2015年

12月

14日

「女性活躍」が進まない本当の理由 業務軽減だけでは“ぶら下がり”に

 ◇2015年12月15日号


国保 祥子

(静岡県立大学経営情報学部講師)

 

いわゆる「寿退社」をする女性は年々減り、育児休業(育休)制度を導入している企業は全体の8割を超えた。政府が打ち出した「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする」という目標もあり、女性の活躍は期待されている。


しかし一方で、現在、女性管理職比率はわずか6・6%である。海外諸国と比較しても、日本は就業者に占める女性比率は決して低くないのだが、管理職に占める女性比率は47・1%のフィリピン、43・4%の米国、36・1%のフランスなどと比較して著しく低い。

 

 ◇意欲の“下方修正”

女性の管理職比率が低い背景として、たとえ経営側に女性を昇進させる意欲があっても、女性が出産で離職してしまうため対象となる女性がいない、昇進を打診しても本人が希望しないというケースは多い。最近では、出産後の女性が、就労意欲が低い状態で必要最低限の業務だけをこなす「ぶら下がり化」が問題になっている。

これらの理由を「女性は子どもを持つと仕事への意欲を失うから」とする人は多い。しかし、実は出産後の女性の就業継続意欲は非常に高い。例えば、厚生労働省「第1回21世紀成年者縦断調査の概況」の正社員女性を対象にした調査では、子どもがいる女性の84%が「就業継続意欲あり」と回答している。

 

男女雇用機会均等法、育休制度、短時間勤務制度(時短)など、女性が育児をしながらも仕事に取り組みやすい制度は整ってきた。それなのに、なぜ出産後に復職した女性の離職やぶら下がり化が起こるのだろうか。

 

実は、育休制度の導入は、女性の継続就業にほとんど影響を与えていない。導入の前も後も変わらず6割が離職に至っている。育休から復職する女性にとって最大の課題は、長時間労働をはじめとする時間的・地理的制約のない人材を前提とした職場の働き方である。そのため、育児による制約を抱える状態では責任や機会が与えられず、評価もされないと判断し、意欲を失うのである。

 

小さい子どもがいると、18~21時の時間帯に育児・家事が集中する。そのため独身時代は残業をいとわない働き方をしていた女性でも、育児を実家に任せでもしない限り、この時間に自宅にいられるような働き方をせざるをえない。子どもは頻繁に熱を出すため、看病のために自宅にいなければならない日も増える。

 

それでも、深夜や早朝、自宅での業務など柔軟な働き方ができればカバーできるが、そうでなければ、産前と同じパフォーマンスを維持することは難しくなる。女性自身も業務を完遂できるかどうか不安を抱くようになり、結果として積極的に責任を負わなくなっていく。この消極的な態度は、客観的に見ると「やる気がない」という評価となる。

 

管理職側も突発的な欠勤リスクへの不安から、責任の少ない業務を女性にあてがいがちであるが、責任の少ない業務は達成感や成長の機会に乏しいため、こうした状況に適応するために女性は自らの就労意欲を下方修正するわけである。

 

既存の企業の評価制度は主に無制約に働く人材を前提としているため、「残業ができない限りはいくら頑張っても適切に評価されないのではないか」と判断した女性は、早々に勝負から降り、必要最低限の業務だけをこなす「ぶら下がり」になっていく。

 

また、多くの女性従業員は育休から復職する際に時短を利用する。3歳未満の子を養育する労働者が対象で、子どもが1歳の正規雇用継続者の3割が利用していると言われている。しかし、時短利用者とフルタイム勤務者との業務配分や評価、情報共有の方法といった管理上のノウハウはまだまだ確立されているとは言えない。

 

そのため管理者は、責任範囲の小さい業務を時短利用者に割り当てる傾向がある。いったん成長する機会を失うと、管理職は挑戦的な業務を与えることをさらに避けるようになる。このように成長機会を逃して適切な知識やスキルを獲得できないまま年齢を重ねてしまうと、就業意欲は低下する。

 

このように、時間的・地理的制約のない働き方が前提の職場環境では、女性は制約を抱えない、すなわち子どもを持たないと決めない限り、昇進のような大きな責任を受け入れることに前向きになれないのだ。


女性が昇進を視野に入れない働き方をしていると何が起こるのか。

 

当たり前のように昇進を目指す男性と比べ、上司や経営者が何を考えているかを学習する機会を持たないため、マネジメント思考が欠落する。その結果、組織全体にとって何が必要かを考えず、目の前の仕事に注力する局所最適思考や、組織の便益より個人の便益を優先する権利主張型思考になっていく。

 

筆者も「この女性は自分の権利ばかり主張するなあ」と感じることは多いのだが、じっくり話を聞くと、単にそれ以外のコミュニケーション方法を知らないだけ、ということが少なくない。つまり、女性に昇進の機会を与えない職場とは、権利主張型の女性を量産する職場でもある。

 

女性が「ぶら下がり」「権利主張型」になるメカニズムは決して生まれつきの特性ではない。マネジメント思考の欠落は、職場環境要因であり、思考トレーニング不足の結果に過ぎないことが分かるだろう。

 

実際、筆者が主宰している「育休プチMBA勉強会」では育休中の女性にマネジメント思考を身に着けるためのトレーニングを提供しているのだが、アンケート調査では、勉強会に参加した女性たちの9割が所属企業への貢献意欲を高めている。

 

勉強会では、MBA(経営学修士課程)に倣い、経営現場で起こりがちな問題事例を題材として経営者の目線で対処方法を議論する。例えば、時短女性が担当している案件で定時後に発生したクレームのフォローが続いた同僚が不満を募らせる──というケースを扱う。参加回数を重ねてトレーニングを積んだ女性ほど、議論の中での主語が「私が」から「会社が」になっていく傾向がある。そして自らが制約人材として、組織の目標達成にどのように貢献できるかを考えるようになっていく。

 

両立するための考え方を身に着けると、出産後に高まった就労意欲を復職後も維持することができる。勉強会に参加した女性たちからは「育休前よりも成果が出しやすくなった」「新しい業務にチャレンジすることにした」といった声が上がる。

 

◇権利主張から組織貢献へ

 

つまり、女性に対してマネジメント教育の投資をすることで、女性たちは“権利主張者”から“組織貢献者”に変わるのである。同時に、制約を抱えながらでも働きやすい職場環境の整備と、制約を抱えながらでも経験できる能力開発の機会を提供する必要がある。

 

具体的には、在宅勤務制度等の職場環境を整えることや、子どもの病気による欠勤が業務に影響を与えない体制やルールの整備、個人ではなくチームで成果を出す働き方に移行すること等が挙げられる。

 

さらに言えば、制約のない人材を前提とした長時間労働については、業務改善による恩恵を得るのは子育て中の女性だけではない。生産性の高い業務遂行体制は、昨今問題化している従業員のメンタルヘルス改善につながる。空いた時間が増えれば、大学院に通うといった能力開発の機会も増える。

 

今後、日本は確実に人口が減り、同時に少子高齢化が進む。「均質で、長時間働く労働力を、大量に」手に入れることは難しくなる。優秀な男性がいくらでも応募してくるという自信がある企業は、強気でいればよいかもしれない。

 

そうでないのなら、育児中、介護中、持病を抱えている人など、働く時間や場所に制約を抱える人材、すなわち制約人材を活用しない限り、企業活動自体が危うくなる。育児中の女性をはじめとする制約人材が活躍できる職場環境を整備し、教育投資をすることは、人口不足社会を迎えるための生存戦略なのである。(了)



この記事の掲載号

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