2015年

12月

22日

【企業会計】 東芝“粉飾”の真相 2015年12月22日特大号

記者会見する東芝の室町社長ら(共同通信)
記者会見する東芝の室町社長ら(共同通信)

 ◇原発子会社減損隠しのカラクリ
 ◇利益水増しで社債発行実現


後藤逸郎/丸山仁見

(編集部)

 

 東芝の不正会計問題で、証券取引等監視委員会は12月7日、金融商品取引法違反(有価証券報告書などの虚偽記載)の疑いで、課徴金73億7350万円の納付を東芝に命じるよう金融庁に勧告した。課徴金として過去最高。2009年3月期から約7年間で計2248億円の利益を水増しした。監視委は10、12、13年度の3期について、「投資家に与えた影響が大きく、重要な事項に虚偽記載があった」と認定した。3期の決算を基に東芝が発行した社債は計3200億円で、本来の会計であれば同条件で調達できなかった可能性が高い。

 なぜ、東芝は不正会計を重ねたのか、説得力のある説明はない。しかし、監視委が特に問題視した3期の最終利益と、東芝が今年まで開示してこなかった原子力発電事業の減損処理を結ぶと、不正会計の動機は、原発事業の不振を隠し、経営が順調であると粉飾しようとした可能性が否定できない。

 東芝は06年、米エンジニアリング大手ショー・グループ、IHI2社と共同で、米原子力大手ウェスチングハウス社グループ(WEC)の全株式を約54億ドル(当時約6400億円)で買収した。当初の計画では東芝の保有割合は過半数とし、残りを数社で分担するはずだった。しかし、他社との提携がうまくいかず、東芝の持ち分は77%となった。買収価格は相場の約2倍とあって、東芝は買収金額と純資産の差額について、のれん代3507億円、ブランド代(非償却無形資産)502億円を計上した。東芝は07年、カザフスタンにWEC株の10%を売却し、12年に米ショーの保有分20%を1250億円で買い取り、15年9月末時点の保有比率は87%、のれん代は約3441億円。為替変動を除けば、買収時点から一切減損していない。

 WECは12、13年度、のれん代13億2000万ドル(当時の為替レートで約1156億円)を減損処理した。11年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所事故を受け、全世界で原発の新規建設計画が止まり、将来の事業の先行きが不透明になったことを受けた判断だ。「新規建設」「サービス」「燃料」「オートメーション」の4分野別に、のれん代の時価と簿価を減損テスト(資産の洗い直し)した結果、12年度は新規建設で約6億7700万ドル(約557億円)、オートメーションで約2億4900万ドル(約205億円)の計約762億円、13年度は新規建設で約3億9400万ドル(約394億円)と、総額約1156億円を減損した(図1)。

 

 ◇減損非公表は適時開示違反

 

 ところが、親会社である東芝は、WECが計上したはずの減損を、連結する段階で修正処理を行った。つまり、WECが計上した減損損失を東芝の連結財務諸表には反映させなかったのである。これは減損処理を行った子会社WECの判断を東芝が否定したことを意味する。

 また、東芝はこの間、WECが減損処理したこと自体を公表せず、不正会計を釈明した今年11月7日の会見で減損額を明らかにしなかった。東京証券取引所は12年度のWEC減損を東芝が公表しなかったのは、適時開示の基準違反と指摘した。東芝の室町政志社長は11月17日に謝罪会見を開き、「今後は従来の情報開示姿勢を改め、ステークホルダーの方々から再びご信頼が得られるよう私自身が先頭に立ち、積極的な開示に努めたい」と、対応の不備を認めた。

 ただ、東芝は適時開示違反を認めるが、連結に反映させなかったことは正当な経営判断と主張する。それが減損会計における「グルーピング」と呼ばれる処理だ。減損処理を行うにあたっては、おおむね独立したキャッシュフローを生み出す最小単位で、営業活動の損益や事業の廃止・再構成、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落などの兆候の有無を踏まえ、時価と簿価を比較する「グループ」を判定していく。

 WECは12年度、新規建設とオートメーションで、のれん代を含む事業価値の簿価が時価を下回ったと判断し、単体で減損処理を計上した。

 しかし、親会社の東芝は、WECの「新規建設」と「オートメーション」のほか、「サービス」、「燃料」の事業をも合算して、これを一つのグループとした(図2)。東芝では、「新規建設」と「オートメーション」は時価を簿価が大きく下回っていたが、「サービス」と「燃料」は、逆に簿価が時価を大きく上回った。このように、連結全体でグルーピングの単位を改め、これにもとづいて事業価値の簿価と時価を比較し、「原発事業全体では簿価を時価が下回っていない」と、減損処理は不要と判断したのだ。

 

 ◇投資効率低い原発子会社

 

 だが、この減損テストが妥当性を持つのは、グルーピングそのものの是非、兆候の有無の判断の是非、損失の測定の是非が正しい場合だ。東芝はこれらの細部を開示していない。「外部専門家のアドバイスを得た上で、監査法人とも協議しながら評価を実施」と主張するだけだ。

 実際、13年度の減損テストの場合、事業分野ごとの評価基準として、従来の「インカムアプローチ(収益還元法)」だけでなく、市場の動向を反映した「マーケットアプローチ」を新たに加えた。その結果、新規建設は減損処理したが、WEC全体では減損しないとしている。

 だが、WEC全体の評価には「マーケットアプローチ」を採用していない。東芝は根拠として、「全体収益は、安定した燃料・サービスが主体で、一部に新規建設は受注時期ずれ等の変動要因があるが、全体でのキャッシュフロー計画はボラティリティーが高くなく、マーケットアプローチを用いた評価までは必要ない」とする。この見解を客観的に検証することは、株主など外部の人間には事実上不可能だ。

 また、13年度の事業分野別の減損テストでは、インカムアプローチ3、マーケットアプローチ1の割合を適用したとするが、その妥当性も検証できない。

 公認会計士・税理士の前川修満氏は「時価と簿価の差はたったの3900万ドル。これは54億2800万ドルかけて、0・7%しか増えていないということで、投資効率が極めて低いと評価せざるを得ない」と話す。

 事実、東芝は06年のWEC買収時、「15年には、原発関連事業で、最大7000億円のビジネスが見込める」(西田厚聡社長・当時)ともくろんでいた。しかし、福島原発事故で市場環境は激変した。目標は未達どころか、共同パートナーも10年近く確保できないまま。受注した原発は世界で8基にとどまっており、うち半分は運転開始が当初計画より3年遅れ。何もかも想定を外れていると言わざるを得ない。

 そもそも、減損テストの時期が妥当かも疑問が残る。

 米最大の独立系発電会社NRGエナジーは11年4月、原子力発電所の増設計画への投資打ち切りを決めた。福島原発事故を受け、米原子力規制委員会(NRC)が安全基準を厳格化する動きを受けた措置だった。この原発増設を受注していたのは東芝。初の海外受注として、16~17年の運転開始を予定していた。事業パートナーがいち早く原発市場の冷え込みを予想したにもかかわらず、東芝は本体で減損することはなかった。WECも12年度になって減損した。

 明らかに判断が遅いと言わざるを得ないが、現在もなお東芝は「WECは燃料、サービスで安定した収益を上げている」と主張し、15年間でWECが64基相当受注との見通しを変えない。これでは事業者の主観的な判断で減損の必要性が決まることになり、客観性はほとんど見いだせない。室町社長は「意図的に減損したり減損しなかったりということは一切ございません。適正に評価されているという認識です」と、粉飾を否定する。

 だが、東芝がNRGと同じように原発市況の悪化を受け入れていれば、10年度の時点でWECを減損し、連結決算に反映させることもできたが、そうはしなかった。その後の原発市況を踏まえると、WECの減損は遅くとも11年度に処理を始めるべきだったといえる。つまり、WECの減損処理は1期遅れで行われた形だ。

 これに加えて、WECの減損処理を打ち消して連結財務諸表を作成した東芝は利益の水増しを行っていたという批判を避けられない。WECが減損約1156億円を前倒しで行い、連結決算に反映させた場合、修正後の最終利益ベースで見ると、11年度は最終赤字の可能性が高かった。そうなれば3200億円もの社債発行は困難であり、東芝はさらに財務が悪化していた。一連の利益水増しとWECの減損隠しは、まさに経営の粉飾のために行われたと、疑われても仕方のない行為だ。

 

 ◇米国では処罰される第三者委

 

 この疑いを図らずも証明するのが、東芝の不正会計を検証した第三者委員会の調査報告書だ。

 東芝が設置した第三者委は7月20日に公表した報告書で「本委員会の調査及び調査の結果は、東芝からの委嘱を受けて、東芝のためだけに行われた(中略)。いかなる意味においても第三者に対して責任を負わない」と宣言。株主や市場などの社会的な利害関係者より、東芝側に立つことを隠さない。

 このためか、第三者委の報告書はWECの減損隠しについては全く触れていない。そもそもの不正会計の動機解明も精彩を欠く。関与した歴代3社長の動機のみならず、事実認定や評価を怠るなど、いまだに「不適切会計」と呼び続ける東芝に優しい内容に終始する。WECの減損に意識を全く向けない理由は、能力不足か、「東芝の委嘱」の範囲内で調査を限定したかのいずれかしかない。

『日経ビジネス』11月23日号はWEC減損を第三者委の調査対象に含めるかについて、東芝と第三者委がメールですりあわせをしていたと報じた。東芝広報・IR室は「メールの存在自体は事実」と認めたうえで、「第三者委から照会を受け、監査会社の指示のもとWEC減損処理は問題ないとの考えを伝えた」とする。

 米証券取引等監視委員会は企業の不正会計にからみ、第三者委が当該企業とこうしたすりあわせを行った場合、処罰するのが原則だ。米国会計基準をとる東芝は知らなかったのか。日本の監視委の対応が問われる。(了)

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 ◇法人税と役員報酬過払い放置
 ◇株主利益を徹底無視する社風


 丸山仁見/花谷美枝(編集部)

 

 東芝は監視委の課徴金請求勧告を受け、歴代3社長への損害賠償請求を従来の3億円から加算する方針だ。しかし、東芝は一連の不正会計で自社が被った損害を歴代3社長に請求することに消極的だ。その実例が法人税と業績連動の役員報酬だ。

 約9年間にわたり2248億円もの利益を水増ししてきた東芝。当然、払う必要のない法人税、法人住民税も払ってきた。東芝は金額を公表していないが、年度ごとに10億円単位で計上される可能性がある。

 税金を納めすぎた場合、通常は税務署に対し修正申告し、認められれば還付される。法人税なら、国税庁に対し「更正の請求」を納税者が自主申告する。期限はあるものの、東芝は更正請求が可能だ。

 しかし、東芝は「更正請求をする予定はない」とする。理由として挙げるのが、利益をかさ上げした内容が税法上請求できないためとしている。実際、インフラ関連工事で9件の利益水増しがあったが、うち5件は対象外だ。だが、残りは請求できる可能性があるものの、東芝は賠償請求額に加算を検討しないのは不可解だ。

 かさ上げした利益を基に余分に支払われた業績連動報酬についても、東芝は賠償請求に算入していない。いずれも本来は会社と株主に帰属する利益にもかかわらず、淡泊な姿勢に終始する。

 

 ◇本社移転も秒読み
 

 東芝は経営再建の一環で東京都港区芝浦の本社ビル保有会社の持ち分の大半を売却した。経営中枢と営業の一部が10フロアしか借りていない。大部分は川崎市のラゾーナ川崎東芝ビルに移っている。浜松町のビルは大手不動産が20年にも建て替えする予定で、社名由来の地を離れることになりそうだ。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2015年12月22日特大号


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