2015年

12月

15日

追悼:水木しげるさん「面白い話が作れるかがすべてだよ」

藤枝克治

(編集部)


 漫画家の水木しげるさんが11月30日、93歳で亡くなった。本誌はかつて水木さんに生き方や漫画などについてロングインタビューを行い、そのエッセンスを掲載したことがある。その時は紹介できなかった話を交えて、冥福を祈りたい。

 水木さんは、最近の漫画について、「絵はうまいけど、話がつまらないものばかり」と手厳しかった。大切なのは、面白い話が作れるかどうかで、いくら絵の練習をしてもダメ。「自分は漫画家にならなくても、小説家になれば直木賞が取れた」と自信満々だった。

 漫画界の巨匠といえば手塚治虫さん。水木さんにとってはどんな存在なのか、ライバルだったのか、と尋ねたら、「なんかじゃまだな、と思ってたら先におっ死(ち)んだ」と、本音ともジョークとも付かない発言で皆を笑わせた。

 戦争での悲惨な体験はよく知られている。南太平洋のラバウルで、歩哨に立って望遠鏡で敵を探していた。見つからないので、きれいな色のオウムに見とれていたら、背後で機銃掃射の音がして、振り向いたら小隊が全滅していた。1人で3日間ジャングルを逃げ回りようやく助かったという。それでも「もう駄目だなんて思わなかった。たまたまではなく、生き残ると決めていたから死なずに済んだ」。

 話を聞いた当時、自衛隊を平和維持活動(PKO)でイラクへ派遣すべきかどうかが議論になっていた。苛烈な戦争体験を持つ水木さんはどう思うか、自衛隊を戦地に送ることには反対ではないか、と内心思いながら聞いた。すると、「戦争は絶対なくならないし、戦争に行けば兵隊の一匹や二匹、死ぬのは当たり前。大騒ぎする方がおかしい」と話した。周囲が慌てて「今の発言は載せないでください」と言う一幕だった。

 子供の頃に「自分のやりたいことしかしない」というルールを作り、一番やりたいのは絵を描いて食べていくことだから全く迷いはなかったという。若い人には「苦手なことでお金をもうけることはできない。好きじゃない仕事に追われたら、貧乏神に取りつかれる」とアドバイスしてくれた。

 最後に水木さんに怒られた話を一つ。

 興味本位で「水木さんは死んだらどんな妖怪になるのか」と尋ねたら、「何を言ってるの」とぴしゃり。お前はまったく分かっていないという顔で私たちをじっと見て、「この世界には、人間と動物と妖怪の三つがいるの」、と諭すよう説明してくれ、「人間は死んだら幽霊になるの」。

 そうだったのか。その時、初めて水木ワールドが理解できた(ような気がした)。幽霊になった水木さん、たまには遊びにきてください。妖怪たちも待っていますよ。(了)

編集部との記念撮影に応じる水木しげるさん

この号の掲載号

週刊エコノミスト 2015年12月15日号 表紙 銀行の破壊者 フィンテック

週刊エコノミスト 2015年12月15日号


【特集】銀行の破壊者 フィンテック 

  ITと金融による金融業界の「産業革命」 

 金融ビジネスを伸ばすフィンテック

        破壊するフィンテック

 ブロックチェーンって何? 

 大手4行はこう攻略する