2016年

1月

26日

特集:地図でわかった原油恐慌 2016年1月26日号

 

 

 ◇原油安発の世界マネー変調 オイルマネー逆流でリスク回避

 

 谷口 健/金井 暁子/大堀 達也(編集部)

 

 東京株式市場に異変が起きている。サウジアラビアやクウェートなど中東諸国の政府系投資ファンドが、日本企業の大株主の座から去っている。サウジアラビア通貨庁(SAMA)の関連ファンドと目される「サジャップ」「ジャパン・リ・フィデリティ」「ジュニパー」「エバーグリーン」などのファンドは日本企業の株式を大量保有してきた。しかし、2015年3月期に大株主として名を連ねていたカカクコム、ローム、横河電機、マツダ、島津製作所などの企業では、16年3月期第2四半期には主要株主でなくなった。保有株を売り抜けたとみられる(23㌻表)。

 オイルマネー引き揚げの原因は、原油価格の急落である。14年秋から始まった原油下落は15年も止まらず、16年1月12日、米国産標準油種(WTI)の先物は一時1バレル=20㌦台をつけた。11~14年前半の「1バレル=100㌦時代」とは異次元の世界が展開している。

 

 原油安は、産油国の財政と経済を直撃する。国債などの信用リスクに対して保険の役割を果たすデリバティブ契約「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」のスプレッド(保証料率)は、この2年間、特に産油国・資源国で上昇した。国債の破綻リスクが拡大している(地図)。

 

 1バレル=100㌦超だった13年末と30㌦台に低下した15年末を比較すると、CDSスプレッドは、サウジアラビアが55ベーシスポイント→155ベーシスポイントで183%増、ロシアが165ベーシスポイント→307ベーシスポイントで85%増、ベネズエラに至っては1148ベーシスポイント→4904ベーシスポイントで327%増と大幅に上昇した。数字が大きいほど破綻確率が高い。

 

 だが、石油輸出国機構(OPEC)の盟主で原油生産世界第2位のサウジアラビアは、減産はしない方針を貫く。15年12月のOPEC総会でサウジアラビアを含む加盟各国は、減産はおろか生産目標も合意できなかった。これが世界的な石油供給の過剰感をさらに強め、原油価格の一段安の要因となっている。

 

 サウジアラビアが減産しない理由の一つに、シェールオイルつぶしがあるとみられている。シェール開発は中東での原油採掘よりコストが高いといわれるが、原油が100㌦だった時には十分収益を生めた。太陽光や風力などの再生可能エネルギーも同じ構造で、原油高が普及の追い風となり、原油需要を減らした。だが、現在の価格水準が続けば、採算割れするシェールオイル関連企業が増え、再エネの推進も鈍る。

 

 さらに、経済制裁を解除される見通しのイランも原油輸出再開に動いており、原油市場は一層の供給過剰に陥る。サウジアラビアは原油収入の大幅減で財政が急激に悪化しているが、自国産石油の世界シェア維持に重きを置く。

 

「サウジアラビアには2種類の敵がおり、(シェールを含む)天然ガスと再エネというプロダクト(製品)の面と、イランやイスラム国(IS)など地政学の面に立ち向かっている」(住友商事グローバルリサーチの本間隆行チーフエコノミスト)。このため、減産をせずに原油安を我慢しているのである。

 

 一方、需要面では、原油をはじめ世界中の資源を爆食していた中国経済の減速が鮮明となり、資源の需要拡大期待は一気に冷え込んだ。原油価格が下がったことで、鉄鉱石や銅、ニッケルの価格も下落を続けている。今後もしばらく原油安・資源安に歯止めが利く材料はない。

 

 ◇米国株を売り越し

 こうした中、日本のみならず世界の金融市場でオイルマネーの逆流が加速している。アブダビ投資庁(ADIA)、サウジアラビア通貨庁(SAMA)、クウェート投資庁(KIA)といった中東産油国の「ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)」は300兆円に迫るオイルマネーを、世界の株式・債券・不動産に投資をしている。しかし、自国の財政が厳しくなる中、利益確定で資産を売り、自国におカネを戻している。原油安が世界のマネーフローの流れを変えてしまった。

 

 米国株式市場も同様だ。みずほ総研の調べによると、主に中東の産油国による15年の対米株式投資は、4月に58億㌦(約6844億円)、5月に19億㌦、6月に33億㌦、9月に23億㌦と、膨大な売り越しを続ける。また、石油ガス関連のSWFの資産残高は、15年3月に比べて、同6月はマイナス260億㌦、同12月にマイナス960億㌦と悪化している。

 

 サウジアラビアの思惑通り、原油安で採算が悪くなるシェール関連企業の社債は、原油急落と反比例して、利回りが急上昇している(図2)。「ハイイールド(高利回り)債」と呼ばれるかつての「ジャンク(ごみ)債」には、米国のシェール関連企業も入っているとみられ、既にハイイールド債の債務不履行も発生している。

 

 日本にとっても対岸の火事ではない。ハイイールド債は投資信託などにも組み込まれているうえ、株式市場が混乱すれば、約135兆円の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の投資にも悪影響を及ぼす。すでに15年7~9月期の運用結果は7兆8899億円の赤字。15年9月末より現在の株価は下落していることから、今後さらなる含み損を出すリスクがある。

 

 資源価格の下落で打撃を受けたのは、資源系企業も同じだ。15年に経営不振が表面化した企業は、スイスの資源商社大手グレンコア、英資源大手アングロ・アメリカン、欧州の鉄鋼世界最大手アルセロール・ミタル、米フリーポート・マクモラン、英豪BHPビリトン、英豪リオ・ティント、鉄鋼大手ブラジル・ヴァーレ、銅生産世界最大手のチリ・コデルコなど枚挙にいとまがない。 

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この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年1月18日

週刊エコノミスト 2016年1月26日号

 

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