2015年

12月

22日

ワシントンDC 2015年12月22日特大号

◇法人税が高い米国

◇納税地移転への規制を強化


堂ノ脇 伸

(米州住友商事会社ワシントン事務所長)


 米国のルー財務長官は、米企業が節税を目的に納税地を国外に移転する「タックス・インバージョン」(納税地変換・課税逆転)に対し、規制を強化する方針を11月19日に打ち出した。

 米国の法人税率は35%と先進諸国の中で最高水準にあり、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で数少ない全世界所得課税(海外で得た所得も課税の対象とすること)の採用国だ。このため、企業の国際競争力の点で不利だという不満が米ビジネス界で強い。1990年代から2000年代前半にかけては、多くの米企業が法人税を免れる目的で、バミューダやケイマンといったタックスヘイブンにペーパー会社の親法人を設立していた。

 これに対し米国では、04年の税制変更によって米企業の税逃れを阻止していた。インバージョンを行っても、旧株主が海外に新規設立した法人の株式の80%以上を保有している、あるいは、その設立国で「実質的な事業活動」をしていなければ、引き続き米国法人とみなすという規制を設けたのだ。

 その後は、「実質的な事業活動」をしている国の中でも相対的に法人税が低いアイルランドやスイス等の欧州諸国やカナダなどが、特に医薬やヘルスケア業界などの米企業の移転先に選ばれている。 

 形態としては、小が大をのみ込むような手法が多い。具体的には、グループ従業員・資産・所得のうち、親会社を設立した国でのそれらの割合が25%以上という要件を満たしつつ、引き続き米企業がその支配権を維持できるように、自らよりも小規模の海外の既存会社と合併して、本社所在地を相手国側に移転するというものだ。

 例えば、ファストフード大手のバーガーキングは14年、カナダのコーヒー・ドーナツチェーン大手のティム・ホートンズを約110億㌦で買収すると同時に、本社をカナダに移転した。米製薬大手ファイザーとアイルランドの同業大手アラガンの合併発表も注目されている。ファイザーによる事実上の買収といわれるこの取引により、統合会社はグローバルな運営拠点をニューヨークに残しつつ、登記上の本拠をアイルランドに移す方向で検討中という。


 ◇税制改革が必要


 このような取引が増えることは、米国の税収を揺るがす問題だ。かねてよりルー財務長官は「米国の税基盤を保護することは、財務省の責任である」として、インバージョン規制の強化を訴えている。と同時に、根本的には現行税制の見直しが必要として、連邦議会に対し、早期の税制改革等の対応を迫っている。

 今回の財務省の規制強化により、例えば、前述の80%の基準を下回るために、意図的に合併前の海外企業の規模を大きくする「スタッフィング(詰め込み)」といった手法は取れなくなる。設立国以外の有利な租税条約がある第三国に本社を登記することにも、制限が加わるとされている。

 これらを含め、今回導入される種々の規制により、ファイザーや他の米企業に今後、どのような影響が出るかが注目されている。 

 財政問題を抱える米国にとって、自国企業が海外に移転することで税収が減るのを避けたいという思いが強いことは十分理解できる。だが、これにより企業の海外展開や事業活動にさまざまな制約が課せられれば、その活力を低減しかねない。海外移転を選択せずともよくなるような法人税の減税や抜本的な税制改革の推進こそが最も望まれるところであろう。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2015年12月22日特大号


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