2016年

2月

09日

特集:投資が恐い人の資産防衛大綱 2016年2月9日号

 

◇銀行任せでは守れない資産

◇「高すぎ」手数料に注意

                                              桐山友一/丸山仁見 

                                               (編集部)

 

  1月上旬、東京都内に住む40代の会社員男性の携帯電話に、取引銀行の担当者からのメッセージが留守番電話で残っていた。

「○○銀行××支店の△△です。年始のごあいさつでお電話を差し上げました」──。

 男性は昨年1月、銀行の紹介で系列の証券会社に口座を開設。寝かせたままの預金を投資で少しでも増やそうと考えたものの、1年以上たっても手を出せないでいる。金融市場の変動があまりに激しく、投資のタイミングをまったくつかめないからだ。

 

◇“ジェットコースター相場”

 

 金融市場は今、まさに“ジェットコースター相場”だ。年初からの日本株市場を見ても、日経平均株価は1月4日の大発会以降、戦後初めて6営業日連続となる下落を記録。その後も一時、約3カ月半ぶりに1万7000円を割り込むなど、つるべ落としのような下落が続くかと思いきや、1月22日には前日比941円高と大幅に急反発した。

 昨年1年間を振り返っても、5月以降に2万円前後の高値で推移したかと思えば、8月には中国が突如、人民元相場を大幅に切り下げたことを端緒に動揺。12月に入ると、原油価格の下落が市場の不安を誘う中で、米連邦準備制度理事会(FRB)が9年半ぶりの利上げを実施し、世界景気の先行きへの懸念から株価は下落の基調が強まった。市場は腰を落ち着ける暇がなく、個人投資家にとってはなおさらだ。

 男性は昨秋以降も銀行の担当者から何度か電話をもらい、大きく値下がりした新興国株式の投資信託などを、相場の底だと考えて投資を相談。そのたびに分厚い投資商品のパンフレットも郵送されてきた。しかし、男性はさらなる値下がりが恐く、なかなか動くことができない。しびれを切らしたのか、年末にはさらに銀行から頻繁に電話がかかってくる。男性は次第に電話をプレッシャーに感じるようになり、とうとう銀行からの電話番号の着信には出なくなってしまった。

 

ここ数年、銀行が個人に対して、投資を促す動きが強まっている。日銀の異次元緩和による低金利もあって、本業の貸し出しで利ざやを十分に稼げなくなり、金融商品の販売などによる手数料収入の確保に力を入れているためだ。中でも顧客の買い付け金額に応じて販売手数料が入ってくる投資信託は大きな魅力。運用の仕組みが複雑だったり、旬の投資テーマで銘柄を選別したりする投信では、手数料が3%超のものが大半を占めており、銀行にとって“うまみ”のある収入源となっている。

 実際、みずほ銀行では、昨年12月の投信の月間販売額ランキングで、上位10位のうち米国のREIT(不動産投資信託)を対象とする毎月分配型など、手数料3%超の投信は6本がある。金融庁の「金融モニタリングリポート」(15年7月)によると、販売手数料の平均は年々、上昇する傾向にあり、シンプルな投資商品の多い米国と比べてもその差は大きい(図2)。また、投信の平均の保有期間はわずか2年程度にすぎず(図3)、「目先の手数料を稼ごうと、顧客に乗り換え売買を促しているのではないか」という批判も根強い。

 

◇ファンドラップ急増

 

 その中で今、銀行や証券会社で急速に残高を伸ばしているのが、顧客が資産運用を一任する「ラップ口座」だ。その残高は13年9月末に1兆円を突破した後、昨年9月末には5兆1617億円へと増加している(図4)。ラップ口座はもともと、多額の資産管理が難しい富裕層向けのサービスとして始まったが、ここ数年の上昇をけん引しているのが「ファンドラップ」と呼ばれるサービス。投資家の運用目的などに沿って株式や債券などさまざまな資産への分散投資を代行し、数百万円からの受け入れも可能なようにハードルを引き下げたのが特徴だ。投資に難しさや不安を感じる人には、こうしたサービスは魅力的に映るかもしれない。

 しかし、ここでもやはり「ファンドラップ・フィー」と呼ばれる実質的な手数料の高さが課題だ。ファンドラップは個別の投信を組み合わせて運用するため、それぞれの投信の信託報酬も加わることになり、運用資産残高に対して合計で年3%前後のコストがかかるものが多い。金融機関にとっても毎年、それだけ安定的な収入にもつながるため、PRに力を入れているのが実情だ。

 ただ、シンプルな資産運用を提唱する投資アドバイザーのカン・チュンド氏は「リスクの高い日本株や外国株で長期運用しても、年間に見込めるリターン(収益率)は7%程度。ファンドラップを利用する人なら、期待するリターンはせいぜい年3~4%ではないか。そのうち年3%前後も手数料などを取られるのは法外な高さだ」と指摘する。また、毎年確実にリターンが上がるわけでもなく、損失が出ていても手数料は発生する。

 

◇慌てずに淡々と

 

 投信やファンドラップは、手数料の根拠もあいまいだ。金融庁は「金融機関に根拠を聞くと、他社と比較したり以前の別のサービスと比較して決めているようで、明快な答えが返ってこない。人件費や物件費などを積み上げて計算しているわけではないようだ」と話す。金融機関にはファンドラップ・フィーがどのようなサービスへの対価なのか、また運用先のファンドも信託報酬などを考慮して適切に選択しているか、など投資家へのより具体的な説明が必要だ。

 金融機関に任せきりでは、せっかくの資産も守れない。びとうファイナンシャルサービスの資産運用アドバイザー、尾藤峰男氏は「自らの投資方針をしっかり持って金融機関に伝えれば、セールスの電話もかかってこなくなる。投資タイミングにこだわらず、中核の資産は株式や債券などに長期で分散投資してリスクを抑え、手数料などコストの低い商品を選ぶことが資産運用の基本だ」と強調する。 

 激変相場を恐れず淡々と投資を実行すれば、将来に大きな成果となって返ってくる。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年2月9日号 表紙 資産防衛

定価:620円(税込み)

発売日:2016年2月1日

週刊エコノミスト 2016年2月9日号

 

 

【特集】投資が恐い人の資産防衛大綱

・銀行任せでは守れない資産

・取り崩しながらでも大丈夫!

・バリュエーションの見極め方

・インデックスファンド