2016年

2月

02日

第22回 福島後の未来をつくる:窪田秀雄 テピア総合研究所主席研究員 2016年2月2日特大号

 ◇くぼた・ひでお

1953年、神奈川県生まれ。東海大学大学院工学研究科卒。日本原子力産業会議を経て2006年、日本テピア入社。中国を中心に世界の原子力をウオッチしている。編著に『中国原子力ハンドブック』など。

 ◇事故の教訓を生かし中国原発と協力する道

 

窪田秀雄

(テピア総合研究所主席研究員)

 

これからは中国を抜きにして世界の原子力産業を語れない。中国の原子力発電所は運転中、建設中を合わせてまだ55基に過ぎないが、筆者の調査では計画中は274基にも及ぶ。中国の原発は国産化が基本方針とはいえ、その市場規模は、日本を含めて各国の原子力機器・部品企業にとって無視することはできない。とくに日本は、今後数十年内に隣国に数百基の原発が林立する現実を正面から見据える必要がある。

 中国による次世代原子炉への取り組みも、他の国の追随を許さない。次世代原子炉の中で最も進んでいる高温ガス炉(HTGR)は、技術的には日本のほうが進んでいるとの指摘もあるが、実証炉、実用炉の建設によって日中の立場が逆転することは確実だ。


 有望な技術(新型炉)を持つ国(たとえば米国)にとっては、中国の資金力も魅力的だ。新世代の原子炉を開発する米国の原子力ベンチャーのテラパワー社会長を務めるマイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏も同じ考えだろう。

 翻って日本はどうか。中国と組めば技術が流出すると懸念する向きもあるが、いかに優れた技術を持っていても、そうした技術がビジネスに生かされなければ意味がない。中国の原子力開発に日本が積極的に関わっていくことは、東京電力福島第1原子力発電所事故から得られた教訓を中国の原発の安全性向上に生かすことができるだけでなく、中国に対して発言権を確保できる。米政府がウェスチングハウスの最新原子炉技術である「AP1000」を中国に移転することを許可したのも、そうした思惑からだろう。国内での新規プロジェクトの見込みがまったくなく、原子力供給能力の毀損(きそん)さえ想定される日本としても、中国と協力関係を構築し活路を見いだすべきだろう。

 第12次5カ年計画期の最後の年となった2015年は、中国がめざす原子力強国の構築に向けた節目の年となった。15年だけで6基が営業運転を開始、7基が着工した。「第13次5カ年計画期」も幸先良いスタートをきり、16年1月1日に新たに2基が運転を開始した。これによって運転中の原発は30基、建設中は25基となった。16年以降、毎年、6~8基がそれぞれ着工、運転開始する見通しだ。

 ◇次世代炉各種が実用化へ

 

 15年11月には、これから世界の原子力業界が中国を中心に回ることを予感させるような会談が行われた。中国の李克強首相がゲイツ氏と北京で会談し、米国と共同で原子力研究開発を行い中国の原子力産業水準を引き上げることを期待するとしたうえで、米国と共同で原子力市場を開拓する意欲を示した。これに対しゲイツ氏は、両国企業の協力は技術イノベーションや産業化プロセスを加速させると応じた。さらにゲイツ氏は、エネルギーを所管する国家能源局の局長や中国を代表する原子力事業者の中国核工業集団公司(中核集団)のトップとも意見交換した。

 テラパワー社と中核集団は15年9月、習近平国家主席の米国訪問に合わせ、劣化ウランを燃料として使用できる「進行波炉」の開発協力に関する覚書を締結している。ゲイツ氏の訪中の背景には、協力の前提となる「米中原子力協定」の直前の改定があったことは間違いない。すでに、中国国内での原型炉建設が浮上している。各種の次世代原子炉を開発する中国としても、共同での原型炉建設は望むところだろう。

 米中による次世代炉の共同開発は進行波炉が初めてではない。中国は、1960年代に米国が研究を進めたトリウムを溶融塩に溶かして燃料として使用する「トリウム溶融塩炉」の開発に国を挙げて取り組んでいる。中国国内に大量にあるレアアース鉱石の精錬に伴って発生するトリウムが燃料として利用できれば、文字通り国産のエネルギーとなる。トリウム溶融塩炉は、燃料の成型加工が不要で炉心構造物が簡単なことに加えて、安全性が高く液体金属のような危険性がないといった特徴を持つ。

 米エネルギー省(DOE)と中国側の溶融塩炉開発主体の中国科学院は11年12月、原子力科学技術に関する協定を締結。同協定には溶融塩炉の協力が盛り込まれた。DOEのピーター・ライアンズ原子力担当次官補と江綿恒・上海科技大学学長を共同議長とする執行委員会が設立されている。江氏は、江沢民元国家主席の息子だ。

 中国は、これ以外にも次世代原子炉の研究開発を進めている。加圧水型軽水炉(PWR)などの熱中性子炉から、将来の核融合炉へとつなぐ原子炉戦略の中で最重要の炉型と位置付けている高速増殖炉(FBR)については、自主設計の60万㌔㍗実証炉「CFR600」を福建省寧徳市霞浦県に建設することを決めた。すでに実証炉の建設・運営主体も設立されており17年に着工する。

 再処理にともなって得られる回収ウランやトリウムを燃料として使用できる先進燃料CANDU炉をカナダと共同で開発するプロジェクトもスタートしている。超臨界圧軽水を冷却材に使う「超臨界圧軽水冷却炉」の開発も進んでいる。汽水分離系や再循環系が不要なため機器の簡素化が図れ、熱効率が大きく改善されるといった特徴を持つSCWRは、100万㌔㍗級の「CSR1000」の全体設計プランならびに材料選定プランが完成している。

 山東省で建設中のHTGR実証炉(21万㌔㍗)は17年には完成する。これに続く、60万㌔㍗の実用炉プロジェクトも多数の省で具体化している。中国は、HTGRを輸出する方針も固めており、すでに複数の国に対して売り込みをかけている。中国の次世代原子炉開発から見えてくるのは、豊富な資金力を生かし国際協力も利用して世界の原子力ビジネスの覇権を握るという遠大な計画だ。

 

 ◇急拡大には懸念

 

 当初、原発輸出の弊害になるのではないかと指摘されていた中核集団、中国広核集団有限公司、国家核電技術公司の3大原子力事業者の確執も政府の指導力によって調整が行われ、盤石な体制が整いつつある。中核集団と広核集団は昨年12月30日「華龍1号」の輸出専門会社「華龍公司」を設立した。

 問題があるとすれば、中国国内の専門家も指摘する、常軌を逸したとまで形容される原発の急拡大だろう。 福島第1原発事故を経験した日本は、優れた品質の部品などの提供を通じて中国原発の安全性向上を図る一方で、日本の原子力産業を活性化させる道を探るべきだ。(了)