2015年

12月

08日

エコノミストリポート:世界を揺るがすオイルマネー 原油下落が中東産油国を直撃 2015年12月8日特大号

 ◇財政悪化で政情不安定化リスク


畑中美樹

(国際開発センターエネルギー・環境室研究顧問)


 原油価格の低迷が、中東産油国の財政に大きな影響を与えている。中東産油国財政の悪化は、すでにこれら諸国の政府系ファンド(SWF)の約4・2兆㌦(約504兆円)といわれる海外資産の運用法を変化させており、これが今年8月の世界的な株安など、国際的な金融市場の不安定化の一因となっていると指摘される。また、これらの国々で財政が緊縮に向かうことにより、治安の悪化や情勢の混迷を招くリスクも高めている。中東産油国は情報公開が十分進んでいないため、断片的に伝わる情報を総合することで、各国の財政状況の今を把握してみたい。

 原油価格(米国産標準油種=WTI)は、昨年半ばまでの1バレル=100㌦前後の高値から、今年8月には約6年半ぶりに一時40㌦を割り込んだ。その後、10月には50㌦前後まで値を戻したものの、11月下旬には再び40㌦を割り込む水準にまで下落した。国際エネルギー機関(IEA)は11月10日、2015年版「世界エネルギー展望」を公表し、20年には80㌦まで上昇する「中心シナリオ」を示したが、欧米など主要6カ国が今年7月、イランと核問題で合意。対イランの経済制裁が段階的に解除され、イラン産原油の輸出が増える見込みなどから、油価は今後も当面、低迷が続くとの見方が強い。

 サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などの中東産油国では、国家の収入の大半を原油輸出に依存する。昨年半ばまでの原油高騰期には、余剰の収入をSWFを通じ世界各地の債券や株式、不動産などに投資して運用してきた。しかし、油価の急落によって収入は急減を余儀なくされ、財政の緊縮化や財政赤字を穴埋めする債券の発行のほか、SWFの運用資産を取り崩す動きも一部に生じている。

 米金融大手の推計では、産油国SWFは14年、日本株も含む金融資産を最大2700億㌦(約32・4兆円)も買い越したが、15年は最大1000億㌦(約12兆円)の売り越しになるという。

 ◇サウジは5年ぶり赤字


 油価の下落は世界最大の産油国、サウジの国家財政に端的に表れている。サウジは15年度予算で386億㌦の赤字を見込み、11年度以来4年ぶりの赤字予算を編成。14年度決算では5年ぶりとなる175億㌦の財政赤字となった。国際通貨基金(IMF)は油価低迷による歳入の著しい落ち込みから、サウジの15年度の財政赤字幅が少なくとも1000億㌦に拡大するとみている。サウジ政府は今年7月以降、07年以来となる「開発債」と称する政府債を毎月約200億リヤル (約53 億㌦)発行している。 同国のアッサーフ財務相は9月6日、油価下落による財政赤字の拡大には「不要不急の歳出の削減」「政府債やイスラム債(スクーク債)の発行」で乗り切る考えを表明した。同国の政府債の対国内総生産(GDP)比率は1999年、一時103%にまで達したが、昨年末にはわずか1・6%まで低下していることもあり政府債の発行で財政赤字に十分対応可能というのがサウジ政府の基本的な考えである。また、サウジの金融事情に詳しい湾岸銀行筋は11月、筆者に対し、同国が17年中にも初となる海外市場での債券発行を検討中であることを明らかにした。

 ただし、IMFは10月21日に発表したサウジ経済に関する報告書で「同国が現在検討している政策では中期的な財政再建を果たすことはできない」として「現政策の継続では原油安により5年以内に金融資産を使い果たす恐れがある」と警告する。また、このIMF報告書の発表から9日後の10月30日、米格付け大手のスタンダード&プアーズ(S&P)は、同国の長期債格付けを「AAマイナス」から「Aプラス」へと1段階格下げ。油価低迷が同国の財政に与える影響について、国際社会の目は厳しさを増している。………