2015年

11月

17日

第12回 福島後の未来をつくる:柏木孝夫 東京工業大学特命教授・名誉教授 2015年11月17日号

 ◇かしわぎ たかお

東京工業大学工学部卒。同大学大学院博士課程修了。東京工業大学大学院教授、先進エネルギー国際研究センター長を歴任。経済産業省総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長などエネルギー政策の立案に携わる。

 ◇規制改革で大規模電源は縮小へ

 ◇小売り自由化で家庭も売電参入へ


柏木孝夫

(東京工業大学特命教授・名誉教授)


 東日本大震災を経て電力システム改革が本格的に進み始めた。2016年4月に始まる電力小売り全面自由化、今後に控える発送電分離、電力料金規制撤廃など一連の改革が進むことで、日本の電力システムは一変する。

 特に重視されるのが、エネルギー自給率の向上、電力コストの低減、二酸化炭素(CO2)の削減だ。日本のエネルギー自給率は約6%。先進国でここまで低いのは日本だけだ。これを東日本大震災前を上回る25%まで高める必要がある。同時に発電コストを抑えつつ、CO2排出量は国際的にも遜色ない水準まで低減する必要がある。

 そのためには、電力需給を効率的に制御し、分散型で送電ロスをなくして、省エネの拡大で電力コストを抑える必要がある。


このとき、日本全体の発電量は30年の想定で1兆650億㌔㍗時まで抑えることを目標にしている。その時点の電源構成は、22~24%が再生可能エネルギー、原子力発電は20~22%、残り56%がLNG(液化天然ガス)や石炭、石油などの化石燃料だ。

 電力自由化はこれまでも段階的に進んできた。大規模工場やオフィスビルなど大口の電力需要家を皮切りに、現在は契約容量が原則50 ㌔㍗以上の高圧需要家向けの電力がすでに自由化されている。

 特定規模電気事業者による電力供給も始まっているが、新規参入は全需要の2・6%(13年度)とわずかで、市場原理が働いているとは言いがたい。そうした中で、16年の家庭部門を含めた全面的な小売り自由化は本格的な競争市場を創出する原動力になると考えられている。当初は日本の発電量の2割程度、最終的には3割程度を新規事業者(新電力)が供給する構図になるだろう。

 従来の大規模集中型電源は、ピーク時の需要に合わせて大規模発電所を設置してきたがゆえに非効率的であった。日本の発電所の平均稼働率は56%にとどまり、東京電力管内では1年間のうち88時間しか動かない電源、つまり1%しか稼働しない電源が全体の7・5%あった。一般企業ではあり得ない非効率的な体制だ。その分、電気料金も割高になる。電力のコストが高い状態は、経済活動を停滞させ、国全体の力を落とすことにもなりかねない。

 これらの効率の悪い電源は、16年春の電力小売り全面自由化により市場原理が働くようになれば脱落し、従来型の大規模集中型電源は縮小を余儀なくされる。また20年以降に予定されている料金規制の撤廃で、総括原価方式による電力料金へのコスト上乗せができなくなると、1年で数日しか動かないような電源に投資することはできなくなる。

 安定供給が求められる電力事業は、これまで地域独占事業だった。しかし、一つの企業が地域の需要のピークに合わせて電源を立地するという従来型の供給方法では、どうしても設備が過剰になり、結果的に電気料金が割高になる。市場原理を導入し、なるべく安い電力を合理的に供給することを目指す電力自由化は日本経済にとって極めて重要なものになる。


 ◇買い手から売り手へ


 電力事業に関する規制改革は、家計にとって経済機会の拡大にもなる。特に電力小売り自由化は、一般家庭にとっても大きなインパクトを与えるものになるだろう。

 太陽光発電システムや家庭用燃料電池など家庭向けの発電機器の登場は、これまで電力会社から買うことしかできなかった電気を一般家庭が発電し、売り手になる機会をもたらした。

 小売り全面自由化はこの動きをさらに加速させるものになる。新電力の参入により通信やケーブルテレビ、ガスなどほかのサービスと電気のセット販売などメニューや料金体系の多様化が進むことで、電気料金が一律で、使用量に応じて課金されるだけだった時代とは異なり、一般家庭の選択肢が増えることになるからだ。

 従来、家庭でできる電力利用上の工夫といえば節電に限られていた。

しかし自由化により、一般家庭も電力を「消費」するだけでなく、効率的に使って「生産」することで、キャッシュを得る流れがより明確なものになる。

 そのような小売り自由化の時代では、次世代電力計のスマートメーターとHEMS(家庭用エネルギー管理システム)で電気使用量を「見える化」して適正な料金を選択し、同時に太陽光発電や燃料電池による家庭用コージェネレーション(熱電併給)システムのエネファームによって各家庭で発電し、効率的に電気を使用する。これに電気自動車の蓄電システムやデジタル家電がつながることで、電気料金が高い時間帯には需要を抑えて電気の売り手にまわることも可能になる。

 これまで家庭用電力システム市場は、電気で熱を作る家庭用電気給湯器の「エコキュート」を導入したオール電化住宅か、エネファームなどを導入したガスの住宅かの選択だった。だが電力小売り自由化後は、これらの機器をより効率的に組み合わせた「ガス&パワーモデル」が求められる新たな段階に突入する。

 家庭用燃料電池はこれまで価格がネックとなってきた。現在は1台約140万円で、従来型の給湯器が約30万円であるのに比べて割高だ。だが、電力小売り自由化で購入者層が拡大すれば、価格低下が進む可能性が高まる。技術革新と相まって、19年ごろには80万円程度まで価格が下がると見ている。

 電気を効率的に使うことは、家計にとって重要な要素にもなる。総務省の14年の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出に占める電気代の負担は3・8%で、月平均1万1203円の負担になっている。家庭用燃料電池などの価格が下がれば、電気料金削減効果と合わせて経済的な効果がより明確になる。

 年金収入に頼る高齢世帯をはじめ生活費のやりくりに敏感な世帯は、発電システムや電力を効率よく使うための機器を導入して電力小売り自由化を活用することで、電気料金の負担を軽減することが可能になる。


 ◇電力供給が効率化


 電力システム改革は、日本の成長戦略と一体のものでもある。

 昨年4月に閣議決定した「第4次エネルギー基本計画」では、従来の安定供給、環境への適合性、経済性に加えて国際的な視点と経済成長の視点を盛り込んだエネルギー政策の方向性が示された。

 同計画では、再生可能エネルギーの導入加速と電力自由化などの規制改革を明確に打ち出している。電力自由化はスマートコミュニティー(電力・熱・水などインフラの効率的な管理・最適制御を実現した社会)の実現に向けた大きな原動力になる。エネルギーをインターネット化し、地域内全体のエネルギー需給を最適にコントロールするスマートコミュニティー構想は、もともと日本の新成長戦略として注目されてきた。

 電力自由化に伴い、エネルギー事業者各社はもちろん、多数のICT(情報通信技術)企業が電力市場に参画すると想定される。例えば、物理的なインフラを整えるためにゼネコンや商社の参入が考えられる。本家の電力事業者も既存の市場を侵食されれば、他の分野で何らかの方法で失った分を取り戻そうとするはずだ。

 このように電力自由化で生まれるスマートコミュニティーという新たな市場にさまざまな事業者が参入し、そこで競争を繰り広げることで市場が活性化していく。それが日本の各地で展開されれば、日本全体を活性化することにつながるだろう。

 自由化による電力参入意欲は自治体や企業においても非常に高く、自由化以前からすでに各地域、各社で実証実験が行われている。それくらい経済成長、地域活性化のために日常生活や社会活動に必要不可欠な電力という商品を使ったビジネスモデルを志向する膨大なニーズがある。いま、新たなビジネスモデルを構築できる法的枠組みや制度が整いつつある。これにより多様な企業がエネルギー密度の高い都市部でのシェア拡大を狙いはじめている。(了)

福島後の未来をつくる

この記事の掲載号

2015年11月17日号

 

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