2016年

1月

19日

経営者:編集長インタビュー 崔元根 ダブル・スコープ社長 2016年1月19日号

 ◇リチウムイオン電池のセパレーター技術を磨く

 

── リチウムイオン電池向けのセパレーター(分離膜)のメーカーとして、業績が非常に好調ですね。2015年11月には東証マザーズから東証1部に市場変更しました。

崔 東証1部の上場企業になったことで、日本の社員が住宅ローンを借りる時、審査が通るようになったんですよ(笑)。東証1部に上場したのは、取引先や株主、従業員の我が社に対する信頼を、より長期にわたって高めてもらうためです。

 業績が好調なのは、特に今、中国で電気自動車(EV)が非常に伸びていて、リチウムイオン電池の需要をうまく取り込めていることが要因です。中国は大気汚染が激しく、ディーゼルエンジンのバスをEVに替えようとしています。中国当局は15年、EVのバス25万台の導入を目標にしており、すぐに100万台、200万台へと増えていきそうです。

── リチウムイオン電池はスマートフォンやノートパソコンなどにも使われます。ダブル・スコープではどのような用途が多いのですか。

 現在は売り上げの6割がスマホなどの消費者家電で、4割が自動車向けと、特定の用途に特化していません。EVのバス1台で使う分離膜の量は、スマホの3万~5万台分。EVでなくとも、アイドリングストップ機能の付いている車なら、再発進時に使うスタートバッテリーはリチウムイオン電池です。自動車向けは今後、大きく伸びていくと考えています。

 リチウムイオン電池の主要部材は正極材、負極材、電解液、セパレーターの四つ。正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで放電や充電が可能になるが、正極と負極を分離しなければショートしてしまう。ナノメートル(ナノは10億分の1)単位の気孔によってリチウムイオンは透過させ、正極と負極を分離するのがセパレーターの役割だ。

 ダブル・スコープの15年12月期第3四半期(7~9月)決算は、売上高が53億8700万円と前年同期比73・7%増、営業利益は13億2000万円と6・9倍、最終(当期)利益も3・7倍と急成長している。ダブル・スコープがユニークなのは、韓国人の崔社長が日本で起業し、韓国に工場を設けて中国や米国など世界を舞台にビジネスを展開している点だ。

── 日本で起業した理由は?

 韓国で起業しようと思いましたが、「大企業でも無理なのに、なぜあなたができるのか」と信用してもらえませんでした。それまでリチウムイオン電池の部材は、8割以上が日本メーカーのシェア。日本だったら技術の価値を分かってもらえると、日本のベンチャーキャピタルなど投資家を説得したのです。リチウムイオン電池の技術は現在も日本が世界のリーダーで、日本で認められれば世界で認められるのと同じです。

 

 ◇水や空気のフィルターに

 

── 日本語がとてもお上手です。

 韓国サムスン電子の液晶事業で働いていた当時、日本が高い液晶技術を持っており、液晶技術を勉強するには日本語が必要でした。しかし、時間がありません。日本語を早く学ぶために繰り返し見たのが、映画「釣りバカ日誌」です。私の日本語は(主人公の)ハマちゃんから学んだんですよ。先輩後輩の人間関係など、日本と韓国の文化は似ているところがとても多いと思いました。

── 業績が伸びてきたのは最近ですね。

 05年に会社を設立しましたが、日本の電池メーカーにはすぐには採用してもらえませんでした。そこで、当時は日本の材料メーカーが注目していなかった中国市場を開拓したのです。その後、韓国のLGグループ、次に米国の電池メーカーと取引関係を築きました。12~13年は売り上げが厳しい時期が続きましたが、その間も日本など向けにマーケティング活動を続け、ようやく成果が出てきたのです。会社も人間もスランプは必ずありますが、私は苦しい時をチャンスと捉えるようにしています。

── ダブル・スコープのセパレーターの特徴は?

 いい製品を安く作ることができる生産性の高さでしょう。同じ1ラインで他社の2~3倍の量を作ることができます。また、16ミクロン(マイクロメートル。マイクロは100万分の1)と非常に薄いフィルムですが、引っ張っても破れにくく、不良率がとても低いんですよ。また、EVはオフロードも走るため、ショックや振動に耐える強度は、電池のセパレーターにも必要なんです。

── リチウムイオン電池の技術はまだ進化しますか。

 専門家によれば、理論的にはエネルギー密度をさらに3倍までできるそうです。同じ大きさのリチウムイオン電池に対し、セパレーターの薄さを3分の1にし、電極の表面積を3倍に増やすことができれば、イオンが行き来できる量も3倍になります。これからもさらに技術を上げていきたいと思っています。

 また、セパレーターのフィルムは電池だけでなく、その微細な気孔によって水や空気などをきれいにできるフィルターの機能も持っています。リチウムイオン電池向けを稼ぎ頭に、世界の水不足問題などにも役立てる製品開発をしていきたいですね。

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=桐山友一・編集部)

 

横顔 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A サムスン電子の企画部で商品企画やIR(投資家向け広報)などをやり、1年の休日は1日だけの激務でした。37歳で独立し、友人と医療機器モニターを作る会社を立ち上げました。

Q 最近買ったもの

A 音楽を聴くヘッドセットです。息子に買ったら妻もほしいと言ったので、プレゼントしました。

Q 休日の過ごし方

A 読書です。歴史や経済、心理などのジャンルをよく読みます。

 

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人物略歴

 ◇チェ ウォングン

韓国ソウル出身。1990年2月韓国・成ソンギュンガン均館大学電子工学科卒業後、同年6月韓国サムスン電子入社。2000年5月韓国ワイド取締役副社長。05年10月ダブル・スコープ社長就任。52歳。

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年1月19日号

 

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