2016年

1月

05日

第18回 福島後の未来をつくる:飯田哲也 環境エネルギー政策研究所所長 2015年12月29日・2016年1月5日合併号

 ◇いいだ・てつなり

 1959年山口県生まれ。京都大学修士(原子核工学)。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。日本総合研究所、ルンド大学(スウェーデン)を経て、2000年から現職。

 ◇日本のエネルギーコンセプトを刷新し地方発で次世代の知性を育てよう

 

飯田哲也

(認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所 所長)

 

 日本のエネルギー政策は、時代ごとの政策的な課題を真正面から議論せずに次の時代にツケを回してきた結果、「五つの宿題」を残した古いエネルギー状況にとどまっていた。その状況で、2011年3月11日の福島原発事故に遭遇してしまった。他方、海外ではエネルギー大変革が急速に進んでおり、相対的に見ると日本の立ち遅れは途方もなく、しかも大混乱している。

 こうした時こそ、原則に立ち返ってエネルギーコンセプトを刷新し、着実な改善を重ねるために新しいエネルギー知性を地方発で育てることが必要と考える。


 ◇日本が抱える「五つの宿題」

 

 第一の宿題は、石油危機への対応だ。日本は1973年と79年の石油危機をうまく乗り切った数少ない国と言われる。だが、産業主義と古い経済成長至上主義で、国家総動員的に乗り切ったにすぎない。しかも、それが原発への傾斜を招いた。

 他方、北欧やドイツでは、60年代から社会的に議論を重ねてきた「持続可能なエネルギー」という視点から、エネルギー需要や温室効果ガスを削減しながら経済成長を図る「経済とエネルギー・環境の切り離し」(デカップリング)に転換している。

 第二の宿題は原子力だ。先進国の多くは70年代から原発の国民的な議論を重ね、79年のスリーマイル島事故(米国)と86年のチェルノブイリ事故(旧ソ連)を経て、原発のリスクや持続不可能性は一定の国民的常識となった。デンマークは最初から受け入れ拒否、スウェーデンやイタリアは国民投票で脱原発を決めた。ドイツは遠回りしたが、00年に緑の党の政権入りで脱原発合意ができ、その後メルケル首相が3・11の福島原発事故後に脱原発を決定した。

 しかし日本では、原発の国民的な議論を封じ込め、「原発専門家」はリスクを軽視し、カネで原発拡大を推し進めてきた揚げ句に、福島第1原発事故を起こしてしまった。

 第三の宿題は温暖化対策だ。92年の気候変動枠組み条約も、97年の京都議定書も、日本は産業界の自主的な取り組みに委ねただけで、炭素税や排出量取引など実効的な政策を後回しにしてきた。それどころか原発拡大を掲げつつ、石炭火力を拡大する矛盾した政策を重ねてきた。

 第四の宿題は電力自由化だ。90年ごろから始まった欧州では、発送電分離で独立した送電会社が各国に誕生し、北欧諸国が運営協力している「ノルドプール」などオープンな電力市場がある。それに対し、日本ではようやく小売り自由化が始まる段階であり、発送電分離はさらに先だ。欧州に比べて大幅に遅れた上にオープンな市場とは言い難く、事実上は電力会社の独占状態が続く「形式的な自由化」の恐れがある。

 第五の宿題は再生可能エネルギーだ。デンマークは94 年、スペインは97年、ドイツは00年から、それぞれ固定価格買い取り制度を導入し、それが呼び水となって風力発電や太陽光発電など自然エネルギー発電はこの10年で爆発的に普及した。

 日本は04年まで太陽光発電の生産も導入も世界トップだったが、ドイツに逆転され、その後中国に抜かれた。政策的な立ち遅れと強大な電力会社の独占力の両面で阻まれたものだ。

 日本と異なり、多少の遅れや時差はあっても、歴史的な「第五の課題」を克服してきた北欧やドイツなどでは、この10年間に起きた再生可能エネルギーの爆発的な成長と、特に風力発電や太陽光発電の急激なコスト低下が、エネルギーパラダイムの変化を起こしつつある。

「高くて少ない」と思われていた再生可能エネルギーは、今や「安くて大量」という認識に変わり、やがては「限りなくタダで膨大な」エネルギーへと変わろうとしている。独占のエネルギー会社から購入する時代から、仲間や自ら生み出すプロシューマー(生産もする消費者)やIoT(モノのインターネット)と組み合わさったユビキタスエネルギーが始まろうとしている。

 事務所や工場、各家庭で太陽光パネルと蓄電池で自給した方が電力会社から買うより安い時代がすぐ目の前に来ており、独占電力会社の既存のビジネスモデルは大きく傾きかけている。変動型の風力発電と太陽光発電が送電系統に大量に入ってきたことで、これまでの「ベースロード電源」に代わって、「柔軟性」が鍵となるコンセプトになった。

 これらを、歴史的な基層として積み重ねてきた「エネルギー4・0」のエネルギーコンセプトと呼びたい。「1・0」が高度成長期、「2・0」が脱石油、「3・0」が気候変動と電力自由化への対応、そして「エネルギー4・0」が再生可能エネルギー・分散化・ITへの転換と言えるだろう。

 それらが複層的・統合的に機能するため、せいぜい「2・0」にとどまる日本からは想像できない次元のエネルギーパラダイムの変化が起きようとしている。

 ◇地域から人材生み出す

 

 日本との落差を浮かび上がらせるために、「第4世代」と呼ばれる北欧の地域熱供給を紹介したい。地域熱供給とは配管で温熱を地域に面的に配り、暖房や給湯、または冷熱で利用するシステム。第1世代は蒸気供給、第2世代は100度を超える高温水供給で、いずれもロスが多く熱効率が劣る。日本にある地域熱供給はこのいずれかだ。

 ドイツなどは100度以下の高温水による第3世代が多い。北欧で主流になりつつある第4世代は、50~60度の比較的低温で供給するもので、熱ロスが少なく熱効率が高く、バイオマス、工場廃熱、ゴミ焼却熱など多様な熱源を統合している。木材からの水蒸気の熱を排ガスから回収することで熱効率100%を超える木質バイオマスのコジェネレーションも多い。しかもデンマークでは地域熱供給と風力で変動する電力市場との統合も図っている。

 北欧は70年代から脱石油・再生エネルギーを進めた結果、こうした第4世代地域熱供給とバイオマスとの統合が進み、デンマークでは今やコジェネや風力発電の80%が地域所有だ。その過程で、単に「お湯を送る」という一見簡単に見える地域熱供給の技術群から、グローバルなトップ企業がいくつも誕生している。

 対して日本はどうか。72年の札幌五輪の時に選手村に地域熱供給が既に入っている。だが日本の技術はそこで止まってしまい、40年以上も技術レベルが停滞したままだ。

 ことほどさように、世界に取り残された日本はどのように問題を解決していけばよいのか。

 さまざまな問題が複雑に絡み合っている状況の中で、すべてを一気に解決するのは不可能だ。だが、理にかなったこと、確実に実行すべきこと、原則にかなったことを一つひとつ着実に進めていく必要がある。

 エネルギーで確かなことは、持続可能性が最も重要であり、そのためには再生可能エネルギーと省エネが唯一の出口だということだ。

 その上で、こうした新しいエネルギーコンセプトを理解し、原則を踏まえ、国際的な協力をフットワーク軽く実現できる「エネルギー知性」を持った人材を地域レベルで数多く生み出す必要がある。

 こうした新しいエネルギー知性を身につけた人材を、大学、地域、ベンチャー企業、自治体など地域から生み出していく時代だと考えている。