2016年

2月

16日

経営者:編集長インタビュー 小林久之 ミマキエンジニアリング社長 2016年2月16日号

小林久之 ミマキエンジニアリング社長

◇「水と空気以外何にでも印刷できる」

 

 長野県東御市に本社を置く業務用インクジェットプリンターの世界トップメーカー。本体、インク、ソフトウエアを独自開発している。2016年3月期の業績見通しは売上高494億円(前期比5・9%増)、営業利益31・5億円(同29・9%減)だ。

 

── 業務用インクジェットプリンターについて教えてください。

小林 当社が扱う商品は、屋外広告用のサイングラフィックス(SG)、布地用のテキスタイル・アパレル(TA)、工業製品用のインダストリアル・プロダクツ(IP)の3分野があります。インクジェットプリンターを使えば、塩ビ、プラスチック、布、金属、ガラスなど身の回りのあらゆるものに印刷することができます。象徴的に言えば、水と空気以外は何にでも印刷できるわけです。

 具体的には、東京の街を彩る看板や標識の多くが当社製品でプリントされていますし、ファストファッションの世界的ブランドも当社製品を使って商品にプリントしています。「何にでも」の範囲を広げることで、可能性は無限に広がります。

── 家庭用との違いは?

小林 業務用は家庭用とはまったく違うものです。コピー用紙やはがきに印刷する家庭用は家電量販店で1万円台からありますが、当社製品は100万円台から1500万円台まで多様で、四畳半ぐらいのものにまでプリント可能です。

── インクジェットの強みとは。

小林 オフセットやグラビアなど数ある印刷技術の中で、唯一非接触なのがインクジェットです。デコボコしたものや立体にも印刷できるという他にはないメリットがあります。

 加えて、在庫リスクの回避と環境面のやさしさも重要です。他の印刷技術は、まず版を作る必要があり、一度版を作ったら大量に印刷しないと1枚当たりの単価が下がりません。また、使用済みの版に残ったインクを洗浄する際に大量の廃液が出るため、地球環境への負荷がかかります。

 その点、インクジェットは版が不要で初期費用が少なく、1枚でも1000枚でも単価は同じ。必要な時にすぐプリントできるので在庫リスクも少なく、デジタルオンデマンド生産で納期を大幅に前倒しできます。このように、インクジェットは多品種少量生産をかなえる印刷技術であり、個別の要望に対応できるため、使い方によって原価の数倍もの付加価値を生むことが可能です。

 

 ◇多様な独自インクに強み

 

── インクビジネスの特徴は。

小林 消耗品のインクは、顧客開拓に非常に重要であり、売上高の3割超を占めます。当社は用途に合わせた機能性インクを独自に開発しており、業務用で当社ほど多様なインクを持っている企業は他にありません。

 ただ、当社のプリンター向けに別メーカーが開発した「非純正インク」との戦いによるシェア拡大は課題です。家庭用は通常、本体価格を低くしてインクで稼ぐビジネスモデルですが、業務用はそうはいきません。インク価格は顧客のランニングコストに直結するものであり、本体とインクの利益率はほぼ同じです。

── 足元の市場環境は?

小林 今年度は為替の影響や中国経済減速の影響でSGやTAが苦戦し、増収減益の見通しです。特に中国では、人件費の高騰で繊維や縫製工場が中国から東南アジアに移転したことがTAが落ちた要因です。とはいえ、中国の需要が減っても、移転先のインドネシアやベトナムなどでは伸びるわけで、そこにビジネスチャンスがあると見ています。

 SGは広告宣伝で景気の影響を受けやすく、減益要因です。ただ、IPは工業製品で純粋に内需であり、中国でも右肩上がりを維持しており堅調です。

── 海外戦略はいかがですか。

小林 海外売上高比率は約75%で、そのうち欧州が30%、次いでアジア・オセアニアが20%、北米は15%です。北米比率が低いため、テコ入れしている最中です。

 製造拠点はプリンター本体は中国・浙江省で安価なモデル、長野県で付加価値が高い上位モデルを作り分けしており、インクはそれに加えて台湾でも生産しています。当社の製品は、ショールームに来ていただきプリントを見てから購入していただくものです。サービス拠点は海外9カ所、国内14カ所に設けています。昨年は、インドの販売子会社が業務を始めました。

── 3Dプリンターの開発も進めています。

小林 まだ試作段階ですが、来年度中の製品発売を目指しています。特長は、造形とフルカラー着色を同時にできること。高精度で微細加工が可能であり、この技術では当社が世界トップだと思っています。技術的には、大型化してヒトの等身大を作ることも可能になります。

── 中長期の業績目標は。

小林 売上高500億円企業を目指しており、早ければ今年度にも達成できる見通しです。その先のステップとして、中長期的に1000億円企業を目指しており、今後10年未満のできるだけ早い段階に達成したいと考えています。

 そのために、世界の各エリアで市場トップシェアを取ることが目標。特にインクで非純正からシェアを取ることができれば、本体の台数を増やして消耗品ビジネスを享受できます。これが継続的な安定成長のための大きな要素になるでしょう。

                                                                   Interviewer 金山隆一・本誌編集長 構成 秋本裕子・編集部

 

 

■横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 半導体関係、自動化設備関係の会社を経て入社したのは31歳の時。図描機の開発から始まり、今に至るまで当社が発売した製品のほとんどの開発を手がけてきました。

Q 最近買ったもの

A 自宅は信州にあり冬はとても寒いので、自宅用のまきストーブを買いました。

Q 休日の過ごし方

A 写真が好きで、風景などを撮ります。最近撮るのは孫の写真ばかりですが(笑)。

 

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■人物略歴

こばやし ひさゆき

長野県出身。国立長野高等専門学校卒業、1978年芝浦工業大学卒業。半導体関連会社などを経て、84年同社入社。専務兼米国販売子会社社長、副社長技術本部長、副社長生産本部長兼中国製造子会社社長などを経て、2012年から現職。62歳。

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年2月8日

週刊エコノミスト 2016年2月16日号

 

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