2016年

1月

05日

ワシントンDC 2015年12月29日・16年1月5日合併号

◇「イスラム教徒は入国禁止」で

◇トランプ氏の支持率さらに高まる

 

今村 卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 ついに共和党主流派の間でも、不動産王ドナルド・トランプ氏が、2016年の米大統領選の同党候補に指名される可能性が現実味を持って語られ始めたという。

 トランプ氏は12月7日、カリフォルニア州で起きた銃乱射事件を受けて、イスラム教徒の米国への入国一時禁止を提案。この極論にオバマ大統領や民主党はもちろん、共和党内でも同氏と指名を争う他候補や党幹部から一斉に非難の声が上がった。

 だがトランプ氏は、党内からの厳しい批判もどこ吹く風で「提案」を撤回せず、正当性を訴え続けている。

 指名争いは、トランプ氏の「提案」後、共和党主流派や他候補の焦燥感を強める展開になっている。共和党支持層への世論調査(『ニューヨーク・タイムズ』、CBSテレビ)では、トランプ氏の支持率が35%に達し、2位以下を20ポイント近く突き放した。しかも別の世論調査では、トランプ氏の「提案」への支持は、有権者全体で37%にとどまったのに対し、共和党支持者では65%に達したのだ。

 選挙専門家も共和党主流派も、トランプ氏の15年春の大統領選出馬表明以来、「泡沫(ほうまつ)候補で高い支持率は一過性」と見下してきた。だがトランプ氏は7月中旬から5カ月近く指名争いの首位を走り続け、イスラム教徒の入国禁止を唱えても支持率が跳ね上がった。同氏は共和党支持層に強い基盤を築いたと見るべきだ。

 その基盤とは、保守派のポピュリスト(草の根の大衆)のグループである。最近のCNNテレビの世論調査で、トランプ氏の支持層を特徴付けているのは教育だ。共和党支持層で大卒以上の人の同氏の支持率は2割弱だが、大学を出ていない層では46%に達する。後者は最近の景気回復に取り残され、大嫌いなオバマ政権の政策を阻止できない共和党の議会指導部や同党主流派への反感を、過去にないレベルに募らせてきた。

 

 ◇党内の支持者を開拓

 

 共和党の大統領候補の中で、党内に主流派、宗教保守派以外に、このポピュリストの大グループが潜在することにただ一人気付き、ポピュリストからの支持拡大に努め続けたのがトランプ氏だ。新市場を開拓した実業家としての面目躍如とも言える。

 しかも放言癖で知られるトランプ氏は、他候補のように「政治的正しさ」に配慮して言葉を選ぶ必要はない。ポピュリストの怒りや不安を突く極論を唱えて心をつかめる唯一の候補でもある。その関係を明確に示したのが、イスラム教徒の入国禁止「提案」とその後の支持率上昇だ。

 共和党主流派は今、二つの意味で苦境に立つ。トランプ氏が人気を維持して指名を獲得しても、一般投票では民主党の指名が確実なヒラリー・クリントン前国務長官に勝ち目がない。勝敗のカギを握る無党派層の多くが、トランプ氏を支持しないだけでなく、共和党内の主流派と宗教保守派もしらけてしまう。

 かといってトランプ氏を指名争いから引きずり下ろすのも難しい。党内には「入国禁止の提案を憲法違反と断じて、同氏の大統領候補の資格を剥奪すればいい」との声もある。トランプ氏は「党の扱い次第では無所属での出馬も検討する」と明言している。世論調査によれば、トランプ氏の支持者の大半は、同氏が無所属で出馬しても投票するという。共和党主流派にとって、同氏の無理な追い落としは危険すぎる。

 16年2月からの予備選に向けて、トランプ氏はポピュリストの支持固めの動きを一層強めるだろう。そのままトランプ氏がリードを保って指名に近付くのか。異例の展開となった共和党の指名争いは、見通しが立たないまま、予備選に突入する可能性が高まっている。(了)

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