2016年

1月

05日

経営者:編集長インタビュー 吉永 泰之 富士重工業社長 2015年12月29日・2016年1月5日合併号

 ◇安全のDNAを守って台数争いはしない

 

── 業績が好調です。

吉永 主要市場の北米市場は、2013年3月期に約39万台、14年3月期に約48万台、15年3月期に約57万台と、毎年ほぼ10万台ずつ増えています。スバル車の特徴である「安心と愉(たの)しさ」が、北米でも日本でも好意的に受け入れられていて、本当にありがたいです。

── 反対に、北米での課題は何でしょうか。

吉永 雪が降る地域でのシェアは高いのですが、テキサス州やフロリダ州など「サンベルト」と呼ばれる温暖な南部地域でのシェアはまだ低いです。米国でスバル車のシェアは平均で3・6%くらいですが、サンベルト地域では1・4%程度です。降雪地域では約5%あり、シアトルなど10%に達する地区もあります。

 こうした地域差は日本でもありました。以前は、東北地方や長野県などでシェアが高かったですが、スポーツタイプ多目的車(SUV)「レガシィ」を出した頃から、地域間のシェアの差が解消しています。米国でも地域差をなくせると思います。米国は国土が大きいので、伸びる余地はまだたくさんあります。

 富士重工業の15年3月期決算は、売上高が前年同期比19・5%増の2兆8779億円、営業利益は同29・6%増の4230億円だった。業績を牽引(けんいん)するのが北米市場、そして、衝突被害軽減ブレーキシステム「アイサイト」の導入である。

── アイサイトは自動車産業全体を変えたといっても過言ではありません。

吉永 08年に導入を決めましたが、その時点で、20年間開発し続けていた技術陣がいました。それがすべてです。技術者に「何が支えで日の目を見ないかもしれない技術を20年間も研究できたのか」を聞いたことがあります。すると、「交通事故を減らしたいんです」と、それ以外に何があるのかという勢いで言われました。当時の私は国内営業本部長という立場でしたが感動しました。

 一方で、当時、販売ディーラーから値下げしてほしいという要望を受けていました。ただ、私は国内営業出身で、例えば300万円の車を10万円下げても販売台数は変わらないことは、経験で予想がついていました。だからディーラーに「アイサイトを採用して『ぶつからない車』にしよう」と提案しました。みんなびっくりしていました。

── 開発を続けられた原動力はどこにあるのでしょうか。

吉永 当社の前身は中島飛行機で、結局のところ、飛行機会社なんです。今も売り上げの5%を占める航空機事業は大事な事業で、自動車の技術陣も航空機技術の系譜を受け継いでいます。だから、安全に対するこだわりが本当に強いのです。安全性能が現実に高いということが、米国市場で成功した最も大きい要因になったと考えています。

── スバルが考える自動運転とは何でしょうか。

吉永 20年に高速道路で追い越しもできる自動運転を実現するための開発をしています。ただ、当社は自動運転自体をしたいわけではなく、あくまで、安全な車を作りたいので、ボタンを押して自動で連れて行ってくれるような無人運転の開発はしていません。車の愉しみは増やして、負担は軽減するという開発をしています。

── アイサイトを共同開発した日立オートモティブシステムズとの提携は今後も続きますか。

吉永 量産でも手伝ってもらっていますので、これからも続けていきます。

 

 ◇原油安は心配材料

 

── 16年5月に、14年に出した20年までの中期経営計画を見直す予定です。

吉永 年間販売台数を20年に「110万台プラスアルファ」にするという目標を変えるつもりは全くなく、数を追うようなことはしません。ただ、北米に関しては「110万台プラスアルファ」のうちの60万台となっているので増やす必要があるかもしれません。

 あとは、収益計画を14年から16年までしか出せていないので、17年度、18年度についても言及せざるを得ないでしょう。設備投資を増やして利益率が少し下がっても、中身の濃い会社にしたい。

── 中国市場の見通しは。

吉永 ユーザーのデータを見ると、スバル車は富裕層が2台目として買っていることが多いです。セダンは立派なものを持っていて、休日にSUVの「フォレスター」など悪路も走れる車で遊びに行くライフスタイルの人です。趣味の車ですので、値引き競争をしても意味がありません。1台1台売って乱売競争はせず、中古車市場でも価格が落ちない戦略を取っていきます。

── 原油安の影響はどう見ていますか。

吉永 自動車産業にとっては、ガソリンが安くなるのでプラスです。かといって、原油安がずっと続くと、新興国経済、特に産油国への影響が心配です。例えば、当社もロシアでの販売が減少しています。そういう意味で、原油が安ければいいわけではありません。

── 為替については。

吉永 円安が利益を底上げしている面があるので、社員には「舞い上がるな」と言っています。一方で、1㌦=80円の水準になると、国内産業は壊れてしまいます。為替も原油も適度なのが一番いいです。

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=谷口 健・編集部)

 

横 顔

Q 社長業とは

A 我慢強くあること。

 最近買ったもの

A スバルの車です。車種は言えませんが、12月初旬に買って、納車待ちです(笑)。

 休日の過ごし方

A 今持っているスバルの車を運転しています。あとは、ひたすら考え事をしています。

 

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■人物略歴

よしなが やすゆき

東京都出身。成蹊高校、成蹊大学経済学部を卒業し、1977年に富士重工業に入社。99年、国内営業本部営業企画部長。2009年に取締役兼専務。11年6月、社長COO(最高執行責任者)。12年6月、社長CEO(最高経営責任者)に就任。61歳。

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