2016年

4月

12日

ワシントンDC 2016年4月12日特大号

◇車利用の減少目指し石油に課税

◇ガソリン安で効果に疑問符

 

堂ノ脇 伸

(米州住友商事会社ワシントン事務所長)

 

環境対策を重視するオバマ大統領は、「21世紀型クリーン交通システム」に関する政権プランを2月4日に公表した。その骨子は、石油1バレル当たり10㌦の支払いを石油会社に課し、これを米国における新たな交通インフラの建設資金に充てようというものだ。

 現在、米国で発生する温室効果ガスの約3割は、自動車を含む運輸セクターに由来する。この削減を目標に、石油会社への新たな課税で得られる年間約320億㌦(3・6兆円)を、公共交通機関の充実や、自転車・歩行者を優先した道路インフラの整備、高速鉄道計画の推進、自動運転を含む電気自動車などの開発に役立てたいとの考えだ。

 化石燃料を消費する自家用車の利用が、環境にやさしい公共交通機関や自転車、高速鉄道などの利用に転じれば、全体の二酸化炭素排出量も削減されるだろう、というのが政権側のもくろみだ。研究開発で新たな雇用を創出するメリットも見込む。

 環境問題と市民のアクセシビリティー(利用しやすさ)を重視し、雇用も創出するというのは、いかにもオバマ政権らしい考え方である。だが、政策面で対立する共和党をはじめ、石油業界・自動車業界からの反発は必至であろう。同じタイミングで政権が議会に提出した予算教書にも、この新たな石油課税が反映されているが、共和党議会は当然のことながら、これを全く取り上げていない。

 オバマ政権は就任当初から、一般市民による公共交通機関の利用や、自転車・歩行者の利便性を重視した交通インフラの充実を目標に掲げている。政権前期のラフッド前運輸長官も、従来の自動車社会を前提とした財政支出から、代替交通プロジェクトの推進を重視した予算配分に変える方針を打ち出していた。

 これには、当時の一般市民による自動車離れという状況も少なからぬ影響を与えていた。金融危機直後の不況期、ガソリン価格の高止まりもあって、一般市民の自家用車の走行距離は、総じて頭打ちから短くなる傾向にあり、低燃費車が注目された。また、若者の自動車離れの進行に加え、「カー・シェアリング」の普及などによって、個人の自家用車の所有率も下がる状況にあったのだ。ニューヨークやワシントンの都市部などで定められた駐輪場なら、どこでも乗り捨てできる「バイク(自転車)・シェアリング」が導入されたのも、この時期である。

 

◇車の走行距離は過去最高

 

 ところが、昨今の資源価格の下落と、これに伴うガソリン価格の急落によって、一般市民のマインドは再び変化しつつある。米運輸省傘下の連邦高速道路局の統計調査によれば、2015年の米国人による自家用車での総走行距離は3兆1480億マイルに達した。これは過去最高と言われた07年の3兆30億マイルを上回る。同統計によれば、自家用車による走行距離は14年3月以降、毎月連続して前年同月を上回るペースで推移。この傾向は今後も続く可能性が示唆されている。

 新車の販売を見ても、燃費を重視したハイブリッド車ではなく、相対的に大型のスポーツタイプ多目的車(SUV)やピックアップトラックが好調な売れ行きを示している。ガソリン価格の下落とともに、一般市民は再び移動手段としての車の利用に回帰しているのだ。

 オバマ政権としては、環境重視型の交通システムこそ21世紀型のあるべき姿として政策を推進したいところだろう。だが、長きにわたって車社会に慣れ親しんできた一般市民のマインドを変革し、賛同を得ていくのは、そう簡単ではなさそうだ。