2016年

1月

05日

世界経済総予測2016:米大統領選 格差への対処が争点 2015年12月29日・2016年1月5日合併号

◇格差への対処が最大の争点 躍進目立つ「アウトサイダー」

 

秋山勇

(伊藤忠経済研究所長)

 

 4年に1度の米大統領選が2016年11月8日に行われる。アイオワ州の党員集会(民主・共和両党とも2月1日)を皮切りに、全米50州や首都ワシントン、自治領などで党員集会や予備選挙が本格化。両党とも候補者を正式決定する党大会を7月に開催予定で、年明けから大統領選一色となる。主な争点は、拡大する格差と社会の分裂問題への取り組みになりそうだ。

 堅調に改善する米経済だが、その恩恵を実感できない中・低所得者層に格差拡大への不満が蓄積している。米国勢調査局が15年9月に公表した「米国の所得と貧困」(14年版)によると、1999~14年の15年間で、年間家計所得の上から10%目に位置する世帯では所得が2・8%増えたが、中央値の世帯では7・2%減、下から10%目の世帯は16・5%減となり、所得格差は拡大している。
 米国で格差への不満が爆発したのは、11年の「ウォール街占拠運動」だった。また、格差問題に取り組んだ仏経済学者トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』が世界的なベストセラーになったのも、14年4月に米国で英語版が刊行されたのがきっかけ。オバマ大統領は低・中所得者向け対策として、肝煎りの「オバマケア」と呼ばれる国民皆保険の医療保険制度を14年1月から完全施行し、15年1月の一般教書演説では富裕層増税も打ち出した。だが、米国民がそれぞれに抱く不平等感はさらに強くなり、社会の分裂が深まっている。

 

◇共和・トランプ氏が物議

 

 米大統領選には12月10日現在、民主党3人、共和党14人が立候補している。州ごとに両党が党員集会や予備選挙を経て候補者をそれぞれ1人に絞り込むが、最大のヤマ場がテキサス州やアーカンソー州など13州の党員集会・予備選が集中する16年3月1日の「スーパー・チューズデー」である。7月18日には共和党が、25日には民主党が全国大会を予定し、各党の候補者が正式に決まる。その後、民主・共和両党の支持者が拮抗(きっこう)するフロリダ、オハイオ州など「スイング・ステート」と呼ばれる激戦州を中心に、両党が大統領選投票日に向け、全米で激しい選挙戦を繰り広げることになる。
 格差の拡大や社会不安を背景に、大衆迎合主義的な主張の台頭に加え、非主流の出自や政治経験の乏しい「アウトサイダー」の躍進が目立つのが、今回の大統領選候補者の特徴だ。より端的にその特徴が表れているのが共和党であろう。
「メキシコ国境に長城を築いて不法移民を防ぐ」「イスラム教徒は入国禁止」──。過激すぎる発言で物議を醸す不動産王ドナルド・トランプ氏(69)は、政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が集計した世論調査(11月23日~12月8日の平均)で支持率30・4%と共和党候補者指名争いトップを走る。政治経験がなく、誰もが泡沫(ほうまつ)候補とみていたトランプ氏だが、常識破りのパフォーマンスは注目を浴び、破天荒な発言に留飲を下げる聴衆も少なくない。
 勢いに陰りはみえるが、支持率13・6%で2番手グループに付けるのが、同じく政治経験のない黒人の元脳神経外科医、ベン・カーソン氏(64)。静かな物言いながら「イスラム教徒は大統領になるべきではない」などと中身は過激。10月には一時、支持率トップにも立った。対照的に、当初は本命と目され、15年初夏まで支持率首位を走っていたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)は苦戦している。大衆は当たり障りのないことを言うだけの政治家に食傷気味で、既存の政治にタブーを恐れず切り込むアウトサイダーに拍手喝采を送る。……