2016年

1月

05日

世界経済総予測2016:追い詰められるフォルクスワーゲン 2015年12月29日・2016年1月5日合併号 

◇リコール開始で業績悪化

 

熊谷徹

(在独ジャーナリスト)

 

「フォルクスワーゲン(VW)はこの危機をきっかけとして、生まれ変わる。中央集権的な経営手法を改め、オープンに討論できる企業を目指す」。VWグループのマティアス・ミュラー会長兼最高経営責任者(CEO)は、2015年12月10日にヴォルフスブルク本社で開かれた記者会見でこう語った。
 記者会見では、ハンスデイター・ペッチュ監査役会長が「個々の社員の過ちと規則違反を容認する関係部門の姿勢があった」と述べた。
 今回の不正では、ディーゼル車に搭載した違法なソフトウエアを使って検査時だけ有害物質低減装置をフル稼働させて基準をクリアする一方、通常走行時は基準値の最大40倍の窒素酸化物(NOX)を排出していたことが問題となった。ミュラー氏は再発防止策について「今後はグループ外の企業に排ガス試験を実施させ、販売する前に必ず路上を走らせてNOXなどの排出量をチェックする」と説明した。
 また、記者会見と同じ日に放映された独公共放送ARDのインタビューでは「ウィンターコルン前会長兼CEOら幹部は、違法なソフトウエアの使用を知らなかった。不正を行ったのは、中間管理職とその下のクラスの社員だ」と指摘。その上で、VWが05年に排ガス規制基準が極めて厳しい米国市場でのシェア拡大を打ち出したことを挙げ「一部のエンジニアが正攻法で米国の排ガス規制をクリアすることは技術的に難しいと判断し、違法なソフトウエアの使用に走った」と語った。
 VWは米国の弁護士事務所を含めた450人体制で社内調査を続けている。これまでに87人から事情聴取し、1500台のパソコンやハードディスクなどを保全。不正に関与した疑いがある管理職の社員9人を休職させているという。ただ、違法なソフトウエアの使用が誰の命令で行われたのかは明らかにされていない。16年4月21日の株主総会までに不正の全貌を解明することを目指している。

 

◇待ち受ける法廷闘争

 

 VWにとって、2016年は正念場の年になりそうだ。
 まず、世界全体で約1100万台とされる違法なソフトウエア搭載車のリコール(回収・無償修理)が1月から始まる。ミュラー氏は、欧州でのリコールと補修作業を16年末までに完了させる方針を示しているが、65億ユーロ(約8450億円)に上るとされるリコール費用がVWの業績を悪化させることは必至だ。
 また、米環境保護局(EPA)の罰金支払い命令や、市民による損害賠償訴訟、株主代表訴訟などさまざまな試練が待ち受けており、米国での法務関連コストが顕在化するだろう。VWは米国の監督官庁とリコールの進め方について交渉中だが、合意できていない。法廷闘争や監督官庁との交渉は長期化すると予想されており、アナリストの間では「VWが技術的な改善措置によって、排ガス規制をクリアできなかった場合、不正ソフトが使われた車を全て顧客から買い戻さなくてはならなくなる可能性もある」という見方も出ている。
 ミュラー氏は15年12月の記者会見で、排ガス不正がもたらすコストの総額について言及を避けた。この背景には、訴訟大国・米国での法務リスクの規模を推計するのが難しいという事情がある。一方、ドイツの投資アナリストや経済学者からは、VWのコストの総額について、540億~1000億ユーロ(約7兆200億~13兆円)という推計が出されている。……