2016年

1月

19日

ワシントンDC 2016年1月19日号

討論会は大人気 Bloomberg
討論会は大人気 Bloomberg

◇テレビ局のドル箱になった

◇大統領候補の討論会

 

三輪 裕範

(伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)

 

 日本や米国のような民主主義社会では、政治家とメディアは互いの存在を必要とする一種の共生関係にある。政治家にとってメディアに登場することは、知名度や露出度向上のために必須だ。また、メディアにとっても、政治家は極めて重要な取材対象であり、政治家を抜きにして報道は成り立たない。

 こうした政治家とメディアの共生関係を強く印象づけるのが、2015年8月以降、断続的に開催されている民主・共和両党の大統領候補討論会だ。既に共和党が5回、民主党が3回、討論会を開催しており、いずれも大きな政治イベントであるだけでなく、一大メディアイベントになっている。

  FOXニュースが獲得した2400万人という視聴者数は、フットボールやバスケットボールなどの人気スポーツ番組を除いて、ケーブルテレビ番組が記録した過去最大の数字だ。CNNの2310万人という視聴者数も、CNN史上最大の数字だった。それまでのCNNの最高は、08年にジョー・バイデンとサラ・ペイリンの民主・共和両党の副大統領候補による討論会で記録した1070万人。今回の視聴者数は、その倍以上に達する驚異的なものだ。

 このように視聴者数が急増すると、それに伴いテレビ広告料も大きく引き上げられる。例えばCNNの場合、通常の放送なら30秒のスポット広告料は5000㌦(約60万円)前後だが、15年9月の討論会の放送ではそれが一挙に40倍の20万㌦(約2400万円)になった。さらに、10月の第3回共和党討論会を放送したCNBCは、9月のCNNの広告料を上回る25万㌦(約3000万円)を要求した。

 

◇夜の風刺番組に話題提供

 

 なお、共和党は、大統領候補者が十数人と乱立しているため、候補者全員を一堂に集めるやり方では満足に議論できない状況になっている。そのため、支持率の低い候補者は「アンダーカード」と呼ばれる前座の討論会に回されるが、このような前座の討論会でもCNNは5万㌦(約600万円)以上を要求しているのだ。

 では、15年の共和党大統領候補の討論会は、なぜこれほど大きなメディアイベントとして盛り上がったのだろうか。それはやはり、ドナルド・トランプによる影響が最も大きいと言わざるを得ない。「メキシコから来る不法移民は犯罪者ばかりだ」「イスラム教徒の入国は全面的に禁止せよ」など、普通の大統領候補なら決して口にしないようなトランプの過激な発言の数々が、討論会への関心をますます盛り上げ、過去にない高視聴率を稼ぎ出しているのだ。

 また、トランプの発言は、「サタデー・ナイト・ライブ」や「レイト・ショー・ウィズ・スティーブン・コルベール」など、米国で非常に人気の高い夜の風刺番組にも格好の話題を提供することになるなど、テレビ局の視聴率アップに大きく貢献している。

 最近の世論調査でもトランプは30%前後の支持を獲得し、首位を独走している。大向こう受けを狙った過激な発言を繰り返すトランプのような人物が、米国民が期待する真の改革を政治にもたらせるかどうかは疑問だが、少なくともテレビ局に多くの視聴者と利益をもたらしていることは間違いない。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年1月19日号

 

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