2016年

4月

05日

第31回 福島後の未来をつくる:大林ミカ 自然エネルギー財団事業局長 2016年4月5日号

 ◇おおばやし・みか

 1964年大分県中津市生まれ。環境エネルギー政策研究所副所長や駐日英国大使館、国際再生可能エネルギー機関(アブダビ)勤務などを経て、2011年8月より自然エネルギー財団の設立に参加し現職。

 ◇志半ばの電力システム改革だが自然エネはまだまだ普及する

 

 東京電力福島第1原子力発電所事故(福島原発事故)から5年を経ているが、日本のエネルギー問題は混沌(こんとん)としている。政府は2015年7月に、30年の電源構成を決定した。原子力比率は20~22%、石炭火力は26%という、旧態依然とした構成だ。福島事故は収束していないにもかかわらず、原発の再稼働が進められ、稼働後に九州電力が免震重要棟を撤回するなど、電力会社の信義違反が起きている。ほかの先進国では、原子力が高コストで停滞し、石炭への投資の撤退が始まる一方で、自然エネルギーが飛躍的に拡大し、存在感を増している。昨年15年の世界の風力・太陽光発電の導入はそれぞれ6000万㌔㍗程度、合わせて1億2000万㌔㍗以上にもなる。風力の設備容量はすでに原子力を超え、太陽光も、もうすぐ超えることだろう。この背景にあるのは、自然エネルギーのコストが低減し続けているという事実だ。そして、このような世界的な趨勢(すうせい)から、日本は取り残されてしまっている。


 ◇独占から新たな世界へ

 

 海外では途上国も含めて、過去20年間、エネルギー分野でさまざまな改革や革新が進んできた。発送電の分離による送電網の公正な運用、自然エネルギーの拡大、省エネルギー技術の進展、炭素排出に価格をつける排出量取引などのカーボンプライシング、これらを市場にも組み合わせる政策手法の導入などだ。エネルギー分野での技術革新と情報技術の進展が政策の実現を大きく後押しした。他国の進展を無視してきた日本は、震災と福島原発事故に直面し、急激に新しいエネルギーシステムの構築を迫られている。電力システム改革は進みつつあるが、短期間で原発の停止と固定価格買い取り制度(FIT)の導入による太陽光発電の飛躍的な増加などが起きているた

め、政策も統一されておらず新しい制度が追いついていない。

 日本を見回すと、古い独占体制が残っている公益的民間事業の筆頭として、電気事業分野が挙げられる。独占市場が開かれていくことで、新しい経済・産業が生まれ、日本全体の活性化につながっていく。すでに欧米では、電力システム改革を経て、硬直的な従来の産業構造から、より柔軟な電気事業へと、新たな社会・システム・産業が構築されつつある。その結果、古くは馬車から車、大コンピューターからパソコン、固定電話から携帯電話へと進んだように技術革新と効率化が急速に進んでいる。その過程では当然敗者も出てくる。自然エネルギーへの投資に乗り遅れた欧州の大手電力会社などである。

 エネルギーを国に流れる血脈とするなら、流れる血が、環境負荷を与えず将来に大きな負の遺産を残さないものでなくてはならない。海外の化石燃料やウランに依存する大規模な既存エネルギーから、分散型で環境に負荷を与えない国内エネルギーへ転換しなければならない。他国が自然エネルギーの高い目標値を掲げているのは、エネルギー安全保障、気候変動、経済の観点から、費用ゼロの自然エネルギー開発をすることが、もっとも効率的だからだ。

 電力システム改革の目指すべき方向は大きく二つある。一つは既存の大手電力会社が所有する発送電の分離だ。東京電力は16年から、他の電力会社は20年から法的分離が導入される。今まで電力会社は、発電と送電を一体的に形成・運用してきたが、今後は送電を中立的に運用していくことが求められる。発電分野では電力会社の自社発電設備を優先することなく、すべての事業者が公正な市場で競争できる仕組みをつくる。現在は地域間送電線も原発や大型火力の10年前からなどの長期契約が多く占めているが、地域間・域内とも、送電設備の拡充とともに、既存の送電網をより効率的に運用していく制度(送電容量を市場で取引するなど)の整備が火急である。

 もう一つは自然エネルギーの導入拡大である。欧米の国際会議等で、日本では自然エネルギー電気をやめて原発や石炭の電気を優先するという事実を話すと、驚くエネルギーの専門家が多い。日本のような高い技術を持つ先進国が、そのような状態だとはにわかに信じられないのだ。先の発送電分離の重要性にもつながるが、今、世界で起きていることは、コストが下がり、拡大する自然エネルギーの系統統合を行うために、より「柔軟性」を持つ送電網運用を進めていくことである。

 今年16年4月から、日本では小売り分野が全面自由化され、ほぼ初めて、一般家庭でも電力会社を選ぶことが可能となる。しかし、諸外国で行われているような、自然エネルギーが購入できる仕組みはまだ整っていない。今年4月から自由化される電力小売市場には200社を超す事業者が参入し、宣伝合戦が始まっているが、価格競争だけでは、持続可能でコスト効率的な健全な市場は育てられない。自然エネルギーの量が少ないこともあるが、より一層消費者の選択を難しくしているのが、電力源や送電網などの情報公開の不十分さだ。他国で当然のように行われている、電源表示の義務づけや、第三者が検証できる送電網情報の公開が必須である。

 ◇現状維持は未来を犠牲にする

 

 国際的にみれば、太陽光はここ5年で8割ものモジュールコストの低下を実現し、風力は、ドイツや英国やデンマーク、米国、ブラジルで、すべての発電のなかで最も安くなった。すでに多くの国で、化石燃料の発電所と自然エネルギーが競合している。日本も、諸外国に比べればまだまだ高いが、FIT導入後、太陽光の価格低下が続いている(図1、2)。

 しかし、いま日本の自然エネルギーはFITバブルなどと言われ、太陽光のみが急速に伸びている。しかし、実は、そのほかの自然エネルギーのFIT価格も海外に比べると2倍、3倍と高水準だ。つまりは、買い取り価格の高さだけが太陽光の伸びの原因ではなく、送電網接続(系統制約)や土地制約など、自然エネルギーの拡大を阻むハードルが太陽光は比較的低かったからである。つまり、これらの阻害要因を是正していけば、太陽光以外の自然エネルギーの拡大の可能性が大きく増える。

 国際再生可能エネルギー機関が16年1月に発表した報告書によれば、2030年までに世界のエネルギーに占める自然エネルギーの比率を現状2倍の36%まで引き上げれば、世界で約152兆円の経済効果を生み、経済成長を最大1・1%押し上げる効果がある。大気汚染や気候変動への対策費が軽減でき、最大で年間約470兆円の節約になるという。特に日本では国内総生産(GDP)を最大3・6%押し上げる効果があり、その上化石燃料の輸入が減り、貿易収支の改善にもつながるという。

 今こそ、政府は電力システム改革の進展と自然エネルギーの普及に向けた課題のあぶり出しに全力で取り組むべきである。他国にできて、日本にできないはずはない。日本は、ウランや化石燃料に依存している限りは資源小国だが、自然エネルギーの可能性をみれば、むしろ、先進国でもめずらしい資源大国となる。(了)