2016年

2月

02日

特集:丸わかり 激震!中国 2016年2月2日特大号

◇失速する経済、資源暴落 世界に広がる負の連鎖
                                              中川 美帆/松本 惇

                                               (編集部)

 

 中国ショックが世界のマネーを揺るがし、負の連鎖を巻き起こしている。中国の代表的な株価指標の上海総合指数は1月21日、中国ショックと呼ばれた2015年8月の安値2927ポイントを下回り、2880ポイントと14年12月以来、1年ぶりの安値をつけた(図1)。

 つられるように日本や米国の株価も急落。同日の日経平均株価の終値は1万6017円となり、日銀が追加緩和をした14年10月以来、約1年3カ月ぶりの安値になった。ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の終値も、1月15日に約4カ月半ぶりに1万6000㌦を割り込んだ後も下げが止まらず、20日には1万5767㌦に落ち込んだ。外国為替市場でも、リスク回避のための円買いが進み、20日に約1年ぶりとなる1㌦=115円台に上昇。世界経済危機の様相を示している。

 金融市場の動揺は、中国の景気悪化、原油暴落、米利上げの三つが共鳴し合うように引き起こしている。原油暴落は中国の需要の減少の影響も大きい。つまり、中国が危機の震源地と言える。

 この事態に、株式などリスクの高い資産から投資資金を引き揚げ、安全な資産に逃避させる「リスクオフ」が起きている。武者リサーチの武者陵司代表は「中国から1兆㌦(約117兆円)の資金流出が起きており、手を打たなければ中国発の世界経済危機が起きる」と警鐘を鳴らす。

 

◇倒産が急増

 

 中国の国内総生産(GDP)は、10年前に世界の約5%だったのが、現在は約15%に拡大。輸出と輸入を合わせた貿易総額は、13年に米国を抜いて世界一になった。ところが15年の中国の貿易総額は前年比8%減の3兆9586億㌦(約463兆円)、特に輸入は14%も減った。こうした巨象・中国の失速が世界に大きな打撃を与えている。

 原油や鉄・非鉄などの価格は暴落。英蘭石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルは1万人の一時帰休(レイオフ)を計画し、米鉄鋼大手USスチールの株価は、08年の高値196㌦から、15年1月15日6㌦台へ下落した。「破綻してもおかしくない」(株式アナリスト)とささやかれる。鉄鋼大手アルセロール・ミタルや、鉄鉱石の生産量が世界1位のブラジルのヴァーレなども、株価が大幅に下がった。JFEスチールの柿木厚司社長は「中国の鉄鋼の過剰生産は、当分解消されないだろう。日本の鉄鋼メーカーは10年近くかかった」と話す。鉱山や建設機械、海運などの業界も打撃を受けている。

 東京商工リサーチによると、15 年の中国関連の倒産は76件(負債総額は2346億円)で、14年の1・6倍(同11・5倍)に上った。最大の倒産は、負債総額1196億円を抱えた第一中央汽船。鉄鉱石や石炭を運ぶ船の需要減少と海運市況の悪化が響いた。

 中国商務省が1月20日に発表した15年の日本の中国向け投資は、前年より25・2%も減少し、32億1000万㌦(約3800億円)となった。ピークだった12年の半分以下だ。

 中国に進出した日本企業からは、現地の工場を閉鎖したり、減産するなど生産体制を見直す動きが出ている。パナソニックは15年1月、1987年に開始した中国でのテレビ生産から撤退。15年8月にはパソコンやスマートフォン向けのリチウムイオン電池工場を閉鎖した。また、ダイキン工業は現地企業に委託していたエアコン65万台のうち15万台を国内生産に切り替えた。最近は、上海などで出店しているある大手百貨店が、昨秋以降の売上高の大幅減を受け、中国から撤退するとの見方も浮上している。

◇のしかかる債務

 

中国経済の実態はどれくらい悪いのだろうか。中国国家統計局が1月19日に発表した15年のGDPは、物価変動の影響を除いた実質で前年比6・9%増になった。これは天安門事件の翌年、1990年以来となる低さだ(図2)。

 経済成長が一段と鈍化した要因の一つは、投資の落ち込みだ。とりわけ不動産投資の落ち込みは激しい。15年の不動産開発投資の伸びはわずか1・0%で、14年の10分の1だ。

 加えて、主要産業の過剰生産と地方政府の債務拡大が、景気に重くのしかかる。中国政府はリーマン・ショック後、4兆元(約72兆円)もの景気対策を実施。中国内の乱開発や企業の過剰な設備拡張を招いた。インフラや不動産開発のために資金を借り入れた地方政府は現在、積み上がった債務にあえぐ。鉄道貨物の輸送量は前年同月比でマイナスが続く(図6)。昨年12月には国有企業傘下の造船会社、舟山五洲船舶修造が破綻。国有企業としては10年ぶりの倒産で、もはや国有といえども安心できない。

 国際通貨基金(IMF)は1月19日、16年の中国の成長率が6・3%に縮小するとの予想を発表した。過剰生産を解消する構造改革が進めば、20年には6%台半ばに持ち直すが、改革しなければ20年には5%台前半に失速するという。

 UBS証券の予測によると、16年の中国の実質GDP成長率が、標準シナリオの6・2%ではなく、最悪シナリオの4・0%の場合、米国の成長率は2・3%増、ユーロ圏は1・0%増と伸び悩み、日本は1・3%減とマイナス成長に沈む。

 

◇人民元のジレンマ

 

 今、金融市場が最も注目しているのは人民元の動向だ。

 人民元は事実上、ドルに連動しているため、米国の量的緩和終了や利上げ観測によるドル高に伴って実体経済に比べて割高となり、中国ショックによる切り下げがあった昨夏までの3年間で実質実効レートが約3割上昇した(図3)。

 人民元高により輸出が低迷したうえ、中国政府が目指す投資主導型から消費主導型経済への移行もうまく進んでいない。追い詰められた中国政府は15年8月に続き、11月から16年1月にかけて人民元の対ドル基準値を徐々に切り下げた。11月2日の1㌦=6・3154元から1月21日の6・5585元まで、約4%下がった。ところが、小幅の切り下げを繰り返したことが裏目に出た。「今後も人民元安が進むのではないか」との市場の不安を招き、元をドルなど外貨に替える動きが広がり、海外への資金流出が加速した。

 中国政府にとって、本来は人民元高の方が望ましい。人民元高で輸入が増えれば、国内消費も活性化するためだ。一方で、輸出を刺激するには人民元安に誘導する必要がある。通貨政策はこのジレンマを抱えている。

 急激な人民元安を避けるため、中国政府はドル売り・人民元買いの介入を続けており、外貨準備は大きく減少。昨年12月末の外貨準備高は3兆3303億㌦(約390兆円)で、前月末比で1079億㌦(約12兆7000億円)も減少した(図7)。

 それでも人民元は昨夏に比べて7%程度しか下がっておらず、依然として実質実効レートは高い状態。BPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「上昇した3割分が下がるまで、市場は十分とは判断せず、資金流出が続く可能性がある」と見る。

 もし人民元が3割下がったらどうなるか。多くの新興国通貨も下がり、相対的に先進国の通貨が高くなる。なかでも円買いが進む可能性が高い。「円・ドル」=「元・ドル」×「円・元」で計算するSMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは、「円に対する人民元の下落率も3割と仮定すると、1㌦=107円になる」と見る。河野氏は「100円前後」の水準まで進む可能性も指摘する。

 人民元の大幅切り下げにより何が起きるのか。まず、ドル建て債務を抱える企業の負担が増し、デフォルト(債務不履行)を起こす企業が増えることが予想される。龍谷大学の竹中正治教授は、「国際決済銀行(BIS)のデータとIMFの推計に基づくと、中国の民間非金融部門の外貨建て債務は1兆~2兆㌦(約117兆~234兆円)台に上る」と指摘する。

 日本への影響も大きい。円に対して人民元安となるため、中国人の日本への「爆買い」は減少するだろう。中国に進出している日本企業は大幅な減益に見舞われ、アベノミクスによる円安・株高の効果は失われかねない。17年4月に延期されている10%への消費増税も「再び先送りが必至」(藤戸則弘・三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資情報部長)。

 

◇財政政策打てるのか

 

 16年9月には主要20カ国・地域(G20)首脳会議の中国・杭州での開催が予定されており、3月の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)後には何らかの景気対策を打ち出す可能性がある。昨年12月の中央経済工作会議では「積極的な財政政策をさらに強める」との方針を打ち出し、金融緩和を続ける姿勢も示唆している。

 ただ、リーマン・ショック後に行われた4兆元もの大規模景気対策が過剰設備や地方政府の債務問題など、現在も引きずる影響を引き起こした苦い経験があるため、「大規模な財政政策は打ち出しにくい」との見方もある。

 中国の構造改革は待ったなしの状況だ。今回の世界同時株安が、負のパイラルを世界中に広げ、更なる金融危機を招く恐れもある。震源地となった中国に課せられた責任は重い。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年2月2日号 表紙

定価:670円(税込み)

発売日:2016年1月25日

週刊エコノミスト 2016年2月2日号

 

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