2015年

12月

08日

そうだったのか!TPP:日本の農業が破壊される

◇生産減1兆円超、安全面も懸念

 

鈴木宣弘

(東京大学大学院教授)

 

 筆者らがTPPの経済効果について内閣府と同じモデルを使って試算したところ、今回の合意による国 内総生産(GDP)の押し上げ効果はプラス5000億円、0・07%にすぎない。一方で、農林水産分野の生産額は、控えめに見ても1兆円超のマイナスで、 食品加工生産額も1兆5000億円減る計算だ。

 ◇米価下落で生産減少

 心配なのは、日本の食卓を支えてきた農家への影響である。
 稲作農家は一層の米価下落圧力にさらされるだろう。既存の輸入義務枠(ミニマムアクセス)77万トンに加え、米国と豪州向けに計8万6200トン(玄米ベース)の無関税輸入枠が設定されることになったためだ。
  政府は在庫を増やして市場を隔離するから影響はないと言うが、近年のコメの在庫と価格の関係を見ると、在庫米が1万トン増加すると、コメの価格は60キロ 当たり41円下落する傾向がある。国内の在庫米が新たに8万6200トン増加するとしたら、同354円程度の下落圧力となり、1000億円程度の生産減に つながる計算だ。TPPが発効すれば、せんべいやあられの関税も削減・撤廃されるから、米菓の輸入増も価格低下に追い打ちをかける。
 米価の下落は、今でも多くの農家が音を上げるほど進んでいる。ここに輸入米の増加圧力が加われば、さらなる価格低下は避けられない。
 オレンジやリンゴ、ブドウなど、果樹経営に与える影響も大きい。生果や果汁には、栽培農家を守るため16~30%前後と比較的高い関税が課されてきたためだ。
  日本園芸農業協同組合連合会(日園連)などが過去15年分のデータを分析したところ、例えばブドウは、価格が1割低下すると生産量が約2%減少する。 17%の関税が即時撤廃されると、ブドウの輸入価格は14・5%下落し、それに伴って国産品の価格も下落すると考えると、約3%の生産減少につながる計算 だ。
 同様に、ブドウ果汁の輸入価格が1割下落すると生産量は5%減少。現行の29・8%の関税撤廃により、生産量は約12%減少する。
 生果と果汁の影響を併せて考えると、国内のブドウ生産額は約3割(300億円)減少する可能性がある。ミカンの生産額も、オレンジとオレンジ果汁の関税撤廃の影響により最大6割(約900億円)、リンゴの生産額も3~4割(400億~500億円)減少する計算だ。


 ◇畜産農家にダブルパンチ

 そして特に、深刻な影響を受けると考えられるのは畜産農家だ。
 牛肉は実質的にTPP発効後16年目以降は現行の38・5%から9%の関税で無制限に輸入されることになる。TPP参 加国からの輸入量が一定量を超えると発動される緊急輸入制限措置「セーフガード」が設定されたが、発動基準が厳しく歯止めになりそうもない。その結果、輸 入牛肉価格は2割強下落するだろう。国産牛肉価格も連動して下がるから、国内の牛肉生産額は2000億~3000億円減る可能性がある。

 畜産農家にとって重要なのは、生産コストと市場価格の差によって生じた赤字分の8割を補填(ほてん)する政府の経営支援制度(通称マルキン)の財源が関 税収入であることだ。今回の合意で牛肉関税収入は1000億円近く消失する。牛肉価格の低下による畜産農家の減収分を補填するため、本来なら各農家への支 援を増額しなければならないのに、その財源となる関税収入が大幅に減少する結果、畜産農家に十分な支援を支払えない困難に直面する。畜産農家は、価格下落 と支援金の減少というダブルパンチに見舞われかねない。
 関税のかけ方が大きく変わる豚肉は、安価な部位だけを大量に輸入する事業者が目立つようになるだろう。発効後は安価な部位の関税が大幅に引き下げられる。安い部位の輸入が増えると、国内価格も4割下落し、国内生産額が3000億~4000億円減少すると予想される。