2016年

1月

12日

【これじゃ食えない!会計士・税理士・弁護士】弁護士編 企業法務の苛烈な世界 2016年1月12日特大号

事務所の規模別に見た事務所数の割合

◇食える弁護士は「とことん働く」

◇コンフリクト解消が業界の課題

 

酒井雅浩

(編集部)

 

 午前8時。ふと目が覚めたのは、先ほどまで頭を悩ませていた契約書の「ドラフト」(企業法務の世界で「文書の草稿」のような意味)が気になっていたからだろうか。枕元に置いたスマートフォンでメールをチェックすると、既に「パートナー」(事務所に出資するなど経営に携わる立場の弁護士)から、修正指示のメールが届いていた。自宅に戻ったのは午前5時だが、もう一度「仮眠」に戻るほど、図太い神経を持ち合わせてはいない。目をこすりながら、パソコンに向かった。

 企業法務弁護士の一日は、こうして始まる。弁護士といっても、裁判所に行くことは少ない。

 ある企業のために働くといっても、利益追求を支援するだけでなく、法に基づいて、フェアに企業活動を支える。また、企業が目的を達するために、法律的、創造的な方法を提案する。そのことで「案件」(企業から依頼された業務)を成し遂げた上で、よりよい経済基盤を整えることができる。企業にとって、欠かせない「インフラ」の一つとなっている。

「法務」というと、決まっているルールを守ることが業務の前提になる。一方、企業法務の世界では、新しいビジネスが次々に出てくる中で、まだルールが確立されていない分野もある。「ルール」とは、法律、規則という硬い意味もあれば、業界の慣習といったものまでさまざま。弁護士の視点で、誰もが認められるルールづくりに貢献する。法律の礎にある公平性、正義を基に、ルールが定まっていないビジネスも実現するのが企業法務の使命だ。

 例えば、「ビッグデータ」を人工知能で解析するというビジネスが生まれている。データの要素である個人、データを保有している提供者、解析業者、解析ツールを提供する業者……と、利害関係者が複数にまたがる。法律が追いついていない部分は、当事者間の契約で利害を調整するしかないが、それぞれが主張しすぎるとまとまらず、ビジネスは前に進まない。それぞれの顧客の立場を代理した弁護士が全員が認められる範囲の中で解決を目指す。

 

 ◇企業の変化により拡大

 

 この業界が大きく変わったのは、1990年代後半からだ。平成に入り、日本経済は転落、低迷の繰り返しだったことが、その大きな理由だ。97年の北海道拓殖銀行や山一証券の破綻など、不良債権処理問題が注目されたことを受けて不動産の証券化、M&A(合併・買収)といったビジネススタイルの変化が起こり、法律事務所の役割が爆発的に増えた。

 世界的には数百人規模の法律事務所が珍しくない中で、初めて100人を超える事務所が日本に誕生したのは2000年。中小規模の有力事務所が、案件の大型化・複雑化の流れをくんで統合、合併を繰り返し、大規模事務所となった。また、1990年ごろまで500人前後だった司法試験合格者について、政府が2002年に「10年には年間3000人程度」との目標を閣議決定したことも、大規模化を後押しした。「3000人」の目標には届かなかったものの、法科大学院制度開始後の合格者は1800~2100人程度で推移し、大手事務所がそれぞれ採用数を増やすことを可能とした。

 法曹人口拡大が議論となったのは、弁護士業界でのパイの取り合いや、給料はなく法律事務所のスペースだけを借りる「ノキ弁」(軒下借りの弁護士)、「イソ弁」(居候弁護士)を経ず最初から独立する「即独」が増えたことが話題になったからだ。もちろん、即独がすぐに稼げるはずもない。ただ、そういった「食えない弁護士」は、企業法務の世界とはまったく無縁だ。

 企業法務の世界でパートナーが顧客から受けた案件の実働部隊となる弁護士は「アソシエイト」と呼ばれる。1年目から、年収1000万円が最低ラインだ。法科大学院の1期生は9年目を迎えており、任される仕事内容によるものの、年収2000万円を超える例も決して珍しくはない。ある大手事務所では、パートナーになるための最低条件は「売り上げ2億円以上」。事務所内でも、年収の「天井」がどのくらいになるのか「想像もつかない」(アソシエイト弁護士)というレベルだ。

 その代わり、競争の激しさも想像を絶する。………

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この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年1月12日特大号

 

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