2016年

1月

26日

経営者:編集長インタビュー 宮原道夫 森永乳業社長 2016年1月26日号

 ◇「技術」でニーズに応える

 

 2017年で創業100年を迎える森永乳業。主力商品に、アイスクリームの「ピノ」や「パルム」、「森永アロエヨーグルト」、乳飲料の「マミー」や「ピクニック」、「クリープ」、「クラフト」ブランドのチーズなどがある。そのほか、粉ミルクや流動食なども扱う。

── 乳製品の売れ行きは。

宮原 牛乳、ヨーグルト、チーズなどの主力商品が好調です。特にヨーグルトは、ここ数年で売り上げが急速に伸びており、機能性や作用をプラスしたものがヒットしています。10月に高たんぱく質のヨーグルトと飲料を発売しました。筋力や骨が衰えるシニア層をターゲットにした商品ですが、実際は子供や若い女性の方がカロリー不足やたんぱく質不足を起こしています。子供や孫と一緒に、身近な

食品でたんぱく質を取ってもらうことを目的としています。

 ── 16年3月期の連結純利益が前期比2・2倍の90億円になる見通しです。

宮原 第2四半期までの業績は、全体として増収増益となりました。原材料価格の高騰に対応するため、3月と4月に一部商品で価格改定を実施しました。ある程度の数量ダウンも予測していましたが、ヨーグルトや牛乳などを中心に手堅い需要があり、売上数量はプラスとなりました。ただし、この業績は原材料価格高騰の影響を受け、大幅に悪化した前期に対するもので、水準としては14年3月期に戻ったところです。

 16~20年の中期経営計画では、「機能性・食品素材事業、BtoB(企業向け)事業の強化」「グローバル化の推進」「健康・栄養事業の育成」「既存のBtoC(一般消費者向け)事業の収益性の改善」の四つの柱を掲げています。

── 時代に合った商品を提供できる秘訣(ひけつ)は。

宮原 乳や食についての研究をずっと続けてきており、知見の積み重ねがあります。従来、手作りで行うことを機械化、自動化する技術力、販売力、それにチーム力が合わさり、各パーツが最大の力を発揮すると、ヒット商品につながります。一方、企画だけを見ていい商品だと思っても、売れない時もあります。

── 市場ニーズのつかみ方は。

宮原 お客様からいただく意見や要望は大きいです。毎日集計して私のところに報告が来ます。また、月に1~2度、お客様相談室と商品開発担当でいただいた意見をもとに議論しています。この共有が商品の改良につながることも多くあります。

── 商品開発の苦労は。

宮原 私たちは「技術の森永」と言われてきました。カップ乳飲料の「マウントレーニア カフェラッテ」の商品化では、コーヒー豆の焙煎(ばいせん)、豆ひき、抽出などの工程を行う機械を自前で開発しました。コーヒー牛乳を扱っていた経験を生かし、研究を重ねました。味だけでなく、コーヒー抽出後に低温で保つことや配送時の温度管理も重要です。

 ヒット商品となった「濃密ギリシャヨーグルト パルテノ」は、布でヨーグルトの水を切る作業を機械的に行うことが難しく、品質的にも技術的にも非常に苦戦しました。

 乳業会社は化学会社だと思っています。それに「食」が重なり、衛生的な部分がプラスされます。サプライチェーン(原料段階から商品が消費者に届くまでの全プロセス)まで管理しないと商品を作れません。

── 生乳生産量が減っているようですが。

宮原 離農の影響で国内の生乳生産量はここ10年で年間約850万㌧から100万㌧あまり減少しました。一方、国内で必要な乳製品は生乳換算で年間約1200万㌧におよび、不足分は輸入で補っています。

 日本は生乳生産の目標を約750万㌧としているので、これ以上生産量が減ると、乳製品で健康を提供するという土台の部分にも影響が出てくると考えます。酪農は1次産業なので、国との結びつきが強くなっています。生乳生産量がこれ以上減少しないよう行政の政策について、私たちも意見を述べていきます。

 

 ◇TPPも影響

 

── 15年10月にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の大筋合意がありました。

宮原 脱脂粉乳やバターについては、一定の低関税枠が設定されたものの、それ以外は現行関税が維持されており、乳製品市場に与える影響は限定的と言えます。一方、ホエイ(乳製品を作る際に固形物と分離されてできる液体)や一部のチーズについては、種類別に関税率やセーフガードなどが設けられていますが、最終的には関税が撤廃されることから、国内乳製品の価格競争力の低下が懸念されます。価格競争にさらされることに対して、将来的に行政に対して乳価や設備投資についての支援依頼を行っていくつもりです。

── 海外での事業展開は。

宮原 ドイツにある子会社ミライで、ホエイたんぱく濃縮物、乳糖などの乳原料製品の生産を手がけています。メーカー向けの生産を拡大するため、新工場を増設中で、16年夏からの稼働を予定しています。

 粉ミルクに関しては、インドネシアに合弁会社を設立し、国内で8%近いシェアを持ち、パキスタンでは、現地の外資としてはトップシェアを誇ります。世界的に見ると、乳原料製品の需要は中国やアジア諸国で高まっており、粉ミルクなどの需要を原動力に成長が期待できます。

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=丸山仁見・編集部)

 

■横顔

 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 エンジニアとして工場を飛び回り、新製品などに携わっていました。体力的に一番仕事をしていた時期です。

 最近買ったもの

A 「申」の置き物です。役員室に入ってから毎年、干支の置き物を置いています。

 休日の過ごし方

A 市場リサーチのため周辺のスーパーに行くことが多いです。社長に就任してから変わりました。

 

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■人物略歴

 

 ◇みやはら みちお

東京都出身。1969年早稲田大学高等学院卒業。75年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、森永乳業入社。2005年常務執行役員、07年専務取締役、09年取締役副社長、11年代表取締役副社長などを歴任し、12年6月より現職。65歳。

 

 

(『週刊エコノミスト』2016年1月26日号(1月18日発売)4~5ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年1月18日

週刊エコノミスト 2016年1月26日号

 

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