2016年

1月

19日

エコノミストリポート:原油安が直撃するサウジアラビア 2016年1月19日号

 ◇イランとの対立激化で中東大混迷

 

広瀬真司

(住友商事グローバルリサーチシニアアナリスト)

 

 イスラム教スンニ派の盟主、サウジアラビアが揺れている。原油価格の下落によって財政の悪化に見舞われ、イエメン内戦への介入が拍車をかける。サウジの不安定化は周辺の中東諸国への影響力低下を招き、対抗するシーア派の大国イランのさらなる台頭などによって、中東情勢全体が混迷しかねない。事実、今年に入ってからのサウジにおけるシーア派指導者の死刑執行と、それに対する抗議デモの広がりが、サウジによるイランとの国交断絶という結果に至っている。筆者の2015年11月中旬のサウジ訪問の状況も踏まえたうえで、最新のサウジ情勢をリポートする。

 筆者がホテルに宿泊したサウジの首都リヤドの商業地、オラヤ地区。総工費225億㌦(約2・7兆円)と世界最大級の公共インフラ工事とも呼ばれる地下鉄の建設が進んでいた。リヤド・メトロの計画は6路線で全長176・4㌔。14年4月に着工し、18年の完成を目指している。全駅がエアコン付きで、女性・家族専用車両やファーストクラスも備えるという。しかし、現地では、地下鉄を含めさまざまな大型プロジェクトの計画遅延・変更をめぐる報道が相次ぎ、アブドラ前国王が国内全11州それぞれに計画していたサッカースタジアムの建設も2カ所のみに規模縮小したとの報道も出た。

◇公共工事の延期・縮小

 こうしたプロジェクトの延期や規模縮小の報道が続く背景には、原油価格の下落がある。サウジ政府が15年12月28日に発表した16年予算では、歳出が前年実績比14%減の2240億㌦、歳入は15・5%減の1370億㌦で、国内総生産(GDP)比1割強の赤字予算となった。サウジは国家歳入の7割超を原油収入に頼っているが、14年半ばからの原油価格急落によって歳入が急減。昨年の財政赤字はGDP比15%の979億㌦(約11・8兆円)に達し、赤字額は過去最高ともいわれる。サウジ政府は15年8月、財政赤字の穴埋めのため、07年以来8年ぶりの国債発行に踏み切った。
 サウジ政府は16年予算で、想定油価を明らかにせず、「複数の(油価の)シナリオを組み合わせた」と説明した。過去10年以上にわたって、サウジ予算作成の想定油価が1バレル=50㌦を下回ったことはないが、16年予算の大方の見方は1バレル=40㌦程度とされる。サウジ政府は15年歳出の中で、公務員給与が約半分を占めたことに危惧を抱いており、16年予算では給与を増額しない方針を明らかにした。15年初めのサルマン国王即位を記念した、国民への臨時ボーナス(計320億㌦)のようなバラマキは今後、当面は起こらないだろう。
 巨額のオイルマネーの動きも変化している。サウジ通貨庁(SAMA)が管理している外貨準備高は14年8月、1バレル=100㌦前後の油価高騰が続いた影響で7300億㌦に達していたが、15年11月時点では1000億㌦近く残高を減らしており、国庫の不足を補う目的で取り崩されたと見られている()。………