2015年

11月

17日

ワシントンDC 2015年11月17日号

 ◇欧米間の個人情報移転は無効

 ◇4000社以上に甚大な影響


堂ノ脇 伸

(米州住友商事会社ワシントン事務所長)


 欧州司法裁判所が10月6日に下した、欧米間の「セーフハーバー協定(個人情報の移転協定)は無効」とする判決が波紋を広げている。この協定は、個人情報の移転に関する特別協定で、2000年に締結された。米政府が情報保護を担保するとの認識の下、米商務省が認可した米企業に対し、EU(欧州連合)における個人情報の米国への移転を例外的に認めている。

 もともとEUには包括的な個人情報保護法制があり、十分な保護措置を取る国に限り域外への個人情報移転を認めている。一方、米国には、行政機関による個人情報の流出を禁じる「プライバシー法」以外に確たる包括的な保護法がない。民間レベルでの個人情報保護は、半ば業界の自主規制に委ねていたため、EU基準を満たすことは困難とされていた。だがインターネットの普及で欧米間のデータ交換が飛躍的に増えたため、前述のように、米商務省認可の米企業には個人情報の移転を認めるセーフハーバー協定を結んだのだ。

 こうした状況下、13年のエドワード・スノーデン氏の暴露により、ネット企業が持つ膨大な個人情報を米国家安全保障局(NSA)が監視していた事実が発覚。「米国は個人情報に関し十分な保護体制を敷いていない」との疑念が欧州側に生まれた。14年には、在オーストリアのマックス・シュレムス氏が、フェイスブックが自身の個人情報を米国に転送していることに対し、「個人情報は米当局の監視から保護されるべきだ」と申し立てた。これを受けて欧州司法裁判所は「米国の情報監視体制の下では、個人情報保護が十分担保されていると言えず、セーフハーバー協定そのものが無効」との判断を下した。


 ◇企業は対策コスト増の可能性


 セーフハーバー協定が無効となることの影響は甚大だ。米商務省の認可を受けて、EUの個人情報を米国に移転している企業は、フェイスブックやグーグル、アマゾンなど4000社以上に上るとされる。

 今後、これを継続するには、各社が個別にさまざまな基準の認定を受けて、EU当局から承認を得るなどの方策も考えられる。だが、そのコストと有効性は全くの未知数だ。米国市場で事業を展開する欧州企業に、同様の影響が及ぶ可能性も指摘されている。プリツカー米商務長官は、今回の欧州司法裁判所の判断を遺憾とし、これが「米国とEUの企

業や消費者に加え、欧米間のデジタルエコノミー(産業のデジタル化)に重大な不確実性をもたらす」と述べている。

 米議会でも、これを機に「個人情報の保護体制を強化すべき」との声が上がっている。下院は10月20日、「Judicial Redress Act(司法是正法)」という法案を超党派で可決した。これは、前述の米プライバシー法の適用を、米国人のみならず、EUや同盟国の非居住者にも拡大するもの。自らの個人情報が侵害されたと認められる場合、米国政府を訴えることを可能とする法律だ。

 法案を提出した下院司法委員会のボブ・グッドラッテ委員長は、「この法案の成立により、プライバシーデータの保護に関して、米国が再び友好国の信頼を勝ち取ることを望む」と述べた。多くの米IT企業も法案成立を支持する声明を発表している。

 ただし、この法律を適用するのは米国行政機関が保有する個人情報に限られる。その意味では、「本質部分でセーフハーバー協定を無効とする欧州側の判断を覆すものにならない」との指摘もある。欧州の信頼を取り戻すには、さらなる個人情報保護強化の方策や、米国の情報監視体制の見直しが必要との意見も多く、米国側の対応が注目されている。(了)

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2015年11月17日号

 

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