2016年

1月

26日

ワシントンDC 2016年1月26日号

イランの陰にロシア Bloomberg
イランの陰にロシア Bloomberg

 ◇外交の成否握るロシア攻略

 ◇イランとサウジ巡りジレンマ

 

及川 正也 (毎日新聞北米総局長)

 

 11月の米大統領選に国民の関心が移る今年、オバマ大統領にとっては、2期8年の政権の総仕上げの年となる。歴代大統領は最後の年に、歴史に名を刻む「遺産」を残すべく、最後の手腕を振るってきた。現在、過激派組織「イスラム国」(IS)や海洋進出を続ける中国など外交課題は山積みだが、最大の難関は東西冷戦の旧敵ロシアだろう。

 

「米国に対して実際の脅威を与える可能性がある国を挙げろと言われるなら、ロシアを挙げなければならない」。昨年7月、統合参謀本部議長に指名されたダンフォード海兵隊司令官は、上院軍事委員会の公聴会でこう証言し、ワシントンで波紋を広げた。中国、北朝鮮、ISも脅威対象として列挙したが、軍事力をちらつかせてクリミアを掌握し、ウクライナを揺さぶったロシアを、脅威の筆頭に位置づけたのだ。

 

 これに対し、ロシアのプーチン大統領は昨年12月31日、北大西洋条約機構(NATO)の拡大を「脅威」と位置づける新安保戦略を承認した。「指導的大国」のロシアに対して、世界覇権の維持を目指す米国や同盟国が抵抗していると警戒。中国重視の姿勢も示し、対抗姿勢を鮮明に打ち出した。

 

 日本としては、米国に中国への脅威感を強めてほしいところだが、筆者の知人の米シンクタンク研究員は「中国は米国と大国同士の共存関係を模索する。だが、ロシアは冷戦の雪辱を果たそうとして優劣を決しようとしている。アサド政権放逐を狙う米国と対立する形でシリアに軍事介入した。米ソ冷戦に逆戻りしたようだ」と指摘する。

 

 米露は冷戦の両巨頭だったが、ソ連崩壊後の経済低迷期にロシアは欧米の支援を受けた。国民の強い支持を背にしたプーチン大統領は、「冷戦の敗者」の汚名を返上すべく、四半世紀ぶりに「強いロシア」を復活。2014年のウクライナ危機で米露対立が国際政治の表舞台に躍り出た。

 

 ◇中東はロシアに分

 

 ただし、今後の米露関係を決定づけるのは、ウクライナ情勢よりも、混迷の度合いを深める中東情勢の行方だろう。世界のパワーポリティクスの主戦場となっている中東では、米国は多くの同盟国から不信の目を向けられ身動きが取れず、ロシアが虎視眈々(たんたん)と足場を築こうとする構図になっている。分はロシアにある。

 

 そのカギとなるのが中東の大国イランだ。核開発阻止に向けてオバマ政権が決断したイラン核合意は、イランと宗教・宗派で対立する米国の同盟国イスラエルやサウジアラビアを激怒させ、米国との関係をこじらせた。年明けにサウジがシーア派(イランで多数派)指導者を処刑し、イランとの断交に至ったことは、サウジの米国不信を象徴した出来事だった。一方、ロシアはシリアのアサド政権擁護でイランと思惑が一致。「イランの陰にロシアあり」という「黒幕」の存在感を醸し出している。

 

 サウジとイランの緊張緩和に向け、仲介をほのめかすロシアがイランに付くのは明白。一方、米国はイランもサウジも袖にはできないジレンマを抱える。米国務省は「調停人にはならない」(カービー報道官)と腰は定まらず、イラン核合意履行もシリア内戦終結も遠のくばかり、という皮肉な現状を招いている。

 

 米国内には、「冷戦思考から最も脱却できていないのは、オバマ大統領自身」との指摘がある。だが、ロシアを敵視せず、IS掃討や中東安定化に向けたパートナーと位置づければ、国内外からさらなる「弱腰批判」を浴びかねない。難敵・ロシアの攻略法をどう編み出すか。残り1年のオバマ政権の外交的成否は、ここにある。(了)

 

 

(『週刊エコノミスト』2016年1月26日号(1月18日発売)62ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年1月18日

週刊エコノミスト 2016年1月26日号

 

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