2016年

1月

19日

第20回 福島後の未来をつくる:佐藤弥右衛門 会津電力社長 2016年1月19日号

 ◇さとう やうえもん

1951年、福島県喜多方市で200年以上続く造り酒屋・大和川酒造店の長男として生まれる。東京農業大学短期醸造科卒業後、大和川酒造店入社。2013年8月、会津電力を設立し社長に就任。現在、全国ご当地エネルギー協会・代表理事も務める。

 ◇地方市町村が目覚めるべき「エネルギー自治」とは

 

佐藤弥右衛門

(会津電力社長)

 

東日本大震災後の2011年7月に、福島県の南会津地方が洪水に襲われた。大雨により只見川上流の田子倉ダムなどが決壊する危険があったため、ダムの水門を全開にして水を放出したところ流域が一気に暴れて、国道252号線やJR只見線は寸断され、田畑が流され、死亡者も出た。

 ダムを所有するのは東京電力、Jパワー(電源開発)、東北電力。ダムは1940~50年代に建造され、老朽化が進んでいて危険だ。決壊すれば会津平野は甚大な被害を受ける。ところが、電力会社や自治体は、ダムの水をどれくらい放出したら、どのくらいの水位になるのかというハザードマップすら持っていなかった。

 


 ◇再エネだけで自給自足

 

 南会津には東電、Jパワー、東北電が持つ合計400万㌔㍗の水力発電所がある。これに対し、福島県全域の電力需要はわずか154万㌔㍗。つまり、会津地方で作られる多くの水力発電の電気は首都圏のためのものだ。

 これまで福島県は、浜通りの福島第1原発、第2原発合わせ1000万㌔㍗を発電し、首都圏に電気を送ってきた。それが事故を起こし、福島県産の農作物にも甚大な風評被害をもたらした。

 今、会津地方の食料自給率は1000%を超える。しかし電気は、自分たちの地元の資源で作っているにもかかわらず買わされていたのだと、原発事故後に改めて気づいた。会津地方には電力を電力会社任せにせず、再生可能エネルギーによって自給自足できる潜在力がある。原発事故を起こした東電がだめだ、国も当てにならないと不平を言っていても始まらない。

 そこで、私たちは少しでも電力というエネルギーを自分たちで作れないか、と考えて13年8月に会津電力を設立した。設立直前の同年7月時点で、福島県の電力消費量は、人口200万人で154万㌔㍗。会津地方は28万人だから7分の1の25万㌔㍗で間に合う。50万㌔㍗あれば、化石燃料を使わず、工業、インフラ維持を含め電気エネルギーだけで十分生活ができる。

 会津電力は15年12月時点で、子会社でSPC(特定目的会社)のアイパワーアセット(福島県喜多方市、山田純社長)を含め、地元に建設した雄国(おぐに)発電所を中心に太陽光で約4000㌔㍗を発電している。大規模な発電所を1カ所に作ると何かあった時に電力供給が止まるので、会津地方の47カ所に設置する地域分散型を取っている。今後さらに、2000㌔㍗の風力が2カ所と小型水力発電の2カ所を合わせ1万㌔㍗程度の上積みを目指す。

 現在は電気を作って電力会社に売っているだけだが、将来、新電力会社(PPS)を選択できるようになれば、卸業者を通じて、あるいは直接、消費者に販売できる。

 また、森林資源など有機物を燃料とするバイオマス(生物資源)発電も計画している。会津地方には2市15町村あり、中でも南会津の町村は面積の95%が森林だ。その面積は千葉県の面積ほどもあり、「エネルギーの海」と言われている。山をなりわいとして生きてきた地域なので、間伐材などの木材を使うバイオマスは期待できる。バイオマスで一番大事なのは山林資源の循環を地域の活性化につなげることだ。間伐された木材が生かせるだけでなく、木も生き生き育ち、森も保水力が増し、鳥獣被害が減るなどのメリットがある。太陽光や風力と違い、木材の運搬や製材で大きな雇用も見込める。

 会津電力への出資者は、東邦銀行や福島銀行など地方銀行や信用組合を含め地元企業が約40社、会津地方の磐梯町、北塩原村、猪苗代町、西会津町、只見町、三島町の6町村。アイパワーアセットへの出資者は、環境省系ファンド・グリーンファイナンス推進機構のほか、市民ファンドを募り、一般市民から合計9980万円を出資してもらっている。

 ◇水利権を会津に戻せ!

 

 会津地方の老朽化したダムは、すでに償却を終えている。それなのに発電用の水利権は依然として地元にはなく、東電にある。そこで、水力発電と送電線を地元に取り戻せないか、と真剣に考えている。

 現在、会津17市町村で年間の行政予算が合計1000億円に満たない状態だ。そうした規模の自治体なら、400万㌔㍗の電力を地元に戻せば、電気を10円で売ったとしても3000億円の利益が出る。この会津の資源が、すべて戦後復興のためと言って電力会社に取られていた。会津の水力を地元に返してもらってよいと思う。

 水力発電事業が地元に戻れば、次の世代は水も食料もエネルギーも自給できるようになる。そうすればよそから持ってくるものは何もない。むしろ買っていた化石燃料も使わなくて済む。エネルギー代が安くなった上に、これまで化石燃料に払っていたお金を地域内で回せる。

 会津地方の人口、28万人分くらいの電気は私たち自身で作り出せる。現在の計算では50億円程度投資すれば、水力・バイオマスをベースにして、天候次第の風力・太陽光の発電量が多い時に、バイオマス発電の出力を抑えるなどして調整することで、自給は可能になる。

 また、都市部に生活する住民が1000世帯程度集まって、電力購買のための会社を設立すればいいと考える。今は資本金が1円でも会社を作れる。1世帯の年間のエネルギー支出が電気・ガスを含め年間50万円程度。そこで1000世帯が工夫して電気・ガス消費を2割削減すれば、1億円を捻出できる。これを原資に、多少割高でも再生エネルギー由来の電気を買い、また、各地の再エネを使った電力会社に投資するエネルギー購買組合のような取り組みをすべきではないか。電気を使いっぱなしの都市住民は省エネで貢献すべきだ。

 原発立地自治体は、電源三法交付金や核燃料税、原発の固定資産税に依存しているから原発から脱却できない、という見方がある。しかし、実は原発のない自治体、例えば、この喜多方市でも、年間の予算200億円のうち税収はせいぜい60億円と支出の2~3割しかなく、残りは地方交付税や補助金、つまり中央政府に頼っている。家庭に例えれば、生活保護の状態だ。この体制から脱却しない限り、地方自治は望めない。地方自治率がせいぜい30%台では、地方創生といって国から交付金をもらう代わりに指図を受け、それによって地方が画一化してしまう。これでは独自の教育や経済、文化力の構築も不可能だ。

 地方自治のためにも、例えば地方が持つ水力資源を地元が取り戻す動きを進め、またエネルギー購買組合のようなものを作り、それをもって主体的にエネルギーの自治を進めるような取り組みをしないといけない。欧州では、すでにそうしたシステムができている。国が再エネ中心の方向性を打ち出し、市民たちも動き始めている。日本も、地方がエネルギー自治という発想で動いていくことが必要だ。

 自治体はもっと積極的に再エネ利用に乗り出すべきだ。余剰電力による収入の方が多くなれば、3割自治どころかもっと高い自治ができ、自由な教育や経済、文化力の構築も可能になる。16年4月に電力小売り自由化が始まれば、そうした発想がより重要になってくるのではないか。