2015年

11月

24日

第13回 福島後の未来をつくる:山地憲治 公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長 2015年11月24日特大号

 ◇やまじ けんじ

1950年香川県坂出市生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。77年電力中央研究所に入所、94年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻(現電気系工学専攻)教授。2010年4月より(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長。東京大学名誉教授。

 ◇温暖化対策の切り札CCS

 ◇カギはCO2の有効活用


山地憲治

(公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長)


 東京電力福島第1原子力発電所事故後、CO2削減に向けて世間の注目は再生可能エネルギーと原子力の扱いに集中しているようだが、エネルギー政策をより長期的かつグローバルな視点からとらえると、CO2を回収、貯留できるCCSの技術がキーワードとなる。

 経済性確保の視点からは、今後も化石燃料、なかでも石炭の活用が重要だ。石炭火力は日本はもちろん、世界的に見ても重要な電源であり、特に中国やインドなど多くの途上国においては50%を超えるシェアを占める。一方、石炭は化石燃料のなかでも発熱量当たりのCO2発生量が最も大きく、地球温暖化対策においては悪者扱いされている。CCSは化石燃料活用と温暖化対策を両立させる「切り札」と言える。


 ◇国際機関の高い評価


 CCSは、工場や発電所で発生するCO2を分離回収し、地下や海底下に封じ込める技術だ。


地球環境産業技術研究機構(RITE)では、10年以上前に新潟県長岡市において約1万㌧のCO2を地下約1㌔㍍に圧入し、圧入されたCO2の挙動を監視するさまざまな技術を開発しており、地下でのCO2の安定性を確認している。また北海道苫小牧市では年間約10万㌧を圧入するCCSの実証が進んでいる。

 国際エネルギー機関(IEA)では、50年に世界のCO2排出量を現状から半減する技術のシナリオ分析を行っており、CCSは想定削減総量のうち約14%分を担う重要技術とされている。

 また、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は温暖化を2度C以内に抑える目標を実現するシナリオの分析を行っているが、その中でのCCSの評価も極めて高い。

 例えば、対策技術の一つが使用できなかった場合の2度Cシナリオ実現コストの評価を見ると、CCSが使えない場合の2100年までのコストは、CCSが使える場合の2倍以上になると評価されており、これは原子力が使えない場合の7%増や太陽光・風力の利用が限定的になる場合の6%増に比べて格段に大きい。

 さらに、IPCCは05年にCCSに関する技術知見を取りまとめた特別報告を刊行しており、地球上にはCO2貯留の莫大(ばくだい)なポテンシャルがあることを確認している。

 つまり、地球温暖化対策をグローバルで長期的視点から行うと、CCSの意義は極めて明確になる。


 ◇カーボンマイナスの技術


 意外に思われるかもしれないが、CCSを活用するとエネルギー生産に伴うCO2排出量をマイナスにすることもできる。これは、バイオマス(化石燃料を除く生物由来の有機性資源)とCCSを組み合わせた場合に実現する効果で、地球温暖化対策の研究者の間では、BECCS(バイオマスエネルギー+CCS)という名で知られている。

 木くずや建設廃材などのバイオマス資源をエネルギー利用するとCO2は発生するが、このCO2は大気中から光合成で固定したCO2を再び大気中に戻すものと評価され、これをカーボンニュートラルと呼ぶ。

 カーボンニュートラルなバイオマスエネルギーはCO2を正味には大気中に増やさない技術と評価される。これにCCSを組み合わせて大気中に戻るはずのCO2を地下に封じ込めれば、大気中のCO2を減少させることになる。つまりカーボンマイナスが実現するのだ。

 もちろんBECCSにはさまざまな課題がある。そもそもバイオマスのエネルギー利用には原料の収集・輸送、燃料への変換などの過程でエネルギーが投入される。そしてCCSと組み合わせる場合にはさらにエネルギーが必要になる。これら全プロセスを通してトータルでCO2を削減できるかどうか、ライフサイクル全体を見通した評価が必要となる。また、大規模にバイオマスを利用すると、世界の土地利用に多大な変化を及ぼす。大規模な土地利用変化による食料生産や生物多様性保全への影響も慎重に評価しなければならない。しかしIPCCの分析によると、CCSは2度Cシナリオの実現に不可欠な技術と評価されている。特に発電部門において、BECCSの活用で50年以降の発電部門からのCO2排出はマイナスに転じるという姿が描かれている。


 ◇まずはCCUS実用化を


 世界では年間100万㌧程度のCO2を地下に圧入する大規模CCSが10件を超えて操業中である。1996年に世界に先駆けて操業を開始したノルウェーのスライプナー・プロジェクトは、天然ガス随伴のCO2を北海の海底下に貯留している。天然ガスを精製する過程でCO2を分離する必要があるので、同CCSプロジェクトによる追加コストは圧入に伴う部分だけだ。それ以外は天然ガス生産コストとなる。

 しかもノルウェーでは1㌧当たりのCO2に40米㌦(約4800円)程度の炭素税が課せられるので、CCSに経済的合理性がある。エネルギー開発企業は回収、貯留した分のCO2に炭素税を支払わずに済む。

 ただし、炭素税のようなインセンティブのないノルウェー以外の国では、CCS単独では事業性が成り立たないので、現在のところすべて石油増進回収(EOR)と組み合わせて行われている。このEORとはCO2を原油井に圧入して油田に残っている原油を増産するもの。回収したCO2を有効利用することで利益を上げることができるわけだ。

 石炭火力へのCCS適用も14年に初めてカナダのサスカチュワン州にあるバウンダリーダム火力発電所で操業を開始したが、これも近くの油田のEORと組み合わせている。EORのように、回収したCO2を経済的に有効利用(Use)するCCSをCCUSと呼んでいる。

 つまり、CCSの現在の最大の課題は経済性である。

 脱硫や脱硝でも回収した硫黄や窒素分の有効利用を図っているように、CCSでも回収したCO2の有効利用を図るCCUSは当然の対応である。ただし、温暖化対策として、CCSにより回収されるCO2は、世界全体では年間10億㌧単位の規模になると想定されている。

 このような大規模なCO2利用の用途としては、現状ではEOR以外には見当たらないが、光合成促進や地熱回収利用などCO2利用を目指した基礎研究も進められている。

 また地球温暖化対策技術としてのコストを比較すると、CCSはそれほど高価でない。RITEの評価では、石炭火力にCCSを適用した場合、現状技術でCO2削減1㌧当たり8000円弱、先進技術が開発されれば半分程度になると見ている。

 CCSによる発電効率の低下を考慮しても、石炭火力発電1㌔㍗時当たりのコストは4~8円程度である。この程度の増分ならば、現状でも太陽光発電など高価な再エネ発電よりは安い。温暖化対策はイメージではなく冷静な経済性評価を踏まえて進めてほしい。

 なお、地中に大量のCO2を封じ込めるCCSには、漏えいや地震の誘発など安全性への懸念がある。CCSに伴う安全リスクを社会が受け入れられる水準に限定することは、現在の技術水準でも達成できると考えられているが、さらに一層の安全確保を目的として、国の委託を受けた研究も進んでいる。