2016年

4月

04日

特別寄稿:資本主義の終焉 マイナス金利の真実=水野和夫 2016年4月12日特大号

◇国民の金融資産を目減りさせ                       ◇ 国の借金を減らす恐ろしい時代に突入

 

水野和夫

(法政大学教授)

 

 日本銀行の黒田東彦総裁が、2%の物価上昇を目指して量的・質的金融緩和(異次元緩和)を導入してから丸3年が経過した。だが、いまだその目標は実現しないばかりか、まるで逃げ水のように遠のくばかりだ。

 

 ◇利子は1215年、ローマ教会が公認

 

 そこで日銀は1月29日、前代未聞のマイナス金利の導入を決めた。

 すなわち、「民間銀行が日銀に預ける当座預金金利をマイナス0・1%にすることで、短期から長期までの金利全般を押し下げ→貸出金利の低下→企業や個人の投資や消費を促し→景気回復→物価上昇」というシナリオの実現をもくろむ。

 ◇反民主主義

 

 確かに黒田総裁のもくろみ通りに金利は低下し、2月9日に初めて長期金利(10年国債利回り)がマイナスになる事態が発生した(図1)。

 しかし、私は黒田総裁の意図とはまったく逆に、国民はマイナス金利という劇薬の前に大きな不安を抱き、生活防衛に走ると思う。事実、自宅などに現金を置こうと、金庫が売れている。この国民の防衛本能は、マイナス金利が意図するもう一つ別のもくろみを見透かしている証拠ではないか。

 別の意図とは、マイナス金利を通じて国民の金融資産を目減りさせながら、国の借金を減らすという恐ろしい事態を指す。つまり10年国債利回りがマイナスになったことで、マイナス金利政策は実質的に金融資産課税に等しい。課税は本来国民の代表である国会議員が国会で決めることであるはずなのに、選挙で責任を取ることのない日銀が行っているという点で、民主主義に反する。

 これまで国債の暴落(金利急上昇)に伴うハイパーインフレが、日本の財政破綻につながり、国民経済に甚大な被害をもたらすと、多くの学者やエコノミストが警鐘を鳴らしてきた。だが、現実には国債の暴落ではなく、マイナス0・1%というわずかなマイナス金利(今後マイナス幅の拡大はあるだろうが)、つまり国民の金融資産課税でジワジワと時間をかけて、近代資本主義が生み出した過剰ストックと債務を強制的に調整する局面に入った。日本人は世界に先駆けて資本主義の終焉(しゅうえん)に直面し、それをみとることになる。

 

 ◇貨幣は石から種子に

 

「資本主義の致命的な欠陥は、過剰を止められないことだ」──。『資本論』で資本家の搾取こそが利潤の源泉と見抜いていた19世紀の思想家カール・マルクスは、資本主義の本質をこう喝破した。

 資本とは「お金(貨幣)を生み出すお金」のことをいう。お金そのものは資本ではなく、銀行に預けて利子や株式に投資して配当を受けることで初めて資本となる。そして、お金を最も効率よく増やすシステムが資本主義だ。

 だが、資本主義は人々の強欲と結びつき、際限なく拡大し、膨張を続けてしまう。その結果、生み出す過剰を止められず、バブルの生成と崩壊を繰り返す。「供給が需要を生み出す」といったプラス成長の時代は終わった。需要をはるかに上回る供給過剰が長期のデフレを発生させることを日本が証明した。

 マルクスは、こうした資本主義が持つ致命的な欠陥をいち早く見抜いていたのだ。

 この資本主義の始まりは、13世紀の欧州・イタリアにさかのぼる。それまでキリスト教が禁じていた利子の受け取りが正当化されたことが契機となった。1215年ローマ教会が利子を公認し、貨幣(お金)は、「何も生み出さない石から果実をもたらす種子」に変化した。………

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