2015年

12月

15日

第16回 福島後の未来をつくる:貝塚泉 資源総合システム調査事業部長 2015年12月15日号

 ◇かいづか・いずみ

1962年生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)卒。2003年に太陽光発電事業のコンサルティング企業である資源総合システムに入社。海外部長を経て、09年6月より現職。科学技術振興機構(JST)・革新的エネルギー研究開発拠点形成事業諮問委員なども務めている。

 ◇太陽光発電コストはまだ下がる

 ◇導入拡大と負担抑制の両立は可能


貝塚泉

(資源総合システム調査事業部長)


2012年7月に開始された再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)により、国内での太陽光発電の導入が大きく進展している。国際エネルギー機関・太陽光発電システム研究開発プログラム(IEA PVPS)によれば日本の14年の太陽光発電システムの導入量は前年比40%増の9・74ギガ㍗だ。図に示すように10・64ギガ㍗を導入した中国に次ぎ世界2位の導入量となった。14年末時点での累積導入量は23・4ギガ㍗となり、ドイツ、中国に次いで世界3位となった。

 太陽光発電だけでなく、再生エネの導入は世界各国で拡大しており、14年に世界で新設された発電容量の約半数を占め、石炭火力発電に次いで大きな電源となっている。


 この背景には、太陽光発電をはじめとした再生エネのコスト低減が大きく寄与している。日本でも今年7月に策定された長期エネルギー需給見通しで、再生エネを22~24%としている。このなかで、太陽光発電の30年度の累積導入量は7%に相当する64ギガ㍗に設定された。当社の予測では、この需給見通し以上のスピードで太陽光発電の導入が進むと考えられる。重要なのは、再生エネの最大限の導入促進策と国民負担抑制を両立していくことにあろう。

 日本を含めて、先進国のエネルギー政策は安全性を前提としたうえで、エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合を図ることが基本にある。日本でもそれぞれの電源の課題を克服して、電気料金を抑え、安定供給して、かつ日本のエネルギー自給率を高めつつ、二酸化炭素削減を実現できるかが重要なポイントとなる。つまり再生エネの最大導入をどこまで高めるかは、コストダウンと電力自体の供給の安定性をどう考えるかが重要になる。

 太陽光発電をはじめとした再生エネ導入量を拡大するには、FITを実施して、優遇措置で導入を促すだけでは不十分であり、送電系統対策への投資が必要となる。系統対策には、送電容量の増強や蓄電なども挙げられるが、需要以上の発電を抑制するための再生エネの効果的な出力抑制、火力をはじめとした調整電源の効率的運用、デマンドレスポンス(需要制御)や送電の安定化に寄与するスマートなインバーター(直流から交流への変換)の導入──などを組み合わせることも有効である。

 ここで問題となるのは、効果的な運用の枠組みづくりと、優先課題の選別、必要となる投資をどう負担していくかである。これらは13年11月の改正電気事業法成立で始まった日本の電力システム改革のなかで踏み込んで議論されることを望みたい。


 ◇経産省でFIT見直し中


 国民負担抑制についての議論は、すでに始まっている。15年9月に経済産業省は、総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会の下に再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(制度改革小委)を立ち上げ、再生エネ特措法の改正を視野に入れた制度の抜本的な見直しに着手した。現在抱えている喫緊の課題に対応するため、①現行のFITの手続き、②コスト効率的な再生エネの導入、③系統(送電線への連系)制約の解消、④研究開発・規制改革──の4点の審議が進行中だ。

 一方、日本に先駆けてFITを開始した欧州諸国は、市場状況に対応し、持続可能な太陽光発電市場の構築を目指してFITの改正を重ねてきた。ドイツでは00年4月からFITを開始し、当初は買い取り額を毎年5%低減することで価格低減を誘導するとしていたが、11年からは導入量によって買い取り額を調整するメカニズムを導入し、設置場所やシステム容量などの買い取り区分の見直しも実施している。

 制度改革小委では、コスト効率的な再生エネの導入の実現がひとつの焦点となっている。委員会は、中長期見通し(十数年先までの買い取り価格と量)を示したうえで、買い取り額の決定方法も含めて買い取り方式を見直す方針を示した。

 具体的には、①最低価格を買い取り価格の基準とするトップランナー方式、②価格低減率をあらかじめ決定する、③導入量に応じて価格低減率を変動させる、④入札方式──が候補に挙げられている。①は現行方式に近いが、実績価格の平均値や中央値ではなく、最も安い部類の価格帯を採用する。④を支持する意見が多いが、入札方式により、かえって買い取り額が上がった事例も指摘されている。

 いずれの方式を採用するにしても慎重な制度設計と透明性を確保していく必要があろう。

 買い取り区分の適切な設定も議論されている。現制度の太陽光発電の買い取り区分は、10㌔㍗未満と10㌔㍗以上の2分類のみ。これに対して「屋根と地上に分ける」「容量区分を細分化する」などの案が検討されている。というのも10㌔㍗未満は主に個人が住宅に導入する太陽光発電で、メガソーラーとは導入費用が大きく異なるからだ。また、地上と屋根設置では工事形態が異なるため容量が同規模でもやはり費用が変わる。


 ◇LNG輸入7兆円を削減


 現状では、日本の太陽光発電システムの価格は、諸外国と比較すると比較的高額である。前述のIEA PVPSによると、表に示すように、住宅用太陽光発電システムの価格は、ドイツと比較すると約1・6倍、地上設置太陽光発電の場合は約1・9倍となっている。支援の枠組み、流通構造の違い、許認可に必要となる経費、工事費、資金調達費用などの違いからこうした差異は生じているが、価格低減の余地はまだあると考えられる。

 適切な買い取り額と買い取り方式により、価格低減が確実に誘導されていく枠組みが今回の議論で整備されることを望みたい。一方で、太陽光発電の供給側もハードとソフト面双方のコスト低減に取り組む必要もあろう。制度改革小委での議論は、国民負担を考慮したうえでなされているが、太陽光発電が日本全体にもたらす利益についても考えておきたい。

 今夏には電力需要が最も多かった日中には太陽光発電が電力需要の約1割を担ったとの報道もあった。FITにより、電力会社は設備投資なしでピーク時に寄与する太陽光発電という電源を活用できるようになり、輸入化石燃料の削減に相応の効果が出ているはずである。

 日本の15年7月末時点での太陽光発電の導入量は約30ギガ㍗と推定される。太陽光発電技術研究組合(PVTEC)の桑野幸徳前理事長の試算によると、日本に30ギガ㍗の太陽光発電が導入された場合の液化天然ガス(LNG)削減費用は年間3450億円である。通常の太陽光発電は燃料費なしで20年間稼働できるので、単純計算で向こう20年で約7兆円のLNG輸入費を削減できる。

 また、太陽光発電は、産業構造の観点からみると非常に裾野が広いという特徴がある。いわゆるメガソーラーは重電企業やゼネコンが手がけているが、住宅用太陽光発電には地域の工務店や電気設備店も参入しており、雇用や地域の経済への影響も評価すべきであろう。

 再生エネ特措法の第1条には、「再生エネの利用を促進し、もって我が国の国際競争力の強化及び我が国産業の振興、地域の活性化その他国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と記されている。

 この目的に沿って、抜本的な制度改正がなされることを望みたい。(了)

この記事の掲載号

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週刊エコノミスト 2015年12月15日号


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