2016年

4月

12日

第32回 福島後の未来をつくる:寿楽浩太 東京電機大学助教 2016年4月12日特大号

 ◇じゅらく・こうた

1980年千葉県千葉市生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。博士(学際情報学)。東京大学大学院工学系研究科特任助教を経て2012年から現職。専門は科学技術社会学。13年から経済産業省の放射性廃棄物WG委員。

 ◇隘路に入り込む核のごみ処分

 ◇地道な社会的合意形成が必要

 

原発論議でしばしば論点になるのが核のごみの処分だ。専門的には高レベル放射性廃棄物(HLW : High Level RadioactiveWaste)の処分と呼ばれる問題である。政府と電力業界は現在、HLWを地下深くに埋設して最終処分する(「地層処分」と呼ばれる)「処分場の候補地を探す調査を受け入れる地域」を国内で探している。

 3段階で行われる調査には20年程度かかるとされ、その結果、不適と判断されることも十分にありうるから、言ってみれば現在はまだ候補地の候補地探しの段階だ。このプロセスは2002年に始められたが、今日まで調査を受け入れる地域は現れていない。

 


 政府はこの数年来、HLW処分に関する政策を見直し、取り組みの前進をはかっている。15年12月には、政府が16年中をめどに科学的有望地を示すことが関係閣僚会議により決定された。候補地探しの対象として科学的見地から最低限の見込みのある地域が、日本地図の上での塗り分けにより示される見通しだ。

 しかし、筆者は今後、事態が一層の隘路(あいろ)に入り込むことさえも懸念している。その理由は、政府や関係者がこの問題を原子力施設の立地問題と見なして対処するという基本的なスタンスを崩さないことと関係する。筆者がHLW処分問題の「立地問題化」と呼んでいる事柄だ。

 

 ◇原発立地の「成功体験」

 

 立地問題化は「核燃料サイクル」を掲げる日本の原発利用の方針と深く関わる。日本は原発の使用済み核燃料をそのまま廃棄せず、再処理工程を経て再利用する方針だ。原発から生じた使用済み核燃料の次の行き先は再処理工場であり、最終処分場ではない。

 実際にHLWとなるのは、再処理工場から出る高レベル放射性廃液を固めたガラス固化体だが、これは地層処分する前に30~50年程度、地上で保管して熱や放射能を減衰させる必要がある。現在、青森県六ケ所村にそのための施設があり、すでに相当量の保管が行われている。本格的な処分場が実際に必要になるのは、再処理工場が整備され、さらに冷却期間が経過した後の相当先の将来だ、というのがかつての原子力関係者の認識だった。

 日本最初の商用原発の運転開始からすでに50年以上が経過し、1976年にHLWを地層処分することを政府が決定してから40年の月日が過ぎた。「原発はトイレなきマンション」とも批判される。しかし、時間的猶予は十分あると考えていた関係者にとっては、対処の先送りは非合理的ではなかったのである。

 なお、この分野の先進国としてよく紹介される、スウェーデン、フィンランドの両国は当初から核燃料サイクルを行わずに使用済み核燃料をそのまま処分する「ワンススルー」の方針で原発を利用してきた。処分前の冷却期間はやはり必要だが、原発稼働とHLW処分がより直結している。実際、両国では原発の運転許可申請にあたってHLWの具体的な最終処分方法の記載が求められる。ちなみに、日本の全ての原発は、使用済み核燃料の処理方法として「全量を再処理する」旨を届け出て設置が許可されている。

 日本の原子力関係者は長いリードタイムの多くを技術開発に費やしてきた。丁寧な技術開発はもちろん結構だが、彼らは原発や他の原子力施設同様、技術を確立し、安全性を担保すれば、その後の処分場立地はそう困難ではないだろうと考えた節がある。彼らには原発立地の成功体験がある。技術的な安全を確立し、経済的な恩恵と抱き合わせにすれば、施設を受け入れてくれる地域は見つかる。広報や交渉のノウハウにも不足はない。立地問題となれば解ける、という自信があったのだ。

 実際、この十数年間続けられている現行の候補地探しのスキームは、広報キャンペーンと各自治体への働きかけ、内容面では原発以上に充実した交付金制度といった、原子力施設立地において一般的な要素で構成されている。

10万年超の隔離が必要

フィンランドの高レベル放射性廃棄物最終処分場「オンカロ」の入り口=2013年

 ◇対処への道筋を

 

 しかし、約15年を経過しても「立地問題」は解けなかったのである。

 原発のように短い時間に広範囲を高度に汚染するような爆発的事故は想定されにくいとはいえ、「10万年の安全」が課題となるHLWの処分には特別な難しさがある。想定する必要のある時間軸が長すぎ、安全確保の可否について誰も実証的に確定的な答えを示せない。科学頼みの安全の担保ができないのである。


 それゆえにさまざまな社会的・政治的・倫理的問題、見解の相違も生じる。それらは到底、立地問題の範疇(はんちゅう)には収まらない問題だ。

 答えを出すべきは、こうした難しさへの対処の道筋である。

 そもそも地層処分の方針を私たちは支持するのか。安全性についての専門家の議論に耳を傾けた上で、今の段階で地層処分場建設に向けて動くことを良しとするか、あるいはさらなる研究開発を待つべく当分の保管を行うよう方針転換をするか。

 技術的な不確実性や利害得失の評価も関係する。放射性物質の「核種分離・変換」による「減容・低毒化」が期待を集めているが、技術的ハードルは高く、別な種類の放射性廃棄物が出るほか、処理工程での事故リスクの問題もある。しかし、実現すれば超長期の放射能を持つ放射性物質を減らし、長期的なリスクをある程度下げられる可能性がある。研究開発を実施するのか。実施する場合はどのぐらいの時間や資金を割り当てるのか。きちんとした評価の上での判断が必要だ。原子力分野は大型研究開発が利権化してきた分野でもある。

 もっと言えば、核燃料サイクル政策継続の当否や原発利用の今後についても改めて社会の明確な合意を得ることが望ましい。各種世論調査の結果が示す原発利用への賛否は拮抗(きっこう)したままだ。原則論的な事柄についてしっかりした社会的合意がなければ、個別具体的な議論に入ろうとしても蒸し返しの水掛け論が延々と続きかねない。現状はその様相を呈している。この状態のままで立地問題を解こうとしても、賛成・反対の論争と関係地域での紛糾ばかりが続き、対処は前進しないであろう。

 スウェーデンでは1980年に段階的な脱原発が国民投票で決まり、現世代の責任による対処という倫理的な考え方に道理を与えた。フィンランドでは、旧ソ連崩壊後、ソ連から輸入した原発の使用済み核燃料を契約通りに返還してよいのかという問題がHLW処分への社会的関心を高め、政府の基本方針決定を後押しした経緯がある。

 両国がこの問題への対処で先行してきたのは、HLWを安全に処分するための技術開発、つまり、容器とか掘削とか放射性物質の漏洩(ろうえい)拡散の予測計算といった面だけではない。彼らから学ぶべきはむしろ、骨太な社会的合意の支えを得た上で技術や政策が示す選択肢をひとつひとつ選び取り、対処の道筋を整えてきた手腕と粘り強さである。

 政府がHLW処分政策を見直し、対処に本腰を入れること自体は歓迎すべきことである。しかし、依然として立地問題化の呪縛から抜け出られていない。日本の対処の道筋は本当に十分に社会的に議論され、合意を経て広く人々の支持を得ているのだろうか。

 幸か不幸か、この問題はあらゆる意味で時間軸が長い。前述のように、処分前の冷却は技術的理由で30~50年の歳月を要する。時間がないわけではない。今からでも、立地問題化への偏りを戒め、対処の道筋についての社会的合意を高めることに時間と労力を費やすことが必要であり、それは可能だ。