2016年

3月

01日

農協猶予5年:農協金融改革 剣が峰に立たされた農林中金 2016年3月1日号

 

 ◇「農業」から遊離した都市農協

 

花田 真理

(ジャーナリスト)

 

 農林中金はいらない──。

 1月14日、自民党の小泉進次郎農林部会長の発言が農協関係者に衝撃をもたらした。小泉氏の発言の趣旨は、「JAバンク」の中央機関である農林中央金庫の貸出金残高のうち、「農業の融資に回っている比率が0・1%しかない」ことを問題視して、その融資姿勢を批判したもの。「農家のためにならないのなら農林中金はいらない」と、不要論をぶち上げた。

 ◇本業は住宅ローン

 

 小泉氏が批判する農林中金、ひいては農協の信用事業の実態は、政府を昨年の農協改革へと突き動かした農協問題の根源だ。そもそも農協の役割は、農協法で定められている通り、「農業生産力の増進」と「農業者の経済的、社会的地位の向上」を果たすことにある。

 しかし、都市部や郊外の農協では、農業との関わりが希薄になる一方で、非農家である准組合員を対象とした信用事業の収益拡大に血眼になってきた。こうした農協が准組合員の貯金集めや住宅ローンの獲得に奔走した結果、准組合員の数が爆発的に増加。2009年に正組合員数を上回ると、その差は瞬く間に拡大した。農協全体の収益構造を見ても、信用事業の収益を伸ばすことによって、農業関連事業の赤字や先細り状態にある共済事業の減収を補う構図が鮮明化している。

 一方で、農業者への融資は減少の一途をたどる。農協の信用事業の総称がJAバンクだ。まず各地域の農協(地域農協)に集められた95兆円の貯金を運用原資として、地域農協が貸し出しなどを行う。そこで余った資金が、都道府県単位の信用農協連合会(信連)や農林中金に預けられ、地域農協に代わって運用する構造になっている(図)。

 農林中金には、こうした資金を元手に100兆円もの運用資金があり、そのうち約20兆円が貸し出しに回っているが、貸出残高に占める農業向けの貸し出しは、小泉氏が指摘するように0・1%にすぎない。農協サイドは「農業向け貸し出しは地域農協が行っている」と反論するが、JAバンク全体で見ても農業向け貸出残高は1・9兆円にとどまる。JAバンク総資産額151兆円のわずか1・2%だ。


 JAバンク本来の役割を考えれば、地域農協が集めた貯金は農業者や農業の発展のために活用されなければならない。ところが実態は、准組合員向けの住宅ローン貸し出しに精を出し、余った資金は農林中金がグローバルマーケットで運用する「金融集団」と化している。とりわけ都市部の農協では、准組合員に対する金融サービスが半ば「本業」と化し、銀行や信用金庫と変わらない実態が浮き彫りになっている。

 例えば、川崎市を営業地盤とするJAセレサ川崎。貯金量1兆3500億円は、第二地銀41行と比較しても中堅クラスだ。15年9月30日現在、6万2827人いる組合員のうち、准組合員数は5万7069人で9割を超える。正組合員の多くも、政府が定める農家基準(耕地面積10アール以上または年間農産物販売額15万円以上)を満たさない家庭菜園的な農家や、不動産事業を営むいわゆる「地主」だ。昨年度の事業収益192億円のうち、農業関連事業収益はわずか6億円。信用、共済の金融事業が全体収益の91・5%を占めている。

 

 ◇さまざまな特権

 

 もはや「農協」とはいえない実態を踏まえ、規制改革会議は14年5月、農協改革を提言した。なかでも踏み込んだ提言が、「准組合員の利用制限」。准組合員の総事業利用規模を正組合員の2分の1以内とし、農協本来の姿を取り戻す狙いだ。……

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この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016222

週刊エコノミスト 201631日号

 

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