2015年

12月

01日

ワシントンDC 2015年12月1日号

◇米輸銀に権限は戻るか

◇異例の請願署名で審議開始


安井 真紀

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)


 米国輸出入銀行(米輸銀)が6月末に新規与信業務の権限を失効してから4カ月。権限の再承認を巡り、法案審議が動き出した。

 米輸銀は、米連邦政府が設立した公的輸出信用機関だ。貿易金融を通じて、特に米国の輸出を促し、雇用を創出することを使命とする。同行は、法律で業務権限を授権されている。法律が成立しなければ、新規与信の業務ができない。9月25日、米輸銀の業務権限を2019年まで4年間延長する法案が提出された。再授権を支持するのは民主党と共和党穏健派。反対するのは共和党の保守派と急進派だ。両者は対立し、反対派のヘンサーリング下院金融サービス委員長が、審議を拒否した。

 委員会への法案提出後、30日以上審議されない場合、委員会を迂回して、本会議で直接法案を審議できるようにする請願署名(ディスチャージ・ペティション)がある。この異例の手続きが下院議員の過半数の支持を得て成立。10月26日、下院本会議で、法案の審議開始を問う投票が行われた。

 結果は、共和党議員62人が民主党議員184人に賛同し、賛成246票、反対177票で審議開始が決定。翌27日の法案の投票は、賛成票がさらに伸びて下院を通過。審議の舞台は上院へ移った。

 7月から10月までの間、米輸銀の主要顧客や産業界は、米輸銀再授権への支持を再三、表明した。米国製造業協会は、8月下旬に共和党向けの資金サポートを無期限で延期すると発表。米ゼネラル・エレクトリック(GE)と米ボーイングは、米輸銀の業務権限の再承認に反対する共和党議員への政治献金を見合わせた。加えて両社は、米国内の生産拠点からフランス、ハンガリー、中国、カナダ、英国への移転と海外生産拠点の拡張を発表した。

 10月23日に開催された下院外交委員会小委員会の公聴会では、米輸銀の権限の失効について参加委員が「米国内の雇用の喪失のみならず、長期的なファイナンスのめどが立たず、米企業が新規事業の入札中止や受注失敗に追い込まれ、下請けの中小企業にも少なからず影響がある」という趣旨の証言をした。

 一方、議会では、9月末にベイナー下院議長が10月末での辞任を発表。後任は、当初、有力視されていたマッカーシー下院院内総務が早々に出馬を辞退、その後、10月29日にライアン歳入委員長が新議長に選出されるまで混乱が続いた。米輸銀の再承認を支持するベイナー議長は辞任直前、債務上限延長法案等の重要法案に加えて米輸銀の再授権法案も下院を通過させて、政界から引退した。

 

◇国際的な役割高まる

 

 近年の国際商取引では、米国と日本を含む経済協力開発機構(OECD)加盟諸国と、非加盟国との競争が激化。輸出取引の適切な競争を実現するために、加盟国の間でファイナンス条件を調整しても、非加盟国が破格の条件を提示すれば泥沼の潰し合いに陥りかねない。現在、非加盟国を含めた輸出信用ルールの策定を目指し、実務的な検討が始まったなか、主要加盟国の公的輸出信用機関として米輸銀の存在は欠かせない。

 10月末に米国上院議会に送られた米輸銀再授権法案は、高速道路法案に付帯させる形で審議されることとなった。現行の高速道路法の審議に合わせ、上下両院で可決・成立される見通しだ。

 米輸銀の業務権限が再承認される4年の間には、大統領選があり、政府と議会の関係も変わる。そのなかで、米輸銀に期待される役割は、どのように変わっていくだろう。(了)

関連記事

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2015年12月1日号


【特集】保存版 相続増税の新常識

 増税編 相続増税10カ月問題始まる

     相続増税5つの落とし穴

 基礎編 知っておきたい相続の基礎知識