20%程度と、日本車を上回り海外勢のトップだ。ドイツの輸出全体に占める中国向けの比率は7%程度と、見た目はさほど大きくないが、ドイツ経済は輸出依存度と製造業依存度が高いという構造的な特徴がある。ドイツの輸出GDP比は45~46%にも達し、日本の3倍である。また、世界銀行の統計によれば、ドイツは国内付加価値生産における製造業依存度が22~23%である。日本の19%程度、米国の11%程度と比べて高い。

 さらに、足元ではドイツの自動車メーカーの排気ガス規制に関する不正問題が発生している。制裁金やリコール(無料の回収・修理)費用の先行きは不透明であるが、中国需要の大幅な減退リスクという逆風があるなか、ドイツ経済が余分な重荷を背負い込んだことに疑いの余地はないだろう。

 この夏、ギリシャは混乱の末、経済構造改革の断行を前提に欧州安定メカニズム(ESM)から向こう3年で860億ユーロの救済融資を得られることになった。8月20日に第1弾として、130億ユーロの融資が行われている。しかし、ドイツ経済が揺らいだ場合、今後のギリシャ向け融資が滞るリスクがある。ドイツ議会が自国経済の安定を最優先に、ESMによるギリシャ向け融資の安易な実行に否定的な姿勢を取る可能性があるからだ。

 ドイツのESMへの出資比率は27%で加盟国中最大(第2位のフランスは20%)であるため、ドイツの発言力は大きい。中国での債務危機発生がギリシャ危機の再燃につながるというリスクシナリオについても、警戒しておく必要がある。