2016年

2月

02日

【小泉進次郎 独占インタビュー全文公開】「農林中金はいらない」 「農業の“護送船団”を改革する」

 

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)大筋合意後、自民党農林部会長に就いたのが小泉進次郎衆院議員だ。父親譲りのストレートな発言で注目を集めてきた。小泉氏が見据える農業改革の焦点とは――。

 

2月2日号『週刊エコノミスト』特集「農業がヤバい」に掲載したインタビューの詳細を1万2000字でお伝えする。インタビューは2016年1月12日、1時間にわたって行われた。

 

―― 「農政新時代」という言葉を自民党のTPP対策で打ち出した。新と旧の違いはどこにあるのか。

 

小泉 TPPは終わりではない。それを新時代という意味に込めたつもりだ。TPP自身も進化する経済協定であり、現実に12カ国の妥結で終わりではない。韓国、フィリピン、タイが関心を示しており、さらに拡大する可能性が高い。

 

なおかつ、いま日・EU(欧州連合)のEPA(経済連携協定)の交渉が進んでいて、2016年中に1つの形が見えてくるかもしれない。さらにRCEP(東アジア地域包括的経済連携)、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)などさまざまな地域を包含する経済連携協定が出ているなかで、TPP対策が日本の農政に必要なのか、といえば、そうではない。どんな環境変化にも耐えうる強い農業にしていくために国は何ができるのか。それが考えないといけないのが、農政の新時代。まさに環境変化のステージが変わったという意味を込めて新時代という言葉を使った。

TPP対策は「金額なし、検証可能、一発で終わらない」

 

―― TPP大筋合意は歴史的なターニングポイントだったのか。

 

小泉 ポジティブなターニングポイントとして位置づけられるか、それともネガティブなものになってしまったと歴史的評価を受けるか、その瀬戸際だと思う。

 

やはりウルグアイラウンド対策というのは残念ながら、日本の農政から見ればネガティブなターニングポイントとして位置づけられた。ばらまきの象徴であり、農政の歪みが額ありきのものを作りあげてしまった。

 

今回のTPP対策でも「ウルグアイラウンド対策の二の舞いになるのではないか」という報道や懸念がずいぶん大きかったなかで、自民党の農林部会長になって、さぁどういう策を作っていくか、となった時、ウルグアイの逆をやらなければいけないと考えた。それは金額なし、検証可能にすること、一発だけで終わらないこと。TPPが進化するように、TPP対策という発想も、一発でなく進化していかなくてはならない。

 

そこで、今秋までに党内でプロジェクトチームを立ち上げて、農業版の骨太の方針を策定する。1月下旬から正式に動き出して、政治がやらなければならない課題に切り込んでいく。

 

―― 政策のPDCA(PLANDOCHECKACT、計画、実行、検証、改善)をやるということか。

 

小泉 自民党のTPP対策「農政新時代」の最後のページを見ると、一番上に、まさに「対策の効果検証」と書いてある。最初、章立てではなかったが、章にするよう僕が言った。

政策にPDCAが回らないのは、農政だけではない。日本の他の省庁の政策でもいっぱいある。だが、農政は一番それがないと言われていた。それは今回変えないといけない。

 

いい政策はいい、ダメな政策はダメ。その効果を検証して、引き続き続けるか、効果が出ているからさらに厚くするのか、それともダメだから止めるのか。これが判断できるように効果検証の仕組みを入れることが大切だと考え、章立てにした。ここは1つ僕の中では思いを込めたところだ。

 

―― 自立や自発がキーワードになるのか。

 

小泉 TPPの対策とこれからの新農政について最近僕が言っているのは、厳しいことかも知れないが、農家=弱者ではない、ということだ。

 

今までは農家=弱者、弱者だから守らないといけない、守るためには補助金を使わなくてはならない、補助金は多く取らないといけない。となると、目的がいかに予算を取るかになる。このサイクルを変えなければならない。

 

農家には儲かっている人もいる。自分で立っていける人がいる。中山間地という、日本の農政の中でも条件不利地域という位置づけで、地域政策的に守らなければいけないという見方をされている地域でも、中身を見れば、そこで儲かっている人がいる。農家=守らなければいけない存在というだけでは、むしろ自分たちでさらに開拓していきたいと思い、日本の農地に固執しているわけではなく海外の農地さえ見ているような人の意欲を削いでしまう。

 

もちろん70歳、80歳とお年を重ねて日本の農地を守ってくれている人に、今から攻めろといっても攻められないわけだから、しっかりと人生において農業をやっていける対策は考えていかなければならないが、全部が弱者という時代ではない。そこの発想は転換が必要だ。

 

2015年11月、静岡市清水区でみかんの共選場を視察

ターゲットは生産資材と流通加工の業界構造

―― 「持続可能な農業」というが、どうイメージすればいいのか。

 

小泉 農業を取り巻く構造の見直しは不可欠だと思う。

 

例えば、骨太の方針策定プロジェクトチームで今後、検討する項目として「生産資材の価格形成の仕組みの見直し」「流通加工の業界構造の確立」を挙げている。とくに僕が力を入れていくのはこの辺りだ。

 

プロジェクトチームのテーマとしては人材力の強化と輸出にも力を入れていくが、これらは比較的前向きな取り組みで、抵抗勢力と闘うとかいった部分ではない。

 

だが、生産資材の問題と流通加工の業界構造は相当な抵抗が予想されると見ている。農業や林業をやっている生産者の努力では対応できない分野だから、政治がやる。生産者の努力では対応できない分野の環境を整えることこそ、まさに政治の役割だ。

 

―― 現状の生産資材の仕組みはどこに問題があるのか。

 

小泉 どこに一番問題があるのかをしっかり把握するためにやらなければならないことも結構ある。実は、農業の関連産業にどういう風にお金まわっているのかを正確に把握している人は、あまりいないのが実体だと思う。そここそジャーナリストの力の発揮のしどころだ。エコノミストに期待している。役所に聞いても出てこないところがある。

 

例えば、日本の農家が使っている肥料が何種類あるか。約1万6000種類ある。韓国は100種類あるかないか。なぜこんな状況になるのか。それだけ多ければ生産コストが上がる。本当に1万6000種類も必要なのか。

 

機械も、日本メーカーが作っている農機具が、なぜアメリカで半額で売られているのか。トヨタのプリウスがアメリカでは半額で売られているか?考えられない。それが日本の農業ではある。「一体なんなんだこれは」と思う。そして、なぜ九州の生産者がわざわざ韓国に行って日本のメーカーの農機具を買ってくるのか。この業界構造は何なのか。

 

小さなことかもしれないが、段ボールでも農家に聞けば、「農協の段ボールは高い」と言う。農協に「なぜ高いのか」と聞けば、「雨でも崩れない。積んでも崩れない。質がいいから高いんです」という説明が来る。農家に聞くと、「その通り」と。問題は良すぎることにある。それでも使わざるをえないのはなぜか。「この段ボールを使わなければ共販で出荷しない」と農協が言えば、いくら高くても使わざるを得ない。

 

だが、全農(*全国農業協同組合連合会、生産資材の購買や生産物の流通を担う)だけが悪いわけではない。全農に聞くと、どの段ボールを使うかを決めているのは、単協(*地域の農協)だったり、生産部会や出荷部会だったりする。例えば、地元の選挙区では農産物はキャベツと大根がメインだが、今、あまりに安すぎて畑で潰している。出荷すると損するからだ。段ボールのためにキャベツや大根を作っているようなことになるから出荷しないという。段ボールが高いことで苦しんでいる。

 

そこで、同じ品目を作っている産地が、いったいいくらの段ボールを使っていて、どこから買っていて、どれだけの選択肢があるのか。つかもうと思えば、つかめる。

 

何が問題かというと、人材力だ。情報収集能力やマーケティング能力を持っている現場の人間がいれば、産地間競争の中で、生産費用をより安くして利幅が大きくなるようにできる限りのところ考える。

 

だが、今の取引を固定化して考えている産地では十分に改革は進まない。

資材の問題について情報収集を進めていくと、行き着くところは人材力だ。

 

問いを立てると面白い。「なぜ、コメリは伸びたのか。なぜ、カインズホームは伸びたのか」。

この問いの答えを見れば、生産資材の問題はおのずと答えは見えてくる。

 

―― 生産資材の問題と聞くと、農協に問題があるように思うが。

 

小泉 僕は農協だけではないと思う。農政の世界に入り込んで見ていると、かつて金融の世界にあった“護送船団”のような世界があるのではないかと思う。金融ビッグバンの時は、不祥事をきっかけに、官財のつながりや護送船団は正さなければならないという機運が高まった。そういうことがないと本当に変われないのだろうか。そうではない。農業は変わらないといけない。僕に問われているのは、どうやって結果に結び付けていけるかどうか。農政新時代が名ばかりにならないか、が大きく問われている。ているところ。今は、各論を見ているというより、全体を背骨どうやって立たせるかを強く見ている。

 

―― 巨大な既得権益団体があって簡単にひっくり返らないのか。それとも、少し意識を変えればオセロのように変わっていくものなのか。

 

小泉 マジックはない。

 

農業や林業は今がよければいいという世界ではない。僕らが考えなければならないのは、次の時代の日本人に、現状よりもいい農業と林業の環境をどうやったら引き継いでいけるのか。次の世代の日本人も飢えないよう、舵取りしなければならない。それは時に、経済合理性だけでは判断できない問題もある。

 

世界の人口は増え、胃袋は大きくなる。そして食料争奪戦が始まる。その時、日本が世界の中でバイイングパワーを持ち続けることが出来るか。これからも、消費者が求める豊かで多種多様な日本の食を、求めやすい値段で国民に提供できる環境を作ることが出来るか。大きな考えとして持っておかなければならない。

 

今、儲かればいいという発想では出来ない。一度、失われたものを取り戻すのは相当大変な世界だ。だからこそ守るべき農地は何か、守るべきものと変えるべきものは何かという見極めがものすごく大切だ

農政は、トライ&エラーを果敢にやっていけるところと、「やってみたらダメだった」では後世まで不利益を被ってしまうところをはらんでいる。目先だけではない。見映えがいいことを考えるだけではできない。大変重いものだと思う。

 

―― それは、国際交渉での譲歩も含むのか。

 

小泉 国際交渉の枠組みを規定することも大事だが、日本の農業をどう作っていくか、だ。残さなければならないところと、変えなければならないところを見極める。温かく守っていくところと、今は痛みを感じるところかもしれないけど、次の時代を考えたらきっと理解してくれるだろうという思いで踏み込まなければならないところが、ものすごく複雑に入り組んでいる世界、それが農政。

生産資材の業界の構造もそうだ。

 

 

知事の輸出PRイベントに効果はあるのか

―― それほど難しくはないという人材力と輸出についても伺いたい。

 

小泉 難しくないとは言わないが、生産資材や流通とは質が違う問題が。

 

―― どうやって人材育成するのか。具体的な策はあるのか。

 

小泉 一言でいえば、経営感覚を持つ人材をどんどん入れていかなければならない。

 

面白い話がある。地元の横須賀・三浦には若手の農家が増えているが、ある三浦の農家の人が今、六次産業化をやっている。僕と同世代の女性で、農園を株式会社で経営している跡取り。近く社長になるという。キャベツや大根を、ピクルスやジャム、ドレッシングに加工している。

 

なぜ、それをやろうとしたのか。その発想が面白い。「農業の世界で定価のある商品を持っていなければやっていけないと思ったから」だという。農業の世界には定価というものがない。市場価格しかない。だから、キャベツや大根は、価格が高いときはいいが、今のように下がれば大変だ。「ずっと市場に頼り続けていたら、こんなリスクの高い世界はない」と言う。六次産業化が、定価がないことの疑問から始まっている。

 

一方で、定価がないことを疑問に思っている人は農業の世界では少ない。だが、経営を考えたら、いくらで売れるか分からないものを生産するほど怖いことはない。「だから、定価で売れるものを作りました」という人材を生んでいくためにはどうすればいいか。

 

今、日本で農業関連の教育の場としては、農業高校、大学の農学部、各県にある農業大学校、それに経営や簿記を含めて学ぶセミナーや機関がある。これらを、本当に経営感覚を持った人材の供給につなげていくため、一度、制度をしっかりと見る。例えば、青年就農給付金も制度の1つだ。150万円を支給するというあり方をチェックしなければならない。

 

先日、農業経営大学校の視察に行った。今どういう状況なのか、そこに学んでいる生徒の思いはどうか、確認をしてきた。人材力強化は一言でいえば、経営感覚を持った人材を農業の世界に送り込んでいくための国の仕組みを作っていくということだ。

 

―― 農業大学校や農業高校でのカリキュラムを見直すのか。

 

小泉 僕は文部科学省的発想をとらないほうがいいと思う。単純に「農業高校を応援します」ではない。実際に農業高校や大学の農学部から就農につながっているのは5%だ。こういった構造的な問題がある。それよりも、意欲があって、農業の世界で稼ぎたい人たちが活躍するために必要なスキルを身に着けることができる場を作らなければいけない。若者や子供があこがれるような職業に変えていきたい。

 

新規就農の支援はもちろん必要だ。これはしっかりやる。一方で、農業を支えているのは新規参入だけではない。代々家族から継いでいる若者もいる。今、就農してから10年、15年ぐらい経った人が自分のスキルをもう一段、上げたい時に夜学で学ぶ場がない。経験則や家族からの伝統のなかで分かってきたものはある。そこで、経営やマーケティングのスキルを身に着けなければならないという危機感を持っている。だけど、学ぶ場がなかない。一部の県では大学のなかに夜学を設置して、農家が仕事が終わったあとに通って勉強する仕組みができている。だが、全国にはない。もっと全国レベルで展開できるようにもしていきたい。意欲があって学びたいという人に学ぶ場が提供される環境を整えていきたい。これも人材力強化の大切なところだ。

 

―― 輸出については。

 

小泉 輸出の後押しをするためのお金の使い方も見直す必要がある。

 

一例を挙げると、各県で産品の輸出PRイベントに取り組んでいる。海外に知事や首長がとんでいって、「これ買ってください」「いいですよ」と言っている。本当に効くのか。問い直すべきだと思う。

 

なぜかというと、これほど輸出が着目される前から、もう10何年も前から輸出に取り組んでいる人たちがいて、毎年、現地に売り込みにいって、現地の業者と関係を構築して、自分たちで販路開拓をして、商品を棚に並べられるようになっている。だが、地方自治体は、スポット的にハッピを着て「買ってください」と売り込む。売れなかったら、「あとは置いていきます」とやったりする。そうすると、それまで販路を作ってきた人たちよりも、時に安くなる。もともと、ずっとがんばってきた人たちの努力が報われないような現象も時にあると耳にしたことがある。

 

だから、オールジャパンでやらなければならない。同じ品目で、皆で協力して産地リレーでターゲットの国に1年間通じて卸していく。1つの例はイチゴだ。シンガポールに輸出しているところはいっぱいあるが、シンガポールの輸入のシェアをみると、アメリカが50%持っている。なぜ、日本よりも遠いアメリカがシンガポールでそれだけの大きなシェアを持っているのか。味は日本の方がいい。質も日本の方がいい。だが、通年、大きなロットで供給してくるのがアメリカのいちごだ。日本は、めちゃめちゃうまいけれど、あまおうです、とちおとめです、とある程度の期間置いてある。アメリカのいちごは日々、スーパーに並んでいる。

 

 

これからやっていかなければならないのは、イチゴだったらイチゴで、例えば「ジャパンベリー」なんだと打ち出す。その下に、「あまおう」や「とちおとめ」があってもいいが、日本列島のなかで北海道から沖縄まで、季節に応じて、何月から何月までここの産地が出す、次はこっちの産地、とそういう形で通年卸していく。これを考えなければいけない。

使命感で農地を引き受ける消極的大規模化

―― コメは重要な産品だ。今の政策では戸別所得補償を平成30年に廃止するという。

 

小泉 いや、民主党政権がやっていたコメの所得補償はもうやめている。生産の数量目標を平成30年にやめる。

 

―― 今、10㌃あたり7500円を払っているが。

 

小泉 あれは激変緩和措置だ。

 

民主党政権の時にやった戸別所得補償の財源はどこから持ってきたのか。土地改良事業の財源を削ってもってきた。それが現場には理解されていない。今でも現場には、戸別所得補償と土地改良事業を両方やってくれという人がいる。そういう方に、「じゃ皆さん、民主党政権の時に戸別所得補償は、どこのお金を持ってきたか知っていますか」と聞くと知らない。7割、土地改良事業費を削った。民主党はそのお金をバラマキに使った。見境なくやったから、それによって規模拡大も止まった。それはやってはいけない。お金をもらった方からすると、「もう一度欲しい」と思うことは人間として起きてしまう心理なのかもしれないが、やはり、政治というのは、与えることはよく考えなければいけない。

 

―― そういう面でも禍根を残すということが起こる。

 

小泉 一度、与えると既得権益になる。

地元に横浜横須賀高速道路がある。今年の4月から値下げが決まった。地域の念願だったから、決まった時には地元の多くの方によくやったと評価していただいた。だが、それは3日間だけだった。4日目からは、「なんで無料じゃないのか」と。

政治は「あれやります、これやります」と言えば敵も作らず楽だ。でも、それをやったら国は滅びる。

 

―― あくまでコメについては、コストダウンのための土地改良、つまり大規模化によるコストダウンを推進して、経営の下支えはしないということか。

 

小泉 土地改良事業は、今回のTPP対策補正予算で約1000億円の追加をしている。これにもステレオタイプの批判がある。土地改良=悪という。そう書いているところや、言っている人に是非聞きたい。大規模化しなくていいという主張で土地改良=悪と言っているならば、その人の意見として尊重する。だが、「大規模化やれ、より効率のいい農地にしろ」と言いながら、「土地改良は悪だ」というのなら、支離滅裂だ。そこの正当な理解を僕はメディアの皆さんにもしてもらいたい。

 

土地改良予算が増えたことを、これまた「ウルグアイラウンド対策の二の舞じゃないか」とありきたりの締め方をしている記事をみるが、ウルグアイラウンド対策の時の土地改良と今回の土地改良では、中身をみれば全く違う。ウルグアイラウンドの時は、生活環境整備まで土地改良に入れている。排水やトイレ整備までやっていた。今回はゼロだ。生活環境整備はまったく入れない。基盤整備だけだ。

 

そして、予算のなかに占める土地改良の予算はウルグアイラウンドの時は6割強だったが、今回は3割。ウルグアイラウンドとはまったく違う使い方をしている。あとは、それが現場でしっかりと地域の収益につながっていくようなありかたに使ってもらえば、「ウルグアイラウンドの二の舞」ということは起きない。ましてや絶対に温泉なんか作ることはない。

 

―― 大規模化を基本的に進めたいという話だと思うが、大規模化がうまくいかないという事例がけっこう出ていることをご存知かと思う。そこについてはどう考えるのか。

 

小泉 大規模化でも、積極的大規模化と消極的大規模化がある。

積極的大規模化は農地さえ見つかればいくらでも出来るというものだ。儲かっていて、人材もいる。やる気がある。農地を下さいというのが積極的大規模化だ。

消極的大規模化は、もう今の経営で大変なのに、まわりがどんどん辞めていって、地域で認められている人の能力がはじけるぐらいに農地が集まってきてしまう。自然発生的な大規模化だ。

 

―― 農地を仕方なく引き受けていると。

 

小泉 あとは、地域を自分が守らなければいけないという使命感だ。だが、本当はもう自分の能力を超えていると思っている。しかも、5年後、10年後さらに増えていく。これは、国が大規模化をやると言っている方向性とはまったく違うプロセスのなかで大規模化になっている。そういったところをどうやって支えるかということもすごく大事だ。

 

いずれにしても言えるのは、収益や生産性のことを考えれば、やはり大規模化は必要な流れだが、一方で、すべてのところが規模をとにかく大きくしなければならないとはまったく思わない。そこは地域のあり方もあるし、また、場合によっては、大規模化で見込める生産費削減はある規模までいったら進まないという限界点がある。そして大規模化がイコールあるべき姿というなら、絶対にオーストラリアやアメリカにはかなわない。

 

より効率性、生産性の高いあり方を実現するためには大規模化は不可欠だが、それは絶対条件ではなく、あくまでも、より稼げる農業を作っていくなかでの手段だ。そこから何をするか、どの地域には何が合っているかというのは、よりミクロで見ていかないといけないのは事実だと思う。大規模化をすべての地域でやれば、日本の農業の課題はすべて解決していくという発想ではない中での大規模化の後押しだというところはご理解いただきたい。

 

 

企業に農地所有の選択肢を用意する

―― 企業に対する期待は。

 

小泉 僕は個人的には、株式会社の土地の所有は日本の農業が選択肢のひとつとして持っていいと思う。これがずっと実現していないのはいろいろな課題があった。また、今まで農政に携わってきた人のいろいろな思いもあって、要は農業生産法人の企業の出資比率が2分の1を超えていないところにとどまっている。

 

僕は選択肢を用意するのは国の仕事だと思っている。それを選択するのが民間や国民の意志であり、そこに政府は介在しない。それが、農業に限らず、ほかの政策についてもいつも発想としてある。

 

だから、僕は企業の農業参入をもっと奨励したいし、それが進むような環境を作りたい。反対する人々はものすごく抵抗感を示すが、僕は「企業が土地を持ちなさい」と言っているのではない。土地を持ちたければ持てるという環境を作りたい。そのことによって、多種多様なプレーヤーを農業の世界に入れていくことが必要だ。

 

日本の農業の最も構造的な問題の1つは、若者がいないということだ。新たな農業のあり方ができ、よりビジネスに近い形も導入されれば、若者がもっと入っていきたいと思える農業の世界を実現できる一助になる。だから企業の役割にはものすごく期待している。

 

―― プレーヤーが自由に選択できる環境を作るというのは経済合理性に基づくものだが、先ほど、農業は経済合理性だけではない部分があると仰った。企業が参入できる環境を整えながら、農業で残さなくてはいけないという部分はどこだと思うのか。

 

小泉 農業は英語でいうとアグリカルチャー。カルチャーだ。一方で、僕が言った企業の話などを含めると、アグリビジネス。今までの日本の農業は、アグリカルチャーの一本足打法でアグリビジネスはおまけだった。これからは、アグリカルチャーとアグリビジネスが両足で立てる環境を作ることが大事だ。

 

そうすると、アグリカルチャーはアグリビジネスによって破壊されるのかという問いが必ず出るが、そうではない。歌舞伎を見て下さい。伝統文化、伝統芸能の歌舞伎が、自分たちのやってきたことにとらわれず、ワンピース歌舞伎をはじめた。ビジネスの手法を取り入れて、新たなファンを開拓しなければ、守るべきカルチャーも守れないから、常にイノベーションを考え、新たなアイデアを取り入れる。

 

農業もまったく同じだと思う。守るべきものを守るために、ビジネスのいいところは取り入れていく。アグリカルチャーとアグリビジネスが相乗効果を発揮して、日本全体の農業の価値と魅力を上げていく。そのことによって、守るべきところはちゃんと守る。

 

守らなければならないところ、経済合理性で計れないところは、今の時代の言葉でいうと、地方創生的農業だ。今までの農業では多面的機能という言葉をよく使っていたが、多面的機能のなかに含まれると思う。そこの価値は再評価すべきところがいっぱいある。そこはしっかり後押しをする。

 

 

ただ、今のあり方を続けていくことが目的ではない。農業を守ることがやらなければならないことだ。攻めるところは攻める。それを果たしていくには、今までのことを続けたい人が続けてもらえる支え方は変えたっていい。守るべきものを守れれば。絶対に変えてはいけない、というのでは僕は変わらないと思う。

農林中金の農業融資は0・1%

―― 時間もなくなってきた。農協改革については。

 

小泉 昨年、農協改革法も通った。それを受けて、これから農協が自分たちでどういったことを考え、より組合員から、農家から感謝される組合に変わっていけるか。これを見ていかなければならないと思う。

 

最近、僕が強い問題意識を持っているのは、農林中金(農林中央金庫)だ。これは、是非エコノミストでも書いてもらいたいが、農林中金のキーワードの1つ、0・1%を知っていますか。

 

農林中金が組合員から集めているお金は93・6兆円。国の年間の予算額に匹敵するぐらいの額を集めている。この93・6兆円のうち、どれだけが貸し出しに回っているか。約20兆円だ。それ以外はほとんどが国債と外債に投資している。その貸出に回っている20兆円のうち、どれだけが農業融資に回っているか。それが0.1%だ。つまり、農林中金は、“農林”中金ではない。中央金庫だ。分かりやすく言ってしまえば、農林中金はなくていい。こういうこと言うと、ハレーションを起こすのだが、反論があるのなら是非聞きたい。

 

―― 今、農協の事業構造は金融で稼いで、農業関連に支出している。稼いでいるのは運用で稼いでいる。融資では稼げないから、リスクをとって、ヘッジファンド的に運用している。その構造自体を変えるということなのか。

 

小泉 というか、農業融資ができない農林中金、ほかの民間の金融機関に93・6兆円もあったら、もっと世の中の血の巡りがよくなる。農林中金は農家のための中央金庫だ。だから“農林”中金。お金を預けているのは農協の組合員だから、農家じゃない人もたくさん預けているが、農林中金が0・1%で理屈がつくのか。僕はまったく理屈がつかないと思う。理解ができない。

 

「貸したいけれど、貸すところがない」というのならなおさら、農林中金ではなくても出来る。なんのためにあるのか。こういったお金の問題も大きな構造の1つだ。しかも、93・6兆円はとてつもない額だ。3メガバンクがあるが、農林中金はみずほ銀行よりも多い剰余金を持っている。資本金は3メガバンクよりも多い。だから、僕は今、日本にあるのは3メガではなく4メガだと言っている。4つ目は農林中金。そのお金が農業に使われていないというのなら、僕は農林中金は役目を果たしていないと思う。

 

 

このお金がもっと回ることがあれば、極端な話、補助金はこんなに要らない。補助金ではなく、融資というあるべき方向に変えていくチャンスがあると思う。だからこれは、農林中金の皆さんに対する、僕なりのエールだ。

覚悟を決めている人をがっかりさせない

―― 夏に参院選がある。農業改革をやっていくと選挙が不利になるから、農林族の声が強くなって改革を阻まれる、あるいは農家の票が減るという心配はないのか。

 

小泉 僕は、野党時代から「早くTPP交渉に参加すべきだ」と言っていたことで、選挙の時に神奈川県のJA中央会から推薦をもらえなかった。そのあと何が起きたかというと、地元の単協(JA)は僕を独自支援してくれた。大変ありがたいことだった。「TPPが農業のすべてじゃない。税制を含めていろんな問題があるなかで小泉さんはよくやってくれているから。TPPに関してはスタンスが違うけれど、農業に対する思いは持ってくれているから、私たちは独自に支援します」と。

 

全国でも、本当に農業に対する危機感を持っていて、TPPを騒ぐ前に、元々このままでは食べていけないと思っている人たちが、農政新時代とはどのような方向性だと考えているのかを僕はよく見ていく。その人たちに向けて、メッセージを発していきたい。そうすれば、きっと分かってもらえる。むしろ、変わらなければいけないと覚悟を決めている人が、「結局、変わりきれないのか」とガッカリをしないように、歯を食いしばってがんばりたい。

 

―― 変わらなければならないと内心思っている人が多数派だということか。

 

小泉 大変ありがたいのは、僕のように、今まで農業を専門にやってこなかった人間が(自民党農林部会の)部会長になったことに対して、今まで農業を専門でやってきた先輩の議員からは、「外から新しいアイデアを入れてもらわなかったら、変われないこともいっぱいある。気にしないで思うように言ってくれ」と言われる。そこはすごくありがたい。

 

―― 例えば、西川公也議員もそう言うのか。

 

小泉 西川先生も、来週(1月25日の週)から動き出す「骨太の方針策定プロジェクトチーム」は、「若い人メインで、動きやすいようにやったらいい」と言ってくださっている。森山裕農林水産大臣もそう。

これから、役所とも連携しながら進めるが、僕の同世代の官僚を中心として、一緒になって考えていく、それは役所にもお願いした。

 

―― 皆、変えたいと思っているということか。

 

小泉 変えたい。それは皆、そう思っている。

 

―― 若い人メインで、というのは、先輩議員は今までの経緯もあって言えないという方々もいるからか。

 

小泉 言えるか言えないかというより、このままじゃダメだという思いは持っている。あるべき方向性に力を一つにしていきたい。そのために発信すべきことは発信するし、このままではいけないということは、しっかり言って、ちゃんと表でぶつかればいい。

 

―― TPP交渉に入る前の段階でも、農家からは、TPPの前に問題はたくさんあると聞いていた。

 

小泉 平均年齢が66歳の業界に、未来があると思える人は皆無だと思う。

 

―― 金融では不祥事がビッグバンを起こすきっかけになった。農業ではTPPがそうなるのか。

 

小泉 自主的に、その方向に行くしかないと思うのが本来あるべき姿だ。だが、大きな船は急には曲がれないという言葉があるように、そういうなかで今、必死でもがいている。きっと今年、農業が変わるかもしれないという予感が実感に変わっていけるように、そういった形を残していきたいと思っている。

 

もう1つ付け加えてほしい。農政新時代のなかにこめた思いに、生産者目線から生活者目線への転換がある。消費者と言ってもいいが、生活者の方が幅広い。最近の言葉でいうと、プロダクトアウトよりマーケットインだという考え方だ。作ったものを市場に出して買ってください、というのではなく、生活者にどのような野菜やお肉、果物が求められているのかを大切にして作り、売る。そういったあり方をもっと考えなければならない。その転換をやっていかなければならない。だからこそ人材が大切だ。

 

―― 生産者の所得向上を掲げると、野菜の値段が上がれば消費者の利益とは相反するようにも受け取れるが、そうではないということか。

 

小泉 自分たちがいいものを作った時に、それに見合った価格で売れるような構造の整備は、流通や加工の業界構造の見直しのなかで出てくる。だから、自分たちが作ったものを高く買ってくれるのか、という受け身だけではなく、高く売るには何をすればいいのかというところまで考えてもらう発想が必要だと思う。政治や行政は何をしてくれるのか、農協は何をしてくれるのかと甘えていてはダメだ。

 

この業界は魅力がある。僕はすごくやりがいを感じる。無関係な人はいない。伸びしろのある業界をしっかり成長させるようがんばります。(終わり)

 *2月2日号『週刊エコノミスト』の特集「農業がヤバい」では、小泉進次郎・自民党農林部会長のインタビューをはじめ、農業の課題をさまざまな角度から分析する記事を掲載しています。

 

2018年、コメがあふれる  農政大転換の迷走 /「日本産は安心」では通用しない 輸出で求められる「世界標準」/コメどうする 大規模経営は破綻寸前/下がり続ける米価/飼料用米で米価維持 補助金9割、流通コスト高/脱・大規模化の“水田放牧”/増える企業参入 規制から戦略が問われる段階へ/農場を直営するイオン/企業の農地所有は是か非か

 

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年2月2日号 表紙

定価:670円(税込み)

発売日:2016年1月25日

週刊エコノミスト 2016年2月2日号

 

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第2特集:農業がヤバい

 独占インタビュー 小泉進次郎