2016年

4月

05日

特集:世界史に学ぶ金融政策 異次元緩和3年 黒田総裁の七つの誤算 2016年4月5日特大号

 ◇【Part 1】黒田緩和と歴史の教訓

 ◇2%のインフレ率達成を阻む

 

福田慎一

(東京大学大学院経済学研究科教授)

 

 日銀が今年1月末にマイナス金利政策の導入を発表してから、約2カ月がたった。市場の混乱は足元では落ち着きを見せているとはいえ、これまでのところ「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は目立った成果を上げられずにいる。一部には金融政策の効果に対して限界説もささやかれるなか、黒田東彦総裁の下で開始された異次元の金融政策はここにきて大きな転機を迎えつつあるといえる。

 黒田総裁が量的・質的金融緩和を開始したのは、約3年前の2013年4月であった。この異次元の政策の大きな特徴は、日銀が供給するマネタリーベースを2年間で2倍とすることを軸に、2年間で2%のインフレ目標を目指したことである。これまでとは違う政策であるという「レジームチェンジ」を印象付けることで、将来の金融政策についての予想を強力にコントロールし、人々のインフレ予想に働きかけることを目的としていた。

 異次元の金融緩和の導入によって、まずは市場環境が大きく改善し、外国為替市場では一気に円安が進行した一方、株価は大幅に上昇した。また、これを受けてマクロ経済環境も徐々に改善を見せ始め、09年から4年連続してマイナスであった消費者物価(生鮮食品を除く)の上昇率(前年比)は13年6月以降、プラスに転じ、同年11月には1%を超えた(図1)。

 だが、当初は着実に思われたマクロ経済環境の改善は、消費税率が引き上げられた14年4月以降、足踏みを続けている。とりわけ、上昇を始めていたインフレ率は、同年4月以降、(消費税の影響を除けば)鈍化が顕著となり、昨年7月からは消費者物価(生鮮食品を除く)の上昇率(前年比)は4カ月連続でマイナスになった。日銀が量的・質的金融緩和の導入時に掲げた2年間で2%のインフレ目標は、導入から3年近くがたった今もその実現への道は険しいままである。

 

 ◇数々の誤算が重なる

 

 もっとも、異次元の金融緩和の効果は、当初から良い意味でも悪い意味でも、日銀が描いていたシナリオとは異なるものであった。

 まず良い意味での誤算は、為替レートと株価の大きな変化である。大胆な金融緩和を行えば、ある程度の円安と株高が期待できることは従来から知られていた。しかし、実際に起きた円安と株高は、通常の経済理論で想定されるものよりもはるかに大きく、急速なものであった。

 15年5月に日銀が発表した「日銀レビュー」でも、量的・質的金融緩和の導入から14年末までの変化は、株価が約2倍、為替相場が約3倍、日銀のマクロ計量モデルが想定したものより大きかったと述べている。この良い意味での誤算は、企業収益を大幅に改善すると同時に、需給ギャップを縮小させ、当初はインフレ率を高めることに貢献した。

 その一方、悪い意味での誤算は、………