2016年

1月

26日

第21回 福島後の未来をつくる:原田達朗 九州大学炭素資源国際教育研究センター教授 2016年1月26日号

 ◇はらだ・たつろう

1963年生まれ。九州大学工学部卒、同大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。工学博士。九州電力、電源開発などを経て2014年より現職。炭素資源の高度利用技術、電力取引、CO2国際トレードなどを研究。

 ◇需給調整の地域化が再エネ普及後押し

 ◇太陽光に合わせた「受け身」の消費を

 

原田達朗

(九州大学炭素資源国際教育研究センター教授)

 

2015年11月から12月にかけ、フランス・パリで国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が開催された。厳しい交渉の末、関係各国は20年以降の地球温暖化対策に関する新たな枠組み「パリ協定」を採択。目標達成の義務化は見送られたものの、産業革命前からの気温上昇を2度C未満に抑える、1・5度C未満になるよう努力することで合意した。

 このCOP21の開催に当たり、日本は温室効果ガスを30年までに13年比26%削減する目標を国際連合に提出した。13年度の日本の二酸化炭素(CO2)総排出量は約13・11億トンなので、30年までに約3・41億トンのCO2排出を抑制する目標だ。これは1997年の京都議定書採択時に示した削減量である0・69億トン(90年比6%削減)の約5倍に当たる野心的な数字と言えるだろう。


 排出削減の肝となるのが、日本のCO2排出源の約4割を占める発電分野である。削減には、発電時にCO2を排出しない「CO2フリー」な電源である原子力発電と再生可能エネルギーの役割が重要となるが、原発は東日本大震災で重大事故を起こし、安定稼働には不確実な部分が多い。安易に原発に頼らず、再エネで補完しながら削減目標を達成する知恵が必要となる。

 

 ◇電気を昼間使う

 

 再エネを普及させる上で最大の課題となっているのが出力の不安定さである。周知の通り、電力を安定的に供給するには、需要と供給をバランスさせ、周波数を一定にする必要がある。12年7月の固定価格買い取り制度(FIT)施行後、九州地方などでは太陽光発電設備の設置容量が急速に増加したが、太陽光で発電した電力が系統に多く連系すると、需給調整に影響を及ぼし、電力品質が低下するとの懸念が浮上。対策として接続保留や出力抑制を行うことになり、太陽光の普及にブレーキがかかった。

 では、太陽光をはじめ、CO2を発生せず、一度設置してしまえば燃料もいらない再エネ電源を最大限に導入していくためには、どのような方策があるのか。

 筆者は、(1)再エネ電源が発生する時間帯に電力需要自体をシフトさせる、(2)再エネ電源の出力変動を調整できる機能を持つ組織体(クラスター)を各地域に構築する──という二つの具体策を提案したい。

 まず、一つ目がCO2フリーの電気がたくさん手に入るタイミングに電力需要を喚起することである。

 これまで、一般電気事業者の電力料金は、昼間は高く、夜間は低く設定される傾向があった。これには昼間の電力消費ピークを抑え、ピーク時だけに稼働させる発電設備の投資コストを抑える狙いがある。企業の中には安い電力を使うため、深夜に生産設備を稼働させているケースもある。

 しかしCO2フリーの電気が潤沢に作れる昼間に電力消費を抑えるのはもはや得策とは言えない。むしろ、昼間に電力需要をシフトさせていく仕組みを社会全体で考えることが重要だろう。それには、「電気を、使いたい時に使いたいだけ使う」という従来の考え方を見直し、再生可能エネルギーの電気は、出力に合わせて使うという「受け身」の姿勢を持つことが重要だ。

 ◇再エネは制御できる

 

 再エネを普及させるための二つ目の方策がクラスターの形成である。

 ここで言うクラスターとは、エネルギー地産地消のシステムである。ある地域で、自治体や地元企業などが関与するエネルギー供給会社が、住宅や学校、コンビニエンスストア、工場などの需要サイドと協力しながら、太陽光発電や風力発電などの再エネ電源や自家発電設備、蓄電池などを活用してエネルギー供給と消費を最適化する仕組みだ。

 クラスターの最大の特徴は、クラスターの外にある大型火力発電から系統を通して安定的に電力供給を受けつつ、再エネ電源の出力変動に対応しながら、電力の需給調整を行う点である。

 例えば、天気が晴れから曇りになって太陽光発電の出力が下がったり、風が弱まって風力発電の出力が下がったりした場合、クラスター内に設置されている自家発電設備の出力を上げて地域の電力需要を賄う。一方、再エネ電源で作った電気が余った場合は、蓄電池にためたり、電力を消費する設備を稼働させて調整を行う。こうした仕組みを、ICT(情報通信技術)とエネルギー管理システムを組み合わせて構築するのだ。

 クラスターの形成によって、さまざまなメリットが得られる。まず、系統の制約を受けずに、再エネ電源を導入することができる。また、従来のエネルギー供給体制下では、再エネ電源の大量導入には系統の増強が必要とされているが、クラスターの内部で需給調整を行うため、クラスターの外の系統を増強する必要がなくなる。

 大型火力発電の高効率運用にも貢献する。一般的に日本の火力発電の発電効率は高く、CO2発生量が少ないと考えられている。しかし、これは設備がフル稼働している時の話で、実際には需要に応じて出力を変動させており、最高の発電効率で運用される時間は限られる。クラスターと大型火力電源が協力関係を結び、クラスターが大型火力に代わり、需要に合わせて出力を変動させる仕組みを構築すれば、大型火力電源を長時間、100%の負荷で運用できるようになる。そうすれば、発電効率、運用効率が飛躍的に高まり、火力発電のCO2発生も抑制することができる。

 東日本大震災では、震災時に発生した津波で、海岸線に集中する大規模電源の弱点が露呈した。この経験を生かし、電力の供給体制を、大規模集中電源一辺倒から、小規模分散電源と協調する体制へとシフトさせ、防災への耐力を高める工夫が必要だ。各地域で自立的にエネルギーを供給できる能力を持つクラスターはこうしたシフトにも役立つ。

 さらにクラスターが広く日本に普及すれば、ある地域で再エネ電力が少ない場合、余っている他の地域から供給することができる。

 現在、電力小売市場の自由化を見据え、再生可能エネルギーの導入に積極的な地方自治体等を中心に、地域電力会社の設立を目指す動きが活発化している。福岡県みやま市では、市が設立した電力会社と需要家が協力して電力の需給調整を行う、といった先進的な事業も始まろうとしている。こうした取り組みが将来的にクラスターの形成に結びつくことが期待される。

 再エネ電源は、供給サイドから見ると、「制御できない厄介なもの」として認識されているようだが、エネルギー供給の中では、既に無視できない存在となっている。一方、需要サイドから見ると、再生可能エネルギーを利用するメリットは数多い。その意味で、再エネ電源の普及には、供給側だけに頼らず、需要側も積極的に関与していくことが重要と言える。(了)

 

(『週刊エコノミスト』2016年1月26日号(1月18日発売)42~43ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年1月18日

週刊エコノミスト 2016年1月26日号

 

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