2015年

11月

10日

経営者:編集長インタビュー 鈴木純 帝人社長 2015年11月10日号

鈴木純 すずき・じゅん 日本の経営者 帝人 社長

 ◇高機能繊維・複合材料、ヘルスケア、IT事業が柱


 帝人グループは、高機能繊維・複合材料(炭素繊維、アラミド繊維など)、電子材料・化成品(ポリカーボネート樹脂など)、ヘルスケア(医療用医薬品、在宅医療など)、製品(繊維原料など)、ITなどの事業を手がける。

 2014年度は連結売上高7862億円、営業利益391億円、当期(最終)損益81億円の赤字だったが、15年度には売上高8000億円、営業利益500億円、ROE(株主資本利益率)8%の経営目標を達成する見通しだ。

── 事業環境はいかがですか。

鈴木 主力事業のうち、高機能繊維・複合材料事業ではアラミド繊維が堅調です。

 アラミド繊維はパラ系とメタ系の2種類があり、用途に応じて4種類のブランドを持っています。パラ系は高性能タイヤやブレーキの摩擦材など自動車用のほか、防弾チョッキにも使われるもので世界トップクラス、メタ系は熱防護性に優れ、消防服などに使われています。

 炭素繊維も、航空機需要を中心に確実に市場が伸びる分野です。シェールガスの圧力容器用途も伸びていきますし、新たな用途として量産車にも使用が期待されています。現状は5万㌧規模ですが、20年ごろには市場が14万㌧ぐらいまで拡大するという見方もあります。

── ヘルスケアも有望分野です。

鈴木 当社は、医療用医薬品と在宅医療を持つ強みがあります。

 医薬品では高尿酸血症・痛風治療剤をグローバルに展開しており、先進国では20年ごろまで事実上の独占権が続くので間違いなく伸びます。

 在宅医療でも、在宅酸素療法(HOT)や睡眠時無呼吸症候群の治療器で国内トップシェアです。国の医療費抑制政策の中で病院だけでなく地域や在宅で医療サービスを受けるようにするのが日本の将来の姿であり、成長を期待できる分野です。

── 14年度は81億円の最終赤字でしたが、今年度は300億円の最終黒字を見込んでいます。

鈴木 過去に収益をあげていない事業を長く続けて業績悪化を招いた反省があり、構造改革でそれを抜本的に見直しています。今後は、当社の強みを生かせるビジネスに資源を集中投下します。既にタネをまいたので、着実に実行すれば結果はついてきます。

 14年11月に公表した修正中期計画では、新たな成長シナリオを描くにあたり、「構造改革」と「発展戦略」を柱に掲げました。大きな目標は、単に素材を売るだけでなく、社会が必要とする価値を提供し、持続的成長を実現する「ソリューション(解決策)提供型事業体」に進化することです。

 当社は、創立以来97年間、ずっと化繊を中心に素材を売って成長してきましたが、時代とともに顧客は自分にとって価値ある物・サービスに対価を支払う考えに変わり、従来のビジネスは成り立たなくなっています。それがないと生活できない物・サービスを提供する企業になるのが大きな目標です。


 ◇将来の「発展戦略」


── 構造改革とともに発展戦略も掲げています。

鈴木 今年度から「成長戦略」と「発展戦略」を分けて考えるようにしました。成長戦略とは既存ビジネスを拡大する戦略であり、発展戦略とは従来のビジネスのやり方を変え、まったく違う分野で価値をつくるための戦略です。

 当社の強みは、高機能素材、ヘルスケア、ITの各領域を併せ持つことであり、これらを融合・複合化できる領域で新しい事業をつくります。例えば、食糧・水、環境・省エネ、安心・安全・防災、少子高齢化など世界的問題の解決に、当社が持つリソースを融合させて価値を提供することを目指します。

── 具体的には。

鈴木 環境・省エネなら、高機能・複合材料をベースに、炭素繊維やリチウムイオン電池のセパレーターを活用することで、自動車の軽量化と蓄電技術をセットで提供することができます。

 安心・安全・防災の面では、中低層の木造建築物でシート状の高機能繊維を木材ではさんだ複合材を梁(はり)などに活用すれば、より強く軽くすることが可能です。

 高機能繊維の用途は広く、アラミド繊維を樹脂で固めたものは、既に鉄筋の代替として使われています。

── ヘルスケアの発展戦略は。

鈴木 地域包括ケアに参入します。そのスタートとして、9月からヘルスケアとITの融合領域の新規ビジネスである、「バイタルリンク」という患者情報共有システムを提供し始めました。

 体温や脈拍、血圧など、在宅療養中の患者さんの生体情報を測定器からスマートフォンなどのモバイル端末に取り込み、医師やケアマネジャーなどの関係者間でリアルタイムに共有するシステムです。患者さんをリアルタイムに見守ることにより、患者さん自身のセルフケアの支援など、最適な在宅医療の実現を期待できます。

── 今後の経営目標は。

鈴木 あと3年で創立100周年を迎えますが、さらにその先100年間持続できる会社にならないといけない。そのため、20年には高機能素材、ヘルスケア、ITを融合させて新ビジネスを創出する企業への進化を目指します。


(Interview 金山隆一・本誌編集長、構成=秋本裕子・編集部)


 ◇横顔


Q 30代の頃はどんなサラリーマンでしたか

A 創薬の研究所で薬の基礎研究をしており、英国の国立医学研究所の中に帝人が設置した研究所の運営を1994年から3年間任されました。

Q 最近買ったもの

A ボーズ社のイヤホンを買いましたが、ノイズカット機能が素晴らしいですね。昔のロックをよく聴いています。

Q 休日の過ごし方

A 完全な休みはほとんどありません。仕事関係も含め、たまにゴルフに行くほかは、自宅でも仕事関係の書類を読んだりしています。


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■人物略歴

 ◇すずき じゅん

東京都出身。都立西高校卒。1981年東京大学理学部卒、83年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、帝人入社。医薬開発研究所長、常務(高機能繊維・複合材料事業グループ長)などを経て、2014年4月から現職。57歳。


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