2015年

11月

03日

第10回 福島後の未来をつくる:大野輝之 自然エネルギー財団常務理事 2015年11月3日特大号

 ◇おおの てるゆき

1953年神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒。98年より東京都の環境行政を担当。ディーゼル車排ガス対策、「温室効果ガスの総量削減と排出量取引制度」の導入など都の環境政策を推進。2010年7月から3年間、東京都環境局長。13年11月より現職。


 ◇世界に逆行する石炭火力乱発

 ◇省エネと自然エネルギーが未来を開く


大野輝之

(自然エネルギー財団常務理事)


 日本のエネルギー政策は残念ながら、東京電力福島第1原子力発電所事故の教訓を生かす点でも、世界で進む脱炭素化の流れを反映する点でも、まったく不十分と言わざるを得ない。東日本大震災から4年半、日本では福島原発事故の深刻な体験から、いかに安全で安心なエネルギーを確保するのか、さまざまな視点で議論されてきたにもかかわらずだ。しかし現場を見ると日本でも省エネルギーと自然エネルギー拡大が進み、安全かつ低炭素なエネルギーへの転換が進んでいる。

 世界を見ると、異常気象の影響が深刻化するなかで、気候変動対策強化のためにエネルギー起源のCO2削減をめざす政策転換が進んでいる。



 ◇欧米は石炭火力を縮小へ


日本では、震災後に石炭火力発電所の新増設計画が激増している。2014年4月に改定したエネルギー基本計画は、原発とともに石炭火力を一定量の電力を安定供給できる「重要なベースロード電源」と位置付けた。これを背景に、再稼働の進まない原発に代わる電源を確保しようとする既存電力会社、電力市場への進出のために独自電源を必要とする新規参入企業が設置を計画しているためだ。全国で48基、合計出力では2350万㌔ワット、すなわち原発23~24基分もの石炭火力発電所がつくられようとしている。

「最新の石炭火力は高効率で環境に良い」というが、その最新型であっても天然ガス火力の2倍以上のCO2を排出する。原子力政策については、脱原発を決めたドイツやイタリア、維持の立場に立つ英国、フランスなど見解の相違がある。しかし、こと石炭火力については、米国も含め先進国の大半が、新設は行わず既存発電所も減らす政策で一致している。発展途上国での石炭火力建設への融資も行わない方針だ。

 これに加え、石炭・石油産業など化石燃料の開発・利用で利益を上げる企業の株式や債券などへの投資を撤収する“ダイベストメント(インベストメントの反意語)”と呼ばれる取り組みが急速に広がってきている。

 公的ファンドで世界最大のノルウェーの政府系ファンド、全米最大の公的年金基金カルパースなど有力な機関投資家も含め、既に世界43カ国で合計312兆円の資産を運用する400以上の機関が化石燃料ビジネスへの投資を撤収する方針を決めている。

 国内で、石炭火力の新設を計画している企業は、これからも日本では石炭火力を自由に使い続けることができると考えているのかもしれない。しかし、欧米の規制強化や世界で広がるダイベストメントの動きを見れば、それはとても見通しの甘い経営判断のように思える。

 ◇クリーンパワープランの衝撃


 世界を見れば脱炭素化の主役になっているのは、原子力ではなく自然エネルギーだ(図1)。欧州における自然エネ政策で一番よく紹介されるのはドイツだが、ここではフランスの政策を紹介することがよりふさわしいだろう。フランスは現在、電力の75%を原発で供給する原子力大国だ。そのフランスが今年の8月に制定した「エネルギー転換法」では、30年までに原発依存度を50%に引き下げ、反対に電力の40%を自然エネで供給することを定めたのである。

 欧州ではフランスとフィンランドで、安全対策を強化した最新型の原発が建設中ではある。しかしその完成時期は再三延期され、実際いつ稼働するのか見通しは立っていない。また建設コストは当初の3倍に膨れ上がっている。原発が高コスト発電であることは欧米では常識だ。米国でも、コスト高で廃炉になる既存原発が続出している。

 その米国のオバマ大統領は、自らの政権のレガシー(業績)とする気候変動対策の最重要の政策として、この8月に「クリーンパワープラン」を決定した。30年までに発電部門からのCO2排出量を32%削減(05年比)することを目指す。削減の最大の手段は石炭火力発電の抑制と自然エネの促進である。カリフォルニアとニューヨークという西海岸、東海岸の主要州は、ともに30年までに電力供給の50%を自然エネで供給する目標を定めている。

 こうした自然エネシフトの最大の要因は、発電コストの急速な低下だ。米エネルギー省の風力発電技術市場報告書では、14年における全米の風力発電の平均購入契約価格が1㌔ワット時当たりで2・35セント(税控除額を加えれば約5セント)まで低下したことが報告されている。9月には、ローレンスバークレイ国立研究所が、太陽光発電コストが1㌔ワット時当たりで平均5セントになったことを報告している(同7セント程度)。


 ◇現場の変化に立脚した政策を


 日本では、震災後、企業や自治体、地域が省エネの拡大と自然エネの導入に取り組んできた。その効果の大きさは、今年の夏の電力需給に見ることができる。

 今夏、日本列島は7月後半から8月前半にかけて猛暑に見舞われ、冷房の使用が増えて電力需要が増大した。国内では、九州電力川内原発が8月中旬に再稼働するまで、1基の原発も動いていなかったが、電力不足という事態はまったく生じなかった。夏の猛暑を乗り切る最大の力になったのは、震災後に進んだ省エネである。東京電力を例にとる。震災前の10年度、東電管内の最大電力需要は5999万㌔ワットだったが、今年の最大需要は1000万㌔ワット以上も少ない4957万㌔ワットにとどまった。

 今年の最大電力を記録した日の気温は37度。10年度に最大需要を記録した日は35・7度。今年のほうが暑かったにもかかわらず、電力需要は大幅に減少したのである。その背景には、LED(発光ダイオード)照明の普及、空調機器の運用の見直しなど「賢い節電」の広がりがある。

 省エネに加え、昨年あたりから夏のピーク電力需要対策として存在感を示しはじめたのが、自然エネ、特に太陽光発電の普及である。東電管内では最大電力需要が生じた日に、378万㌔ワット、つまりほぼ原発4基分に匹敵する電力を供給している。

日本の自然エネは、電力会社の接続制限やさまざまな規制の影響で導入が遅れ、世界で進む価格低下の恩恵を十分に得られていない。しかしそうしたなかでも太陽光発電のコストは数年前の半分程度になってきており、すでに家庭では電気料金を支払うより太陽光発電を設置するほうが安価になってきている(図2)。

 日本の電力需要は、省エネと自然エネの拡大、そして当面は天然ガス火力を活用することで十分にまかなうことができる。原発への依存を続けることも石炭火力の新増設も必要ない。震災後に進んだ省エネと自然エネの拡大を、福島後の未来を開くエネルギー政策の中心にすべきだ。こうした現場の動きに立脚することこそ、現実的な政策選択ではないか。

福島後の未来をつくる