2015年

12月

08日

第15回 福島後の未来をつくる:村沢義久 立命館大学大学院客員教授 2015年12月8日特大号

 ◇むらさわ よしひさ

1948年徳島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学MBA。アメリカ系コンサルティング会社日本代表、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデントなどを経て、2005年から10年まで東京大学特任教授。13年より現職。

 ◇現実的な減原発に必要なポリティカルキャピタルの視点


村沢義久

(立命館大学大学院客員教授)


 9月10日、九州電力川内1号機が営業運転を開始し、2013年9月以来続いていた「原発ゼロ」の状態が2年ぶりに終わった。川内2号機も、11月半ばの営業運転を目指している。10月26日には愛媛県の中村時広知事が、四国電力伊方3号機の再稼働を承認。四電は、来年春の再稼働を目指すと言う。

 しかし、これで、日本が原発時代に逆戻りかと言うと、そうではない。原発を取り巻く状況は複雑。「必要ない」と「必要」が交錯する。


 ◇原発なしのふた夏


 原発が必要と考える人たちは、「原発なしでは電力が不足する」と言う。


しかし過去2年間、夏も冬も原発なしで乗り切った。夏の電力ピークは、冷房需要の急増によってもたらされるが、ここで威力を発揮するのが太陽光発電だ。太陽光は夜にはストップし、悪天候時にも発電量がガタ落ちするが、その代わり、晴れた昼間に最高の威力を発揮する。

 日本の太陽光発電は今年7月時点で、累計導入量約2700万㌔㍗(原発27基分)に達した。全電源(2・4億㌔㍗)の11%に上る。設備利用率が低いため、年間発電量で見ると、全電源の3%に満たないが、夏の電力ピーク時には、日照条件も良いため、大きな役割を果たした。

 経済産業省データ「2015年度夏季需給検証について」によると、沖縄を除く大手電力9社の今夏の電力最大需要日の総供給力で約6・4%を太陽光が担った。この冬も原発なしで十分乗り切れそうだ。政府報告書「15年度冬季の電力需給対策について」(10月30日発表)によると、いずれの電力会社も電力の安定供給に最低限必要な予備率3%以上を確保できる見通しだ。日本の電力は原発なしで、安定しているのである。

 では、日本にはもはや原発は必要ないのかと言うと、そう簡単ではない。地球温暖化の問題だ。フランス、パリで11月30日から「COP21」(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)が開催され、20年以降の温暖化対策の枠組みづくりを目指す。以前の枠組みである「京都議定書」は、1997年のCOP3(京都会議)で制定されたが、全く効果を上げられなかった。18年ぶりに新たな枠組みづくりを目指す今回は、先進国、中国、インドも含め世界150カ国が参加を表明している。

 これら参加国に対し、ヨーロッパの独立系研究グループのClimate Action Tracker(CAT)が国ごとの評価を行っている。EU(欧州連合)、アメリカ、中国、インド、ブラジルが得たのは「中程度」。日本はどうかといえば、評価はなんと「不十分」。最大の理由は、削減幅が小さすぎることだ。日本の目標は、30年までに、13年比で26%の削減。対するEUは、30年までに90年比で40%の削減目標だ。さらに、日本がベースとしている13年は、3・11以降に原発が止まったため、CO2の排出量が非常に大きくなっていた年。「13年比26%削減」は「90 年比18%削減」にしかならないのだ。

 再エネの採用も主要国、とくにEUと比較して非常に見劣りする。経産省は今年5月28日、30年度の電源構成比について、原子力20~22%、火力56%程度に対し、再生可能エネルギー22~24%とする政府案を提示した。これは「最低でも45%程度」とするEUの半分でしかない。

 CATでは、日本は、現在の低い目標さえ達成できないのではないかと見ている。前提となる20~22%という原発比率が、国民の反発などで達成できず、その分火力発電が増える可能性があるからだ。

 温暖化対策のためには、ある程度の原発は必要だ。しかし、筆者が懸念するのは、テロ対策の不備だ。


 ◇若狭湾の14基集中リスク


 日本の原発はすべて海に面し、その多くが日本海側にある。中でも、若狭湾は、14基がひしめく世界最大の原発集中地域である。日本に敵対する勢力があった場合、日本海上を低空で接近する航空機による自爆テロが大きな脅威になる。

 01年9月11日の米同時多発テロでは大型旅客機が使われた。しかし、今後はドローン(無人航空機)も警戒しなければならない。今年4月、首相官邸屋上にドローンが落下しているのが見つかり、大騒ぎになった。これが原発で起こっていたら、と考えるとゾッとする。実際、フランスでは、すでに原発上空にドローンが多数飛来している。その対策として、レーダー網や防空体制を構築するコストを考えると、「原発は安価」などという考えは吹き飛ぶはずだ。

 国民の目はどうか。原発の再稼働について、さまざまな世論調査で、反対が賛成の2倍前後という状況が続いている。にもかかわらず、政府は「規制に合格した原発から順に稼働する」という方針だ。

 政権に就く者は、時に国民が歓迎しない政策を推進しなければならないのだが、その原動力となるのがポリティカルキャピタルだ。それは、支持率のように、政治家が使える無形の資産であり、日本語では、「政治的資本」などと呼ばれる。

 プロジェクト推進のための資金、あるいは、戦いのための「弾」のようなものと考えてもよい。朝日新聞社の調査によると、15年に入ってからの内閣の最高支持率は2月8日の50・9%だったが、安保法案衆議院通過(7月16日)直後の7月19日には36・1%に落ちている。ラフな言い方をすれば、衆議院通過のために15ポイントほど消耗したことになる。

 筆者は、支持率が30%を切れば、内閣は反対の強い法案をプッシュできなくなると見ている。従って、安保法案の参議院での審議が始まった7月下旬は危険水域直前で、言わば、「弾切れ」に近い状態に陥っていたことになる。そこに、もう一つの消耗戦が始まろうとしていた。沖縄県普天間基地の辺野古移転問題だ。

「弾切れ内閣」には二正面作戦は無理。そこで、政府は沖縄県に対して、8月10日から9月9日までの1カ月間、工事を中断し、県と集中的に協議する「話し合い期間」を提案した。第1戦線(安保)が収束するまで、第2戦線(沖縄)を休戦にした、というのが自然な見方だ。

 その後、参議院通過のメドが立った9月12日には辺野古の作業を再開。9月19日には法案が成立し、戦線の一つが(一旦)収束した。支持率の方は、9月20日に37・1%に下がったが、10月18日には内閣改造効果もあり、42・2%に回復。これまでのところ、この内閣の作戦は図に当たっている。これで、安保法案という最大の戦線が一旦収束したのだが、新たな戦いが始まる。沖縄問題は裁判に発展しそうであり、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)については農業関係者から強い反発がある。そして、原発再稼働。

 消耗戦の続く内閣に、新たな「弾」の補給はあるだろうか。安倍内閣のポリティカルキャピタルの源泉は、12年12月26日の第2次安倍内閣発足以来続けてきた経済政策だ。しかし、ここにきて陰りが出てきた。肝心の経済成長率は直近の2四半期連続でマイナス。支持率が上がる要因は見当たらない。つまり「弾」の補給は期待できないというわけだ。

 となれば、限られた「弾」をどう配分していくのか。筆者は他の案件と比較した場合、現内閣にとって原発再稼働の優先度は相対的に低く、この戦線に注ぎ込める弾は少ないと見ている。つまり、あまり強引な再稼働はできない、ということだ。

 以上、総合的に考えて、筆者は、川内、伊方以降の原発再稼働は非常に遅いペースになると考える。政府が目標とする総発電量の20~22%を達成するためには、30基程度の再稼働が必要(稼働率60%と想定)だが、それは極めて難しく、稼働できるのは多くても十数基、発電量に占める比率はせいぜい10%程度(同)と見る。これが、日本の現実的な「減原発」の姿だ。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2015年12月8日号 表紙 TPP

週刊エコノミスト 2015年12月8日号


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