2016年

1月

05日

特集:世界経済総予測2016 アジアの経済覇権 2015年12月29日・16年1月5日合併号

◇TPPvs一帯一路

◇主導権めぐる争いが激化

 

寺田貴(同志社大学法学部教授)

 

 2016年は米・中の経済覇権をめぐる競争が新たな時代を迎える。米国を中心とする環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が基本合意に達した一方、中国はアジアから欧州に至る一大経済圏を築く「一帯一路」構想の推進に向け、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立したからだ。

 米国や日本など12カ国が1510月、基本合意に達したTPP。その最終交渉が米アトランタで行われていた9月29日、インドネシア政府はジャカルタ―バンドン間の高速鉄道建設で中国案を採用すると表明した。日本は建設計画を08年から示していたが、15年3月に急きょ、参加した中国に敗れた。中国は受注獲得に当たり、インドネシア政府の財政負担や債務保証を伴わない形での事業実施を認めたほか、完工予定もジョコ大統領の任期中の19年上半期までとするなど、150キロにも満たない高速鉄道をなりふり構わず受注した感がある。

 中国がそこまで受注にこだわったのは、このインドネシア高速鉄道が、現代版シルクロード構想とも呼ばれる「一帯一路」の出発点に当たるからである。中国の習近平国家主席は13年9月、中国から中央アジア、ロシア、欧州をつなぐ「シルクロード経済帯」(一帯)の構築を提起。翌10月にはインドネシアで、中国から東南アジア、インドを経て中東やアフリカ、欧州に延びる「海上シルクロード」(一路)の構築も表明した。この二つを併せて「一帯一路」と呼び、道路や鉄道、港湾、通信、パイプラインなどのインフラ整備や相互接続を進めながら、人口40億人超の地域にまたがって貿易・投資など経済関係を強化しようという構想である。

 一方のTPPは、06年に発効したシンガポール、ニュージーランドなど4カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(P4協定)に対し、米国が08年9月、参加を表明したことで交渉参加国が拡大。米外交の機軸を中東などから経済成長著しいアジア太平洋へ移すオバマ大統領の「アジア・リバランス戦略」の基幹となり、10年3月にTPP交渉がスタートした。日本やオーストラリア、カナダ、メキシコ、チリなどを加えたTPP参加12カ国の人口は約8億人。世界の国内総生産(GDP)に占めるシェアは4割弱にのぼる。

 

 ◇相互にけん制、排他的

 

 TPPと一帯一路の関係を、国際政治経済学の立場で捉えてみると、いくつかの特徴が指摘できる。

 第一は、TPPと一帯一路は、互いをけん制し合う米・中の地域戦略の中で出現していることである。米国のTPPへの関心は、00年代に入って東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定(FTA)など東南アジアでの積極外交を展開する中で、中国中心の経済秩序がアジアで具体化することへの懸念に端を発している。逆に、一帯一路構想の実現のために資金を融通するAIIB構想は1311月、オバマ大統領がASEAN首脳会議を欠席する中、習国家主席がインドネシアでその間(かん)(げき)を縫って発表した。 

 AIIBは15年6月、中国やインド、ロシア、英国など57カ国が創設メンバーとなり、設立協定に署名した。その背後には、中国が3兆5000億ドル超(400兆円強)の外貨準備を活用した人民元の国際化や、生産能力の過剰であふれる鉄鋼やセメント、建材、石油副産物など、国内に残存するインフラ関連製品の輸出促進をその目的に含んでおり、米国が日本と並んで最大の出資国であるアジア開発銀行(ADB)に対抗すると位置づけられる。