2016年

3月

01日

ワシントンDC 2016年3月1日号

 ◇大統領選を左右する草の根運動と「怒れる白人」

 

及川 正也

(毎日新聞北米総局長)

 

 4年に1度の米大統領選が始まった。民主、共和両党が大統領候補を決める指名獲得レース序盤の中西部アイオワ州と北東部ニューハンプシャー州を、筆者は8年前に続いて訪れ、取材した。国民が主役を演じる「草の根民主主義」の現場は相変わらず熱気にあふれていたが、その主役たちは大きく変わった。

 2月1日夜、アイオワ州の州都デモインのプレスセンターで発表された大ニュースの一つが、共和党では史上空前の18万人という党員集会参加者数だった。2008年の「オバマ旋風」時の民主党(約24万人)には及ばなかったが、今回は、約17万人だった民主党を上回り、共和党の盛り上がりぶりを裏付けた。

「グラスルーツ(草の根)の勝利だ」。共和党保守強硬派のテッド・クルーズ上院議員(45)は、勝利演説でこう称賛した。草の根の中核となったキリスト教右派は運動量に富む「選挙マシン」だ。クルーズ氏は1万2000人のボランティアを動員して「史上最大規模のローラー作戦」を展開。勝利につなげた。

 戸別訪問が重要な集票手段の米国では、2人1組のボランティアが、地域の家を一軒ずつ回り、支持を訴えるのが日常の風景だ。「いかに心証を良くし、熱心に訴えることができるか。1日に何百件の電話や戸別訪問をするには、熱意がなければできない」と経験者は語る。

 選ぶ側も熱心さでは負けない。筆者がニューハンプシャー州のホテルにチェックインした際、フロント係が電話で「満室です。予備選でどこもいっぱいですよ」と断っていた。候補者の陣営やメディアだけでなく、州外から多くの人が候補者の集会に押し寄せるためだと教えてくれた。

 7日のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(63)の演説会では、近くの東部ペンシルベニア州やニューヨーク州のほか、カナダから来た人にも出会った。候補者は、序盤に選挙が行われる州を集中して遊説するため、他の州の有権者はほとんど肉声を聞くことができない。近隣州で行われる候補者集会は、願ってもないチャンスというわけだ。

 

◇白人の危機感

 

「草の根」は米国民主主義のエンジンだ。08年の大統領選では、「新たな米国」を夢見て希望を抱いた黒人ら人種的少数派や若者の支持が、オバマ大統領の誕生につながった。しかし今回の主役は、党派を超えて既存政治に不満を持つ「怒れる白人」たち。それが炸

裂(さくれつ)したのが、2月9日のニューハンプシャー州予備選だ。

「世界は再び我々に敬意を表するだろう」。共和党予備選に勝利した不動産王ドナルド・トランプ氏(69)は9日夜、こう強調した。「メキシコ人は犯罪者だ」「イスラム教徒の入国禁止を」といった差別的な物言いへの批判を、ものともしない態度は、「中央政治への不満を持つ共和党の白人層」から強い支持を得ている。

 民主党予備選に勝利したバーニー・サンダース上院議員(74)は若者に人気があるが、トランプ氏と同様に「白人男性、政府への怒りが強い人」が支持している。国の基礎を築き、繁栄をもたらした白人は、今後約30年で少数派に転じる。教育や雇用で権益を守ってくれる、無謀でも破壊力のある政治家を求めているのかもしれない。

 だが、「主流派対非主流派」の対立は今に始まったことではない。黒人初の大統領オバマ氏(08年)、かつて異端とされたモルモン教徒初の共和党大統領候補ロムニー氏(12年)……。既存の殻を破り、政治の土俵を広げたのは常に非主流派だ。「政治熱」が高まる米国。草の根の主役が代わっても、この潮流は変わらないだろう。(了)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

 

発売日:2016222

週刊エコノミスト 201631日号

 

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