2016年

1月

19日

特集:来るぞ!日本株 2016年1月19日号

業績改善への期待は高い Bloomberg
業績改善への期待は高い Bloomberg

 ◇中国発の世界同時株安

 ◇日本株の「買い場」を探る

 

花谷美枝/池田正史/藤沢壮

(編集部)

 

「年初からここまでの下げは想定外。底値が見えない」

 1月7日、日経平均株価が終値で前日比423円安の1万7767円となり、年初から4日連続の大幅安を演じた株式相場に外資系証券のアナリストは頭を抱え込んだ。2015年末からの値下がり額は1266円(6・7%)に達した。年初に1㌦=120円前後だったドル・円相場は117円まで円高が進んだ。

 

 米国の景気後退懸念を考え合わせると、ドル高・円安の修正が始まる恐れがある。12月に利上げを始めた米国は、1月4日発表の12月ISM製造業景況指数が48・2で好不況の分かれ目とされる50を下回るなど、景気先行きに不透明感が出てきた。年後半以降は大統領選も本格化する。利上げが順調に進まなければ、ドル安・円高に傾く可能性が高まる。日本株にとって大きな環境の変化となる。

 ◇一時的なパニック

 

 しかし、年初の急激な円高・株安は、北朝鮮による「水爆」実験のニュースが重なったことによる一時的なパニックとの見方もある。

 欧州では15 年秋以降、仏パリでのテロ、トルコによるロシア軍機撃墜、サウジアラビアなど中東諸国とイランとの国交断絶など、地政学リスクの極度な高まりを肌で感じるようになっていた欧米の市場関係者に対して、日本人はまだひとごとだった。ところが、北朝鮮の水爆実験で「有事」を欧米人同様に身をもって実感したために、パニックとなったという解説だ。

 パリ同時テロでは、1週間ほどでマーケットが正常に戻った。大和証券投資戦略部の三宅一弘チーフストラテジストは「足元の混乱は長くは続かないだろう」と見る。

 米国の利上げという金融政策の転換点に、地政学リスクの高まりが加わった16年は、株式や債券のボラティリティー(変動率)が極端に高まると予想されている。また、ハイリスク・ハイリターンのジャンク(投資不適格)債などの商品は、リスクの高さから警戒されている。

 そうした中で相対的に安定感があり、相対的に高いリターンを期待できる日本株が「受け皿」として選好されるとの見方が少なくない。

 新生銀行の政井貴子金融市場調査部長は、「日経平均は1月で底値をつけ、6月末2万1000円に向けて上昇する」と予想する。富国生命保険の山田一郎株式部長も、「自社株買いなどもあり、日本株の需給は悪くない」として、年前半は2万2000~2万3000円程度にはなると見ている。

 

 ◇3年9カ月連続の増益

 日本株の相対的な魅力を支えているのが、企業収益の改善だ。

 財務省が発表した15年7~9月期の法人企業統計(金融・保険業を除く)によると、経常利益は前年比9・0%増で15四半期連続の増益、設備投資は同11・2%増で10四半期連続の増加となった(図1)。売上高が伸び悩んでいることに加え、円安による利益押し上げ効果が薄まる分、16年の経常利益の伸び率は鈍化するものの、「改善基調は続く」(明治安田生命の山口範大エコノミスト)と見られている。

 三井住友アセットマネジメントによると、日本企業216社の経常利益予想は、15年度が14%増、16年度で7・3%増と、伸びは鈍化はするものの、増益基調にある。

 米資産運用会社ブラックロックのラス・ケステリッチ最高投資責任者(CIO)は、「大きなリターンは期待できない」と前置きしつつ、「日本と欧州の株はオーバーウエート(ベンチマークよりも組み入れ比率が高い)」と位置づける。米国が利上げに転じたことで、先進国の株式が全面的に買われる金融緩和相場が終わり、実体経済の成長率が問われる段階へと市場が移行する中、日欧の企業の相対的な収益力が浮かび上がっているという。

 米投資会社ウィズダムツリー・ジャパンのイエスパー・コールCEOも「特に銀行、設備投資関連の銘柄は期待感が大きい」と話す。

 円高・デフレの時代に構造改革を進めた結果、企業は「稼ぐ力」を取り戻しつつある。株式持ち合いの解消や自社株買い、株主還元の拡充などが日本株の評価を高め、さらに政府による景気対策や法人税減税の効果が企業を後押しすると見られている。

 また、国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費を押し上げるのに欠かせない賃上げに対して、産業界からも前向きな声が出始めている。

「年度決算が順調に行けば、前向きに考える」(みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長)、「(組合の)要求があれば十分に検討できる状況にある」(三菱地所の杉山博孝社長)などの声があり、賃上げが実現→消費の高まり→企業業績をさらに押し上げるという好循環が生まれる。

 

 ◇欧米に比べ「割安」

 安定感があると同時にリターンを期待できるマネーの逃避先として、日本株への資金流入が進んでいる。

 EPFRグローバルの投資信託の資金フローを見ると、日本、欧州の株式を組み入れた世界の投資信託に資金が流入していることがわかる(図2)。

 日本株への資金流入は、14年の146・7億㌦(1・7兆円)から15年には578・2億㌦(6・8兆円)へと4倍増した。

 15年以降、金融緩和の終了が明確になる中で米国から資金が流出し、反対に金融緩和政策を継続する日本と欧州へ流入しているのだ。三井住友アセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストは「日本企業も今後、欧州企業並みにROE(株主資本利益率)を高めることができれば、さらに資金流入が拡大する可能性がある」と言う。

 日本株の相対的な割安感が見直される動きもある。1株利益に対して株価が何倍まで買われているかを示すPER(株価収益率)。日本株(TOPIX〈東証株価指数〉)の予想PERは14・2倍で、米国16・3倍、欧州15・1倍に対して割安な位置にある。

 また、15年9月の株安局面で年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が買いに回ったと見られているように、ある程度値下がりしたところで国内の機関投資家が買い支えに入るだろうという期待があることも、株価が底割れする可能性が低いと見られ、安心材料になっている。

 ◇円高・株高へ

 

 一方で、米国経済の先行き懸念から利上げが進まず、ドル安・円高へと転じることを警戒する声もある。日本企業の収益を大きく押し上げてきた円安という要因がなくなれば、企業業績に悪影響が出るとの発想だ。

 しかし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里チーフストラテジストは「増益要因における円安効果は、それほど大きいわけではない」と指摘する。


 年末に1㌦=110円程度の円高を予想するJPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長も「円高になっても株高は十分にあり得る」として、次のように語る。

「日本企業は過去最高の利益水準にある。この背景には、コスト削減や収益力向上といった企業努力があり、多少円高に振れても揺るがないだろう。欧米、新興国と比べても収益力や利益率はまったく遜色なく、中東はじめ地政学リスクが高まる中、政治経済が安定している日本に海外マネーの流入が見込める。円高と株高は共存できる」

 ただ、16年の相場は市場にマネーがあふれていた15年までの緩和相場とは異なる。日本株についても、業績改善期待の大きい銘柄が選別される業績相場になるだろう。16年は投資家の眼力が問われる1年になる。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年1月19日号

 

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