2015年

11月

11日

コンビニコーヒーが変えた 100円の味と業界勢力図

 ◇知って驚くコーヒー革命

 ◇2015年11月10日号

 

 コーヒーの世界が激変している。味はもちろん、カフェ、商社、焙煎業界などにも新しい動きが起きている。普段飲んでいる一杯のコーヒーから世界が見えてくる。

 

 黒崎 亜弓(編集部)

 

 10月1日の「コーヒーの日」を挟んだ3日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれたスペシャルティコーヒーの展示会は延べ2万5000人の来場者でごった返した。各ブースで出される試飲コーヒーを口に含めば、その味わいは、深いコクの中に甘さの余韻が残るもの、華やかな香りですっきりとした飲み心地のものなど実に多彩だ。

 スペシャルティコーヒーとは、品質管理を徹底し、味が一定水準を超えたコーヒーを指す。一つの農園あるいは一つの品種の豆だけでいれるため、個性が出る。米国で人気に火がつき、「サードウエーブ」と称されるブームは日本にも広まった。

 出展したコーヒー豆専門商社のワタルは生産者を招いてセミナーを開催。同じく専門商社のセラード珈琲は約20種類の生豆を並べて説明に力を入れた。各社はここ数年、スペシャルティに力を入れている。

 その理由はサードウエーブがブームだからというだけではない。コンビニコーヒーが急速に拡大しているからだ。コンビニのコーヒーでは「豆を調達するのは大手商社で、我々専門商社の入る余地はない」と担当者。つまりスペシャルティコーヒーは生き残りの活路なのだ。

 

 ◇焙煎社は「焼くだけ」に

 

 一般にコーヒーの生豆を生産地から買い付け、輸入するのは商社だ。大手商社から専門商社までが取り扱う。その豆を買って、「ロースター」と呼ばれる専業メーカーが焙煎、ひいたりして飲食店やスーパーに卸す。缶コーヒーやコーヒー飲料の原料にも加工する。焙煎社は、さまざまな豆をブレンドして味を作るなど、コーヒー流通の核といえる存在だ。

 ところが、コンビニコーヒーでは様相が異なる。

 コンビニエンスストアで豆からひいて1杯ずつ抽出したコーヒーを販売したのは2011年1月のローソンが皮切りだった。1杯180円だったが、12年4月には最大手のセブン─イレブンが100円で参入し、各社は100円のSサイズを投入するなど追随した。コンビニコーヒー全体の市場は14年に1756億円(富士経済の試算)まで拡大した。

 セブン─イレブンの豆の調達は三井物産、焙煎はAGF(味の素ゼネラルフーヅ)が担う。豆の調達には後から丸紅も加わった。商品設計はセブンが主導する。また、ファミリーマートは伊藤忠商事、ローソンは三菱商事と資本関係がある。

 この巨大市場に、中小商社が入り込む余地は少ない。コンビニコーヒーが拡大し、既存の喫茶店やカフェチェーン店の売り上げが落ちると、専門商社や中小焙煎社も打撃を受ける。コンビニに納入する大手焙煎社も「扱い量が大きく、コーヒー豆の価格変動の影響も抑えられる」と取引のメリットを認めつつも、利益の薄さに「我々は焼くだけ」とぼやく。そこでスペシャルティの市場を広げることが、重要な戦略となる。

 100円でひきたて、いれたてが飲めるコンビニコーヒーは味のレベルを押し上げ、コーヒーを提供するさまざまなタイプの飲食店に緊張感をもたらしている。スペシャルティのみならず、〝ブレンド〟でも差別化を図る。

 ベーカリーカフェチェーンのヴィ・ド・フランスはこれまで、粉コーヒーからマシンでまとめて抽出していたが、昨秋から店頭で豆をひき、サイホンで1杯ずついれる形に切り替えている。「視覚的にもおいしさを訴えられる」(担当者)。


 ◇囲い込むネスレ


 コンビニコーヒーに加えてもう一つ、業界を揺るがせているのは、ネスレ日本の動きだ。

 9月の事業戦略発表会。高岡浩三社長は「世界のネスレグループの中でも、日本は先進国平均の2倍を上回る売り上げの伸びを維持してきた」と自信をみせた。

 けん引役はコーヒーマシンだ。07年に1杯ずつカプセルから抽出するドルチェグストを販売した。既存のマシンのネスプレッソより安く、カプチーノや抹茶ラテなどメニューに幅がある。09年にはインスタントコーヒーの粒に圧力をかけて溶かし出すマシン、バリスタを発売。オフィス需要を取り込むため、12年11月から職場へのバリスタの無料提供を始めた。

 13年9月にはインスタントコーヒー全製品の商品名をレギュラーソリュブルコーヒーに切り替えた。これが騒動を招く。

 レギュラーコーヒーとはコーヒー生豆を焙煎し、あるいはひいたものを指す。インスタントコーヒーは抽出液を固形化したもので、溶かして飲む。ネスレの名称変更は「抽出液の粒の中にレギュラーコーヒーの細かい粉を閉じ込める製法に変えたから」との理由だ。「ソリュブル」は「溶ける」を意味する。

 ところが、購入した客から「レギュラーコーヒーと間違えた」などと苦情が上がり、業界団体である全日本コーヒー公正取引協議会は「レギュラーとインスタントを混ぜたものは割合が多い方に該当する」と表示規約の追加案をまとめた。

 するとネスレ日本は同協議会や全日本コーヒー協会、高岡社長が会長を務めていた日本インスタントコーヒー協会から脱退した。

 ネスレが名称変更にこだわるのは、縮小するインスタントコーヒー市場と決別し、プレミアム化を図る狙いからだ。インスタントコーヒーはスーパーの特売品の常連で1杯分が10円程度なのに対し、バリスタ用の詰め替えパックでは1杯15円程度、ドルチェグスト用カプセルは50~60円程度。マシンを入手した人は、継続的にネスレ製品を購入することになる。

 家庭向け市場からみれば、コンビニコーヒーの1杯100円は〝プレミアム〟。世帯人数が減る中、伸びているのはインスタント、レギュラーともに手軽に1杯ずつ作るタイプだ。業務用の利益が抑えられた焙煎社は、付加価値の向上を図る。

「今は高品質化を図れば、価格を上げられるチャンス」と味の素ゼネラルフーヅの島本憲仁家庭用第一部長。1杯分のレギュラーコーヒー粉をセットしたフィルターパックの新商品は1杯分が20~30円だ。「お湯さえあればいれられ、シンプル」とマシンに対する優位性をアピールする。

 コンビニはじめ他社の攻め込みに、業界大手、UCC上島珈琲の安藤芳徳マーケティング本部長は「うちは農園から喫茶店、缶コーヒーに至るまでコーヒーに関わるところは垂直統合ですべて手がけている。市場が広がるのはありがたい」と話す。「コーヒーの裾野が広がれば、山は高くなる。良い物を求めるようになる」とはUCCグループ上島達司代表の言葉だ。

 ただ、高品質な豆への需要は高まっているが、生産は病害虫に強く作りやすい低品質の豆に偏っている。今後、高品質の豆が品薄となる懸念も生じている。

 持続的においしいコーヒーが供給できる環境をどう作るか──。一般的なコーヒー豆は、産地で一括して集荷され、市場の価格変動の影響も大きい。それが、スペシャルティコーヒーのように農園ごとに取引されると、品質が良ければ、高い価格がつく。生産者のやる気が高まり、栽培や加工の技術も向上してきた。生産国は発展途上国が多く、コーヒー生産の経済への影響は大きい。

 普段口にする1杯の味、場所から流通、産地までコーヒー市場は大きな変革の途上にある。(了)

 

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