2015年

11月

10日

第11回 福島後の未来をつくる:石川和男 NPO社会保障経済研究所代表 2015年11月10日号

 ◇いしかわ かずお

1965年福岡県生まれ。東京大学工学部卒。89年通商産業省(現経済産業省)入省、電力・ガス改革などに携わる。2007年に経産省を退官。東京女子医科大学特任教授や東京財団上席研究員を経て11年9月から現職。

 ◇福島第2原発の正しい「やめさせ方」

 ◇再稼動後の全収益を復興と再エネへ


石川和男

(NPO社会保障経済研究所代表)



 東京電力・福島第1原子力発電所のことは、2011年3月11日の東日本大震災における大津波被災での事故以降、何らか報道されなかった日はない。

 その日、福島第1原発(全6基)では、1~3号機は運転中、4~6号機は定期検査のため停止中だったが、14時46分に発生した大地震を受けて運転中の3基はすべて自動停止。その後、非常用ディーゼル発電機が起動し、原子炉の安全維持に必要な電源が確保されたが、さらにその後に襲来した大津波によって1~4号機へ供給する冷却電源を喪失し、冷却機能が失われた。

 これにより原子炉の圧力容器内の水は蒸発し続け、水面から露出した燃料棒の表面温度が放射線エネルギーの熱変換で生じた崩壊熱により上昇したため、燃料棒の表面が圧力容器内の水蒸気と反応して大量の水素が発生。


格納容器の損傷部から漏れ出た水素は、原子炉建屋上部にたまり、何らかの原因により引火して1号機、3号機、4号機がそれぞれ水素と酸素が急激に反応して爆発的な燃焼を起こす水素爆発を起こした。これが福島第1原発事故の一連の顛末(てんまつ)だ。

 福島第1原発は被災プラントであり、致命的な破損をした1~4号機だけでなく、軽微な破損だけだった5号機と6号機も、発電を再開することなく廃炉が決まった。福島県の地元感情などを考えれば、仕方ないことだろう。

 では、福島第2原発(全4基)はどうだったかというと、1~4号機はすべて運転中であったが、大地震を受けて4基すべてが自動停止した。その後、大津波に襲われ被害を受けたが、原子炉の安全は維持された。震災後に全4基の原子炉内にあった核燃料は冷却のためのプールに移送されているため、原子炉内は15年9月末時点では空となっている。今後は、プールで核燃料の冷却を続けることになる。原発は、発電していなくとも、核燃料管理などの面で「稼働」し続ける。


 ◇原発は100年事業


 福島第1原発事故以降、日本は脱原発・再生可能エネルギー(再エネ)推進という志向の中にいる。政治的にもマスメディア的にも、「原発ゼロ・再エネ100%化を!」という空気が支配的になった理由は、私にも重々理解できる。しかし、太陽光発電や風力発電による再エネの電源で生活や工場などの生産活動を100%まかなうのは、今の人類が持つ技術では実現不可能で、大量に蓄電・蓄熱が可能なシステムが商業化される時まで待たなければならない。

 原発ゼロも、今すぐには無理である。そもそも、既設原発の代替となるような電源は日本ではつくれない。LNG(液化天然ガス)や石油、石炭など火力発電で代替できると思われているが、その場合には輸入コストも含めた高い化石燃料費を払い続けなければならないからだ(表)。

 それは日本の国民生活や産業活動を直撃し、さらには日本のエネルギー安全保障を再び脅かす。現に震災以降、原発がほぼ全面停止したことで火力発電への依存度が急に高まり(図)、電気料金は震災前に比べておおむね2~4割も高止まりしている。震災以降、11~14年度での原発停止に伴う化石燃料の追加費用は累計で12・4兆円に達する。これは、消費税率5%での税収1年分に相当する巨額なものだ。

 原発ゼロが今すぐに無理なのは、もう一つ重大な事情がある。多くの原発事業は、計画から設備を完成させるまで数十年、運転開始から発電所閉鎖まで40~60年、その後の発電所自体を解体する廃炉完了まで20~30年、発電にともなって生じた放射性廃棄物の最終処分まで30~50年と、いわば「100年事業」として計画されている。


 ◇教訓は核燃料の安全管理


 福島第1原発事故は、稼働中(発電中)の事故ではなく、停止中の事故。安倍晋三・自民党現政権は、「いかなる事情よりも安全性を最優先し、原子力規制委員会によって新規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原発の再稼働を進める」とし、再稼働に当たっては「国も前面に立ち、立地自治体などの関係者の理解と協力を得るよう」取り組む方針を示している。

 問題は、再稼働について「原子力規制委員会によって新規制基準に適合すると認められた場合」に限っていること。これが、今の日本社会への多大な実害となって現れている。福島第1原発事故の教訓は、冷却電源喪失による核燃料の安全管理面での機能不全である。

 稼働中だろうと停止中だろうと、核燃料の安全管理に万全な対策をとることが福島第1原発事故の最大の教訓であり、発電を停止させ続けることが安全維持につながるわけではないのだ。


 ◇米専門家は全基停止に疑念


 私は先だって、米国の原子力規制委の委員長経験者ら3人と個別に懇談した。その際、彼らは日本が福島第1原発事故後に国内原発を全基停止したことや、新規制基準のすべてに適合していなければ再稼働を許していないことに大きな疑念を示しながら、早期の再稼働を強く進言した。

 原発の安全とは、停止状態によって得られるものではなく、稼働しながらそのスキル、ノウハウを身に着けるものなのだと。1979年にスリーマイル島原発事故を経験した米国も、86年にチェルノブイリ原発事故を経験した旧ソ連も、当時国内のほかの原発は通常通りに稼働させていたのだが、日本はなぜ事故を起こしていない原発まで停止させているのかと。

 福島第2原発に関して、1号機は82年に、2号機は84年に、3号機は85年に、4号機は87年に、それぞれ運転を開始した。震災後に原子力規制委が定めた新規制基準によると、稼働期間は原則40年、原子力規制委が特別に認可した場合には60年となっている。そうすると1号機はあと7~27年、2号機はあと9~29年、3号機はあと10~30年、4号機はあと12~32年、それぞれ稼働できる。


 ◇稼働で廃炉費用を捻出


 福島第2原発は、震災時に大津波に襲われ被害を受けたが、原子炉の安全は維持されている。今後とも技術的には再稼働は可能だ。既設の原発は、安価安定な電力を供給するだけではない。将来必ず訪れる長期間の廃炉作業の工程で必要となる資金を積み立てておく。これは、日本で原発事業がはじまった時から、国会はもちろんのこと、原発が立地する自治体の議会でも、そしてマスメディア各社に対しても、公然のことである。

 原発は、自分の始末に要する資金を自分でためる長期事業なのだ。いたずらに停止させ続けることで、原子力技術者の人材が育たなくなるほうが、将来的な安全性の確保に支障を及ぼす。原子力安全は、廃炉が完了するまで確保されなければならないはずだ。

 福島第2原発を巡る政治状況は今、非常に厳しい。福島県議会は今年9月の定例議会で「東京電力福島第1原発事故の早期収束と福島第2原発の全基廃炉を求める意見書」を全会一致で可決している。

 今年10月の内閣改造で入閣した関係閣僚からは、林幹雄経済産業相が「東電が地元の意見を十分に聞いている。東電が(再稼働の是非を)決めていくのではないか。東電の対応をしっかり見守っていきたい」(10月14日付『福島民報』)、高木毅復興相が「国は、世界一厳しいといわれる安全基準に適合した原発は再稼働させる方針だ。しかし、福島第2原発を同列に扱えないと思う。いずれにしても事業者の考え方、地元の意見が非常に大切だ」(10月9日付『福島民報』)と語っている。

 政府としては、東電の判断に任せる姿勢を変えていないが、東電側は福島第2の廃炉に関してまったく未定だとしている。


 ◇現実味を帯びる再値上げ


 東電は12年4月に企業向け電気料金を平均14・9%値上げし、同9月に家庭向けを8・46%値上げしている。この値上げの理由は、東電の保有する原発(柏崎刈羽、福島第2)が停止しているからにほかならない。今後さらに柏崎刈羽原発や福島第2原発が停止したままでいると、再値上げがいっそうの現実味を帯びてくる。

 そこで一つ大きな提案をしておきたい。政治的にはそう簡単ではないかもしれないが、技術的には再稼働が十分に見込める福島第2原発の今後の活用方法について考えたい。それは、福島第2原発をフル活用することにより生じる収益を地元福島に全面的に還元する。日本全体のエネルギー環境政策への先駆者となることを追求していくことだ。

 欧米諸国の多くや韓国の原発稼働率は80~90%台だが、日本の原発稼働率は相当低く、震災前の3年間では08年60%、09年66%、10年67%。東電だけを見ると、08年44%、09年53%、10年55%と、全国平均よりもさらに低い。

 福島第2原発1~4号機の設備能力は、各110万㌔㍗、計440万㌔㍗。これらすべてを、欧米や韓国と同じ水準である90%の稼働率で稼働させた場合の収益増効果を算出してみる。

 全4基の原子力発電電力量は、年間約347億㌔㍗時(=440万㌔㍗×24時間×365日×稼働率90%)。この電力量が火力発電に代替するものとして、政府の認可を受けた現在の東電の料金原価(原価算定期間は12~14年度)の公開データを用いて計算してみる。

 代替される火力発電は単価が最も高い石油火力であるとして、その石油火力電力量に相当する燃料費は年間約5533億円(=約347億㌔㍗時×15・95円/㌔㍗時)。この場合の原子力発電のための核燃料費は約576億円(=約347億㌔㍗時×1・66円/㌔㍗時)なので、差し引き約4957億円の収益増となる。

 要するに、福島第2原発は廃炉までの間、全4基のフル稼働により年間最大5000億円程度の収益を生み出す。

 この収益分については、将来の廃炉費用に充てる分のほかに、①福島第1原発の廃炉や汚染水対策、②福島県内の再エネ関連投資費用や再エネ賦課金の肩代わり費用、③福島県内の電気料金値下げ原資などに優先的に活用すれば、福島支援に大きく貢献できるだろう。


 ◇円滑な廃炉で脱原発


 原発を正しくやめるためには、円滑な廃炉や地域への貢献を進めていくうえで必要なヒト・モノ・カネを周到に準備することが不可欠だ。

 福島第2原発についても、万が一の事故に対する地域住民の避難計画の早期策定や、過酷事故時の的確な国家賠償制度の創設に関する検討と並行して、①新規制基準の適用に5~10年程度の適切な猶予期間を設け、②原子力規制委の審査前であっても審査中であっても、早期の発電再開を容認することにより、③安全投資のための資金を原発事業でしっかりと確保させながら、④将来必ず行うべき円滑な廃炉による安全な脱原発へと軌道を回復させていくことが緊要である。(了)

福島後の未来をつくる

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