2015年

12月

01日

第14回 福島後の未来をつくる:伴英幸 原子力資料情報室共同代表 2015年12月1日号

 ◇ばん ひでゆき

1951年三重県四日市市生まれ。早稲田大学卒業。生活協同組合専従を経て、89年脱原発法制定運動の事務局スタッフ。90年原子力資料情報室スタッフとなる。95年同事務局長。98年同共同代表。

 ◇地方自治体は原発リスクを認め事故が起きた時の覚悟に目覚めよ


伴英幸

(原子力資料情報室共同代表)


 東京電力福島第1原子力発電所事故が起こったにもかかわらず、原発を立地している地方自治体は一部を除いて政府に責任を依存する体質を変えていない。

 原子力規制委員会設置の前に原発を審査していた原子力安全・保安院の時代では、審査合格は経済産業大臣が行うことから、原発の安全に対する責任は政府が負ってくれると住民も立地自治体も思っていた。

 事故のリスクは昔からゼロでないのだから、ある意味では幻想なのだが立地自治体はどっぷりと原発安全神話に浸っていたのだ。しかし、福島原発事故により、この構図は完全に崩れた。原発の許認可権者は経産大臣から原子力規制委員長に移った。そして、新たな規制基準に合格しても原子力規制委員長が言うように、それは原発の安全を保証したものではない。原発立地に絶対の安全がないと明言しているわけだ。


 規制基準合格後の手続きは、立地県と地元立地市町村が電力会社との安全協定に基づいて、稼働への諾否を判断することになる。仮に重大事故が起きた場合には、責任の一端は稼働に同意した自治体が負うことになる。重い判断を迫られることになったのだ。ところが地方自治体はこの責任を回避していまだに政府に原発の安全の保証を求めている。

 伊藤祐一郎・鹿児島県知事は政府に安全の保証を文書で求めたが、返答は「規制委員会が再稼働を認めたら再稼働を進めるのが政府の方針」という通り一遍のものだった。

 安倍晋三首相は中村時広・愛媛県知事に、「重大事故が起きたら政府が責任を持つ」とさらに踏み込んだ約束をしたが、政府が責任を取れるはずのないことは、福島原発事故の現状を見れば明らかだ。住民への賠償金が5兆円を超え、2年後には補償を打ち切るという。いまだに11万人が避難生活を強いられ、地域社会は崩壊しつつある。除染事業の効果も限定的で帰還政策への批判は厳しい。

 こうした事故がもたらした現実は、原発立地自治体に大きな変化を迫っている。「原子力は国策だから政府が責任を負うべき」「迷惑施設を受け入れることで国策に協力している自治体には見返りとして交付金を支給するのは当然だ」という従来の在り方を変えていかなければならないのだ。自治体は事故後の新しい体制に対応して、原発のリスクをどこまで受容できるかを自身で判断していくことが求められている。

 この判断のために、規制委員会の適合性審査内容を県が独自にチェックする必要がある。それには形式的な検討組織では機能せず、批判的な専門家も含めた組織を設置しなければならない。組織の審議は広く公開され、県民の意見、また少なくとも原子力防災対策範囲拡大により対象となった隣接自治体の意見を十分に反映した判断が求められる。


 ◇自治体消滅の危機も


 原発立地自治体は従来から避難計画を含む原子力防災計画を立てている。もともと放射能の大量放出を想定しない防災計画だったので、かねてから実効性に疑問が出されていた。福島原発事故ではその欠陥を突かれた。大渋滞の車列が放射能のなり残された。放射能汚染をチェックするスクリーニングの基準は10倍に緩和されてしまった。避難先を1~2週間ごとに点々と変えざるを得ない多くの住民がいた。

 事故の反省から従来の10㌔の対策範囲を30㌔に拡大。それに伴い周辺30㌔圏内の自治体も原子力防災計画の策定が必要になった。しかし多くの自治体は困惑している。原子力防災計画は住民を被ばくから守るために作られるが、計画を具体的に考えるほど、被ばく回避が難しいことが見えてくる。机上の計画は政府が策定したひな型に倣って作ることはできるが、どの自治体の計画も実効性に乏しい。汚染車両をどこで除染して、ヨウ素剤をどこで飲ませるか、災害弱者の避難方法などなど、さまざまな事前準備が必要になる。こうした詳細まで作りこめている自治体は少ないと聞く。今の状況では、重大事故時には福島原発事故と同じ過ちを繰り返すことになろう。

 そして原子力防災計画の範囲を拡大したことにより、避難対象となる住民数が激増した。最大は茨城県の東海原発の場合で避難対象人口は100万人におよぶ。

 そもそも重大事故が起きたら町や村が崩壊してしまい、地方自治体が消滅する事態になりかねない。この事態を想像すれば、これまでのように政府頼みでは済まされないことは明瞭だ。

 さまざまな問題や住民の反対があるにもかかわらず、原発立地自治体が再稼働を容認していくのは、地域経済が原発依存型になっているからだ。地方自治体の収入も電源3法交付金、核燃料税、固定資産税などのいわゆる原発マネーに依存している。

 電源3法交付金制度は原発立地をスムーズに進めるために1974年に制定された。当初は稼働後5年までが交付期間だったが、今では廃炉までの恒久的な制度となっている。経産省の資料によれば、建設から運転開始40年までに立地県や自治体に交付される金額は合計で1384億円(135万㌔㍗級の原発1基に対して)となっている。資料では示されていないが、運転期間の延長や廃炉に対しても交付金が支給されることになる。当初の交付先は道路やいわゆる箱もの中心だったが、現在ではそれらの維持費まで含めて使い勝手を良くしている。立地自治体からの強い要望に応えたものだ。自治体にとっては一度誘致すれば黙っていても交付金が入ってくる構造になっている。

 しかし、いつまでも原発の時代が続くわけではない。国が決めたエネルギー基本計画に原発の建て替え(リプレース)は明記されていなく、仮に運転期間を20年延長しても、近い将来には廃炉の時代がくる。

 残念ながら、未来に向けて胸を張るような確固たるビジョンをもつ原発立地自治体はまだない。わずかな事例としては、中越沖地震のあと新潟県では柏崎刈羽原発が30年後には廃炉になるだろうからと研究報告書がまとめられただけだ(『30年後の柏崎を考える』新潟県自治研究センター)。とはいえ、福島原発事故は原発依存経済から脱却して町が生きのびていく姿を今から考えておくことを突きつけた。自治体の在り方を問い直し、原発依存からの脱却に目覚めよとの警鐘だったといえる。


 ◇許認可権の一部を移管へ


 現行の再稼働の同意手続きである、電力会社と立地自治体との安全協定には法的な根拠がない。これでは仮に自治体側が同意しなかった場合でも、最終的には電力会社が無視して再稼働することも可能である。従って、現状の同意手続きは実効性のない形骸化に陥る恐れが高い。

 また、防災計画拡大による30㌔圏内の隣接自治体は立地自治体並みの安全協定の締結を求めている場合が多い。しかし、電力会社の抵抗か、立地県の抵抗か、隣接自治体は立地自治体並みの安全協定の締結を拒絶されている。

 立地自治体が電力会社と結ぶ安全協定は原発の立地や建て替え、重大な設備の変更に関して事前同意が定められている。それに対して隣接自治体が結ぶ現状の安全協定は単なる事故時通報だけで済まされるという。大きな違いだ。重大事故によって影響を被るのは差がないのだから、隣接自治体も立地自治体並みの安全協定にするべきだ。

 原子力規制委員会設置は、地方自治体に独自の判断を求める制度変更でもある。地方自治体が自ら行う重い判断にはそれにふさわしい法的な権限のある制度としなければならない。