2016年

2月

16日

第24回 福島後の未来をつくる:鈴木達治郎 長崎大学核兵器廃絶研究センター長・教授 2016年2月16日号

 ◇すずき・たつじろう

 1951年大阪府生まれ。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)修士課程修了。東京大学工学博士。米MITエネルギー環境政策研究センターなどを経て、2010~14年に政府原子力委員会委員長代理。14年長崎大学教授。15年同大学核兵器廃絶研究センター長。

 ◇行き詰まった核燃料サイクル

 ◇現状打破に直接処分を可能へ

 

 日本の原子力政策の要といわれる核燃料サイクルは、1957年の開発当初から変わらない目標であった。その前提となるのが、夢の原子炉といわれる高速増殖炉の実用化であり、そのために必要な全量再処理、すなわちすべての使用済み燃料を再処理することが基本政策となった。

 しかし、開発開始から60年近くたち、原子力と核燃料サイクルを取り巻く情勢は大きく変わった。今や、核燃料サイクル、その中核となる高速増殖炉の開発は完全に行き詰まった。ウラン価格が上昇し、プルトニウム燃料が経済的であれば、燃え残ったウランとプルトニウムをリサイクルする「プルサーマル」への期待もあったが、80年代以降、再処理コストの高騰、ウラン価格の低迷が続き、プルトニウム・リサイクル経済の見通しは大きくしぼんだ。今や、再処理路線はリサイクルをしない通常のウラン燃料より割高な路線であることが明らかだ。


 そのなかで、日本は硬直的な全量再処理路線にこだわり続けている。とりわけ、東京電力福島第1原子力発電所事故以降、原発の将来が不透明になった今、全量再処理路線を継続する合理的理由は見つからない。

 にもかかわらず、政府のエネルギー基本計画では、核燃料サイクル継続を基本とし、最近では電力小売り全面自由化市場においても再処理事業が継続可能となるよう青森県六ケ所村核燃料再処理事業を、半官半民組織である特別認可法人にして政府が支援する案さえ検討されている。

 しかし実態は、2005年運転開始を予定していた六ケ所再処理工場は、実に23回にわたる延期でまだ運転を開始していない。

 さらに、将来の目標であった高速増殖原型炉もんじゅの運転も、原子力規制委員会からの勧告(事業主体である日本原子力研究開発機構に代わる運転主体の見直し)もあり、運転開始の見通しがまったく立っていない。一方で原発敷地内にある使用済み燃料プールの容量も満杯に近づいている。つまり再稼働の基数が多くなればなるほど、使用済み燃料が満杯になる日は早まる。核燃料サイクル(全量再処理)路線は今や、完全に行き詰まっているのである。

 

 ◇打破する改革4点

 

 そこで行き詰まりを解消するための改革案を4点提唱する。まず一つ目は、使用済み燃料の直接処分を可能にすることだ。現在、全量再処理路線の下では、使用済み燃料は資源または資産と考えられており、ゴミ(高レベル放射性廃棄物=HLW)として人が触れる恐れのない深部地下に埋める地層処分(これを直接処分と呼ぶ)が制度上、許されていない。特定廃棄物の最終処分に関する法律(高レベル廃棄物処分法)の対象が再処理後の廃棄物に限定され、使用済み燃料が含まれていないからだ。

 また、将来高速増殖炉が実現しないとなると、プルサーマルした後のMOX使用済み燃料(プルトニウムとウランの混合酸化物燃料)はいずれ処分するしかない。

 さらに、研究炉の使用済み燃料、破損燃料など、再処理に適さない使用済み燃料も存在する。したがって、使用済み燃料の直接処分はもはや不可避である。

 さらに福島原発事故以降、原子力の将来が不透明な状況を考えれば、核燃料サイクルの柔軟性を確保する意味でも、直接処分を可能にすることは急務の課題といえる。具体的には、全量再処理路線から、再処理と直接処分のどちらを選んでもよい柔軟路線に転換すること、法制度としては、地層処分の対象に使用済み燃料を加えることが必要だ。

 二つ目に、中間貯蔵としての乾式貯蔵容量の拡大を急ぐことだ。乾式貯蔵は空気で使用済み燃料を冷やすので電源を必要としない。再処理をするにせよ、直接処分をするにせよ、中間貯蔵が絶対必要である。現在は再処理を前提とした中間貯蔵であるが、前述しているように、再処理が行き詰まると中間貯蔵も行き詰まることになる。直接処分を可能にして、はじめて中間貯蔵後の柔軟性が確保される。

 使用済み燃料のプール貯蔵には限界があるうえ、福島事故で明らかになったように安全上の懸念が残る。できれば、早い時期に乾式貯蔵方式に移行していくことが望ましい。

 問題は立地だ。立地の成否は貯蔵後の引き取りを保証するかどうかにかかっている。15年10月6日に最終処分関係閣僚会議が使用済み燃料対策アクションプランを発表したのは、使用済み燃料を廃棄物として扱ったという意味で、また国が取り組む姿勢を示したという点で、一歩前進ではある。

 直接処分が可能となれば、廃棄物処分の事業主体が引き取ることもできる。国が中間貯蔵後の引き取りや保管自体に責任を持つ国家責任保管といった新しい概念を打ち出すのも一案だろう。長期的には放射性廃棄物の最終処分について、合意形成プロセスを改革することも必要だ。敷地内での乾式貯蔵の可能性も含め、地元や消費地域の市民も含めて、中間貯蔵の必要性について合意形成を早急に図っていく必要がある。

 三つ目は、プルトニウム在庫量の削減計画を明示することだ。原発や核燃料サイクルの将来にかかわらず、すでに再処理から回収されたプルトニウムの在庫量が国内に10・7トン、欧州に37・1トン、合計47・8トンにも上っている。長崎型原爆(6キロ/発)に換算すれば、約8000発に相当する大量の在庫量だ。この在庫量の削減は日本の原子力政策の信頼を高める意味でも、また国際安全保障上のリスクを軽減する意味でも、喫緊の課題だ。

 これまで日本の政策は余剰プルトニウムを持たない、すなわち目的用途のないプルトニウムを保有しないというもので、いずれ燃料として使われる見通しがあれば需給バランスが取れるので問題ないという立場であった。しかし、これまで利用目的として挙げられていた高速増殖炉やプルサーマルの将来も不確実になった以上、それでは不十分だ。政府は民間任せでなく、明確に在庫量削減計画を早急に構築すべきだ。具体的には、プルサーマル以外の選択肢、例えば英国が提案している日本のプルトニウム引き取り案や、燃料にしないで直接ゴミとして地層処分する案などの検討に入るべきだ。

 最後の四つ目は、第三者による総合評価を急ぐことだ。前述のような政策を実現するには、これまでと異なる政策決定のメカニズムが必要だ。これまで、政策変更をする機会があったにもかかわらず、硬直的に政策や計画を継続してきたのは、独立した立場からの総合評価(見直し)がされてこなかったからだ。

 

 ◇必要な独立評価機関

 

 今必要なのは、賛成や反対の立場を超え、客観的な情報に基づいた、公正で透明性の高い独立評価機関である。例えば、欧米には国会(議会)に、不偏不党の立場で技術の社会影響評価を行う技術評価機関が存在する。また、各国には科学アカデミーのように、政府とは独立した立場で科学的、客観的に政府の政策や計画を総合的に評価し、提言する機関が存在する。

 日本では科学者の政策提言機関である日本学術会議もそのような役割を果たしうる。特定目的として政府や国会にそのような調査委員会を置くことも可能だ。国会に設置された福島原発事故調査委員会もその一例である。従来の開発や政策の当事者による評価だけでは、国民の信頼は得られない。早急に、第三者による総合評価が求められている。(了)