2016年

3月

08日

経営者:編集長インタビュー 中村吉伸 セイコーホールディングス社長 2016年3月8日特大号

◇「スイスに並ぶ世界の高級ブランドへ」

 

── 高級時計が売れています。
中村 商品と流通、広告宣伝が三位一体となってうまく回転しています。国内市場が好調なところに、訪日外国人(インバウンド)の買い物需要が上乗せとなりました。
 当社は2012年に世界で初めてGPSソーラー時計(衛星から電波を受信して時刻を補正)、アストロンを発売しました。中心価格帯は20万~30万円で、それを機に消費者の目が高価格帯の時計に向かいました。
 流通では、グランドセイコーとクレドール、ガランテの三つの高級ブランドを扱う「セイコープレミアムウオッチサロン」を国内の百貨店や専門店に30カ所展開しています。
 広告宣伝はこれまで他社ほど投資していませんでしたが、ここ2、3年、力を入れています。
── なかでもグランドセイコーの人気は高いですね。
中村 針一本の磨きまで粋を極めた、実用時計の最高峰です。1960年の誕生から基本は変えていませんが、ようやく花開いてきました。
 14年にスイス・ジュネーブの時計グランプリで、日本の機械式時計では初めて「小さな針」部門賞を受賞しました。クオーツ時計で壊滅的な打撃を受けたスイスにとって、クオーツを開発したセイコーは許しがたい存在です。それが機械式時計で認められたのですから感動的でした。

── 携帯電話の普及で腕時計をしない人が増え、身に着ける情報端末、ウエアラブル端末も登場しました。
中村 時刻を知るだけだけなら、スマートフォンで十分です。時間を見るだけではない、プラスアルファを醸し出す時計を提供していきます。
 機械式の時計には200~300もの部品が入っていて、匠(たくみ)の技で調整すると命が入ったように動き出します。水深3000メートルでも動く気密性や正確に時間を計るストップウオッチは、実際にその機能を使うわけでなくてもワクワク、ドキドキ感があります。当社は「時代とハートを動かす」をスローガンに掲げています。精度を極めたものを身に着ける喜びを追求していきたい。
 今、若い人の半分は時計をしないそうです。それがウエアラブル端末で左手に何かを巻く習慣ができれば、いいものを着けたいという気持ちも生まれてくるでしょう。グランドセイコーは若者が買って伸びています。ウエアラブル端末は脅威だけではなく、チャンスでもあります。
── 海外展開はどうですか。
中村 海外ではまだセイコーに高級時計のイメージはありません。でも、製品や開発力ではスイスのメーカーに負けていないという自負があります。スイスのシェアを崩していきたい。海外でのブランド価値を高めようと取り組んでいます。
 実際に時計を手にとってもらうため、直営の路面店をはじめセイコー専門店を増やしています。欧州・アジアを中心に60数店舗に達しました。一昨年には米国に初出店しました。

 

◇半導体でM&Aも

 

── 電子デバイス事業の拡大は時計のイメージからすると意外です。
中村 源流は腕時計の加工組み立てにあります。時計は細かな部品から成り立っています。微細加工技術を培い、元の工作機械から作ってきました。時計が進化するにつれて生み出された水晶振動子やマイクロ電池、半導体、精密加工機械を外販するようになりました。電子デバイス事業の売り上げはホールディングス全体の3割強を占めます。たとえば水晶振動子はクオーツ時計で使われる部品ですが、いまやパソコンやカーナビなどさまざまな電子機器に欠かせません。
── 半導体を分社化しました。
中村 半導体は電子デバイス事業の主力で、安定した品質が要求される車載部品として採用される技術力があります。分社化した「エスアイアイ・セミコンダクタ」が1月に事業を開始しました。日本政策投資銀行が共同出資し、M&A(合併・買収)の可能性もあります。ずっと自前でやってきた当社としては今までにない決断です。
 今は300億円程度の売上高ですが、他社の力を借りながら、アナログ半導体で世界の5本の指に入る存在となることが目標です。将来的には上場します。
── どのように伸ばしますか。
中村 医療やエネルギー、先進運転支援システムを備えた車、介護向けをはじめとしたロボットといった需要拡大が見込まれる市場に展開していきます。これらの分野ではアナログ情報を取り込んでデジタルに変換するセンサーが使われます。当社の部品で貢献できれば幸せです。
── 時計、電子デバイスに続く第三の柱として、システムソリューションを挙げています。
中村 ソリューション事業も時計の生産管理から生まれ、外販するようになりました。タクシーの無線端末でクレジットカードを読み取り、センターで決済処理するシステムや、飲食店で注文を端末から入力し、集約するシステムを開発しています。専用端末だけでなくスマートフォンでも操作したり、電子マネーや多通貨カード決済にも対応したりとさまざまな展開があります。
── 今後の目標は。
中村 長期的な数字を口にするのは簡単ですが、半導体を分社化し、事業のポートフォリオ自体を変えています。常に時代をリードする先進性と革新性をもって、期待を超える製品やサービスを提供していきます。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 目覚まし時計を作りたくて入社したのに、好きではない経理で大変な思いをしていました。生意気な社員でしたから上司は扱いづらかったことでしょう。
Q 最近買ったもの
A 木彫りの招き猫をデパートで衝動買いしました。左手を上げています。右手は金運を、左手は人を招くそうです。
Q 休日の過ごし方
A 庭をいじったり、散歩をしたりしています。ほっとしますね。
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 ■人物略歴
 ◇なかむら・よしのぶ
 千葉県出身。市川学園高校卒業、1972年慶応義塾大学工学部卒業。同年精工舎(現・セイコークロック、セイコープレシジョン)入社。セイコープレシジョン取締役、セイコークロック社長などを経て、2012年から現職。66歳。

この記事の掲載号

定価:670円(税込み)

発売日:2016年2月29日

週刊エコノミスト 2016年3月8日特大号

 

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